第6話 おにぎり

残念ながら、ここは机も椅子も無い空間。

謎解きの為の体の姿勢は、リュックを枕がわりにしたうつ伏せスタイルになった。



問1「rice ball in mouth」これはどこか?、答えは4文字。


「ここは私一人だし、ズルしてもいいっしょ」


ハルカは見た目こそギャルではあるが、学校の成績は中の下くらい。

高校に入ってからはが弾け、こんな風貌になってしまったが、根は真面目。学校の帰りはゲーセンに寄ったり、タピったり(2019年ブームとなった、タピオカドリンクを飲む事)するけど、学校の中ではきちんと授業を聞いて、当たり前の様にノートを取った。おかげでリュックの中は学校の勉強道具でギッシリだ。


「これで一発でしょ」

ハルカがリュックから取り出したのは電子辞書。本来はスマートフォンのアプリや、ブラウザでも調べることは出来るのだが、流石に授業中にスマホを触るわけにはいかないので、代わりに電子辞書を持ち歩いていた。


スマホの電波が届かない今、これが物凄く頼りになる。


「今はお父さんに感謝だなぁ……ありがとナス!」


高校の入学祝いに父に買ってもらったものだった。「今はスマホあるし要らないよ」と貰った当時はそう思っていたのだが、なんだかんだ授業で結構役に立った。そして今も。


「『rice ball in mouth』っと」

電子辞書に打ち込む。辞書はすぐに答えを出した。


「『口の中におにぎり』……へー、ライスボールでおにぎりなんだ。なるほどね」

「つまり『お・い・し・い』とか?いや、そんな訳ねーか。そもそも場所聞いてる訳だし」


「ピクニック…公園…?」

ブツブツと呟きながら考える、がとしてピンと来る答えが見つからなかった。


『とりあえず分かることは全部紙に書く。そして「平仮名」、「漢字」、「英単語」に変換してみる。これ基本ね』

頭の中である台詞を思い出した。友達グループでリアル脱出ゲームに行った時、華々しい活躍をしたサキが言ったものだった。


「そもそもおにぎりじゃ無いのかも。単語ごとに出してみるか」

ハルカは電子辞書を叩きながら、それぞれの単語を紙に書き写す。


米、玉、中、口。


「へー、口のmouthとネズミのマウスってスペルが違うんだ。エム、オーユーのエスイーね」

新たな知識を得たところで、書き写した4つの漢字と睨めっこをした。


「米、中、ロって、アメリカ、中国、ロシア見たいじゃん。でもボールの方がよくワカンねぇな」

玉じゃなくて、球体だとしたら地球?ハルカは地球の絵を書きながら考える。

確かに地球を代表する国といえば、世界一の経済大国、人口、国土を持つアメリカ、中国、ロシアだ。しかし、『ちきゅう』という4文字がそのまま正解だとすれば、問題として下手クソ過ぎる気がする。謎解きはもっと、みんなが納得できる解答があるはずだ。


漢字それぞれの頭文字を取ってみるのはどうだろうか?

「こたちく」「またちく」「またなく」…

書いてみたが、どうも答えに行き着く気がしなかった。だが、この漢字4文字が正解に近いような気がしていた。


もう一度、スマホを開いて問題文を確認した。

『rice ball in mouth』


写し間違いは無いみたいだ。lエルいちだったり、oオーゼロと言った騙しも無いようだ。

というのも、手書きでは無い、書式のフォントが統一されたデジタルな文字列だったからだ。


「ライス、米、ボール、玉、イン、中に……マウス、口……っていうかinだけ名詞じゃ無いんだけどね」


口の中に玉……あっ


「ていうか、そもそもアメリカじゃん!」


ハルカはそのままスマホの画面にある解答欄に文字を打った。『ア・メ・リ・カ』と4文字。

打ち終わり、回答の部分をタップすると……


正解


なんとも陳腐な画面だが、どうやら問1はクリアしたようだ。表示されたのは、ソースコードを初期のまま使用したかの様な、左上に「正解」と小さく書かれた黒い文字。文字通りただの文字だった。せめて画面の中央に大文字や赤文字で表示してくれれば感動はあったが、何はともあれ第一関門を突破した。


「ライスは米、ボールインマウスで口の中に玉」

ハルカは解説するかの様に文字を書く。米の横に大きな口の漢字。口の中に小さな玉を書いて『米国』。つまり答えは『アメリカ』だった。

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