第8話 スマホ

 ひらがな表で解く……

 謎解きではよく有る解決法だ。他にはアルファベット順、こよみや曜日などのカレンダー順、時計など、誰もが知っている一覧表からの法則で解くものはある。


 勿論、アルファベット・英語で考えてもみたが『あ(a)』の上が分からない。


「あ、そういえば第3問って」

 ハルカは第3問を書き写したノートのページを捲る。

 慌てて乱暴に捨てて床に転がるシャープペンシルを握る。


 ――――――――――


【問題3】



 20 + 26 = カフェ


 11 + 4 = なべ


 3 + 5 + 8 + 7 = ???


 ――――――――――


 すぐ下にアルファベットを書いた。


『A B C D E F G H I J K L M N O P Q R S T U V W X Y Z』



「確かアルファベットは26文字だったから……いけるじゃん!」


 問題2のひらがな表はダメだったが、この発想が問題3でアルファベット順を使う事に繋がった。

 問題文の中で最大の数字が『26』。奇しくもアルファベットは全部で26文字だった。


「3がCで、4がDの5がE…」

 左から数えながら、最後の文字Zまでを抜き取る。するとこうなった。


 ――――――――――


 T + Z = カフェ


 K + D = なべ


 C + E + H + G = ???


 ――――――――――


 法則に従って変換はしてみたが……よく分からなかった。


「Tは『teaティー』で、Kは『kitchenキッチン』で、それぞれカフェとなべっぽいものは連想できんだけどね」


 手元に電子辞書はあったが、『Z』から始まるカフェにまつわる単語、『D』から始まるなべにまつわる単語、それに『C』『E』『H』『G』にまつわる単語…調べるだけで骨が折れそうだった。つまり、この方法では解けないとハルカは悟った。


「困ったなぁ……解けねぇな」

 床が固くて体勢がキツくなったのと、固まった身体をほぐす気分転換のため、ハルカは立ち上がり、少し周りを歩く。


 サキが言ってたことを思い出す。

「この法則が違うって分かったら、次試さないと。時間制限あるし勿体無いよ。そもそも方法が間違ってるって話だし、考えるだけ無駄」


 ――法則が違うのか


 頼れる頭脳は自分一人。使える知識は自分の頭と電子辞書。道具はノートとペン。

 気分転換に周りを見渡す。

 最初は何もない部屋だったのに、今は散らかっている。床に物が散らばり、落書きも。壁を見ると黒く塗りつぶされた所に文字が浮かぶ。


「『君のスマホの中にカギがある』って言ってもね…充電させろよ。ていうかネット使わせろよ」

 こんな時、サキやみんながいたら……きっとみんな、それに日本中の人の力を借りれば、流石にこの無駄な謎解きも直ぐに終わるのに……


「いや、もしかしたら……今だったらネット繋がるかも」

 気分転換がとにかく必要だった。ギュウギュウに詰め込まれた頭の中を一度空っぽにしたい。

 ハルカはスマホを拾った。


 メッセージアプリを開き、グループチャットに助けを求める。

 電池残量が少ないので、要点は簡潔に。


「えーっと、『ねーみんな…』」

 文章を考えながら文字を打つ。しばらくペンを走らせていたため、利き腕の指が重い。フリックする動作がキツい。

 普段はほとんど文字盤を見ずに打てるのに、誤入力が目立つ。慌てて文字盤を見る。

「『ね』ってどこだっけ…『な行』の右か」

「『わ』の右、『ま』の左…」声を出して確認しながら入力する。



 が、その時ハルカに電流走る。



「もしかして、スマホ入力か?」

 スマホ入力と言っているが、これは『フリック入力』のことだ。スマホを初めて手に入れた時から、この入力方法だったので、その入力の名前を『フリック入力』と呼ぶことをハルカは知らなかった。

 フリック入力。もはや日本のスマホユーザーにダントツで使われている入力方法だろう。『あかさたな』のテンキー形式で、『あ』の文字を左にフリック(弾く)と『い』になり、上にフリックすると『う』になったりと、『あ』の文字盤のタップ方法で『あいうえお』が全て入力できるものだ。ちなみにこれは前世代のガラケーのトルグ方式の名残だ。


 問題2を書き写したページをめくる。


 ――――――――――


 かや↓あ↑な↓あさ←たは


 ――――――――――


 この文字列の通りにスマホで文字を打つ。


『か』の次は『や』の下をフリックした『よ』…


 ――――――――――


 かようのあしたは


 ――――――――――


 ご丁寧に左下の予測変換に適切な漢字も表示された。




 ハルカはそのまま『脱出アプリ』を開き、問題3に答えを入力する。


「水曜日。4文字だから、ひらがなで『すいよう』ね」




 画面が切り替わり、『正解』の文字が表示された。

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