最期の宝物

雨が降り夜になり

ヘッドライトが光を放つ

当たり前のようで何も考えてなかった

靴が濡れ指先が冷えるように

産声をあげたときに帰りたい


冷たい摩天楼

私はどこえゆくのだろう

記憶は古いものから消えていく

この街の片隅で叫んだ

忘れたくないと


空が晴れ朝になり

人々が街へ繰り出す

あの人の日常を知ったようなふりをした

食べ物が私のものじゃないように

出会ったときに帰りたい


響くロードノイズ

この車はどこえゆくのだろう

何で笑ったのかさえ思い出せない

この街の片隅で叫んだ

忘れたくないと


汗ばむ額にかじかむ指先

季節は巡ってまた宝物を忘れてきた

死ぬときにはいくつ宝物が残っているだろう

眠ると思い出がまた一つ消えると思った

この悲しくて虚しい夜も

いつかは無かったことになる

思い出を抱きしめて願った

忘れたくない…

忘れたくない…

忘れたくない…


種子たねが飛び春になり

大地から新しい芽が出る

思い出が私を作って私が思い出を作る

私がそう思ったからそうなんだけど

あの頃に帰りたい


真夜中の空気

私はこれからどこへゆこうか

眠りについてまた一つ忘れるけど

この街で私はつぶやいた

静かに抱きしめる

今ある思い出を

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