君と僕だけのひみつ

まいてい

第1話 ゲーマー美少女との邂逅


僕の名前はたくみ。


今年の春からピカピカの一年生。


高校受験も無事終了して、第一志望の高校に合格。


僕は恋をする。


隣の席に座っている女の子から、目が離せない。


気付いたら見つめてしまうんだ。


でも、話しかけられない。


数学の授業でも、英語の授業でも、僕はその子を見つめる。


女の子の名前はありる。とってもかわいい名前だ。


その子はこれといっていいほど変わったところはなく、普通の子だ。


顔はかわいいけど、成績優秀だとか、お嬢様だとか、クラスのアイドルだとか、そんなチートな性質は持ち合わせてない普通の子。


ある一点を除けば……の話なんだけどね。


クラスメイトよりも一歩だけリードできるちょっとした秘密。




それは、セミがみんみんと鳴く頃のこと……


僕はゲームが好きだ。


とりわけ格ゲーに関して言えば、熱中してしまって、四六時中やり続けるほどの中毒患者だ。


中学校の青春を費やして極めたゲームがある。


コビッドバンチ(COVID BUNCH)というPC格闘ゲームだ。


COVID BUNCHの由来は、combat vision decided by punch(ボコボコにする未来が運命づけられている拳)からきている。


当時中二病だった僕はこの名前に魅入られた。


ボコボコにする未来が運命づけられた拳ってなんかそそられた。


まぁ、高校受験の影響で当時ランキング1位だった僕の腕はすっかりなまってしまったのだけれど。


高校生になったある日、ふと気になった。


今はどんな人がこのゲームをやってるだろう。


どんな気持ちで、このゲームを楽しんでるんだろう。


この思いが着火剤になったのか、スマートフォンをいじって、そのゲームの名前を動画配信サイトで検索する。


【検索:COVID BUNCH】


ずらりとたくさんの動画が並ぶ中、僕は一番上に


【ライブ中:3人が視聴中】の文字を見つける


動画配信サイトでは、ゲームをやりながら、そのプレイ動画をリアルタイムで配信するライブというシステムがあった。


僕は何となく、そのライブを開いた。


目を見開いて驚く。


顔出し配信だった。


そこが問題じゃない。


右下に写っていたのは見覚えのある人物。


その女の子だった。


隣の席の僕の初恋相手。


うれしかった。好きな子が同じゲームに熱中している。


舞い上がった僕は、次の日その子に話しかける。


「ねぇ、ありるちゃんってコビッドバンチやってるの?」


「わぁお。どうして知ってるの?」


「配信、見たんだよ」


僕のその無神経な発言でありるちゃんの顔はみるみる赤くなっていく。


「見た?」


「えっと、やっぱうそ」


「なんだ、嘘かぁ……っておかしいじゃん!」


「あっはははは」


僕が笑うと、ありるは焦ったように左右をきょろきょろした後、ひそひそ話で話す。


「君、そのこと黙ってて、この通り」


ありるは頭をぺこりと下げる。


「わ、わかったよ」


「おぉ、君、素直だねぇ。じゃあ、特別に。一個だけなんでも言うこと聞いてあげるよ。口止め料がわりに」


「なんでも?」


「そう、なんでも。あっ、常識の範囲内でね」


僕は悩んだ。


だって好きな子が僕に何でもしてくれるって……


頭の中にいかがわしい妄想が膨らむ。


ほわほわほわわわん




「おかえりなさいませ、ご主人さま」


メイド服を着たありるがそう言った。




僕はかぶりを振る。


あほか! 


どんだけスケベなんだ僕は。


そんなことより……


「じゃあさ、ゲームしようよ」


「ゲーム?」


「そう、僕んちでも君の家でもいいからやろうよ、COVID BUNCH」


ありるはきょとんとした顔をして、目をぱちぱちさせる。


「そんなことでいいの?」


僕はコクコクとうなずく。


「わかった。じゃあ、今週の日曜日でいい? 私の家でやろっ」


ありるは僕に手を差し出す。


「やったー! 約束だよ!」


僕はありるちゃんの手を握り返す。


え? マジ? ガードゆるすぎじゃない?


話しかけてみないとわかんないもんだな。


そんな教訓を得た。




そして、やってまいりました。日曜日!


ピンポーン


僕はありるの家のインターホンを押す。


マジ最高かよ。メアドももらえておまけに家にも上がれるなんて……


「はーい」


タタタッと出てきたのは中学生くらいの女の子だった。


妹さんだろうか、かわいいなぁ。


そう思った矢先、


「来た来た、豚野郎!」


前言撤回。おい、笑顔で失礼な子だな。


初対面の人間に対する態度じゃないぞ、それ。


僕は何とか笑顔を作るけど、多分こわばってたと思う。


「こら、その名前は家の中だけって言ったでしょ」


後ろからありるの声がした。


家の中だけっていうところはちょっと気になったけど、聞き流すことにした。


ありるの部屋はとりあえず、なんかいい匂いがした。うん。


ありるの近くを歩くと漂ってくる、いつものあの甘~い香り。


「ま、まぁ座ってよ」


ありるは座布団を指さして、僕に座るように促す。


僕は言われた通りに座ると、ありるがその隣に座る。


鼓動が波打つ。


あれ? やばい、ちょっと緊張してきた……


隣をちらりと横目で見る。


ありるも緊張しているのか顔を赤らめている。


その顔、なんかちょっとエロい。


密室の中男女2人で何も起こらないはずもなく……なーんてベタな展開は待ってるだけじゃあ起こらない。


ええい、ここは男の僕がリードせねば!


勇気を振り絞って告白する!


「「あのさ」」


被ったし、大事なとこで被ったし。


お母さーん、ぼく、もうだめそう……メンタルもたない。


一度引っ込んじゃうと、なかなか次は踏み出せない。


僕は逃げた。


チキった。


笑顔でこう続ける。


「ゲームやろ」


「あ、ああ。そうね」


ありるは慌ててコントローターを持ってくる。


テレビ画面の電源をリモコンで入れて、手際よくゲームをセッティングする。


あぁ、なんかおしどり夫婦の休日みたいでいいな……


ありるからコントローラーを手渡される。


告白、できなかったな……


でも、告白恥ずかしいし、ゲーム楽しみだしまぁいっか。


安心半分残念半分の僕であった。


Ready Fight


のゴングが地獄の門の開く音だとは知らなかった。


格ゲーは運要素が皆無に等しい。


腕がなまってた僕は惨敗。


ボコボコにされた。


あまつさえ、あおられた。


ハンデも与えられたけどそもそも攻撃が一回も当たらなかった。


手加減って言葉知ってる?


うれしそうに満面の笑みを浮かべて僕を見つめるありるであった。




「もう一回、僕にチャンスをくれないか?」


帰りの時間になって僕は再チャレンジを嘆願する。


「しょうがないなぁ、じゃあいつにする?」


「大会だ。夏の大会で決着をつけよう」


「大会? ああ、COVIDカップのこと?」


「そう、僕は必ず決勝まで進む」


「だから、わたしも出ろってこと?」


「うん」


「わぉ、それ面白そう。乗った!」


ありるは僕の肩を叩く。


「次は、許してくださいって泣くまで叩きのめしてやる!」


「女の子を泣かせるなんて感心しないなぁ。でも、楽しみにしてるよっ」


僕はこの時決めた。大会で、ありるに勝ったら次こそは告白しようと。




僕はその日以来、死ぬ気でやりこんだ。


めっちゃ学校さぼっちゃった。てへ☆


出席日数、足りるかな?


でも、おかげで全盛期並みの実力を取り戻した。




そして、決戦の日がやってくる。


「えーでは、レッツコビッド!」


バーチャルな女の子が画面でゴングを鳴らす。


その瞬間カウントダウンが始まって、対戦相手の名前が表示された。


心臓がバクバク鳴る。張り裂けそうだった。


「やばい、意外と緊張するな、これ」


59……58……57……


ありる、負けんなよ。


トーナメント方式で、ありるとは決勝であたることができる形だった。


……3……2……1……GO


試合は圧勝だった。


「中学時代の青春をささげた腕前は、伊達じゃないだろ」


ちょっとかっこいいな、この言葉。


いや、冷静に考えたらただのゲーマー宣言だわ、これ。


試合は順調に進んで決勝トーナメントに進出。


当然、その中にはありるの名前も。


僕の試合はやっぱり圧勝、張り合いがないや。


でも、事件は起こった。


トーナメントを確認する。


ありるの名前が……なかった。


なんだって!?


まじかよ


メールが届く。


『ごめん、負けちゃった。相手、相当強いよ』


『そんなの知るか、拳で語り合うだけだ』


『おーかっくいい! ファイト♡』


ありるは心配してるのか緊張をほぐしてくれてるのか、そんなメッセージを送ってくれた。


末尾のハートは僕のやる気を絞り出した。


でも、結局杞憂に終わった。


キャラクターの相性が悪かったにもかかわらず、僕は圧勝しました。はいココ重要。


僕は胸に秘めた思いを伝えるためメッセージを送る。


『ありる、話があるんだ。会いたい。君の家、行っていいかな』


『かっこよかったねぇ、わたしも伝えたいことがあるの。来て』


僕はガッツポーズをして小走りでありるの家に向かう。


ピンポーン


僕はインターホンを鳴らす。


よくよく考えたらもう21時だ。


ちょっと迷惑だったかもしれたい。


そして、やっぱり出てきたのは妹さんだった。


「来た来た豚野郎」


いいかげん、その名前やめてもらえませんかね?


「こら、家入ってなさい」


ありるだった。風呂上りなのだろうか? 湯気がたっていた。


ぼくはかめはめ波並みに練りに練ったセリフを決める。


「ありる。聞いてくれ」


「……どうぞ」


「僕は、こんどは君のギャルゲーが攻略したい」


「……」


勝った……


でも、なぜだかありるから確かに感じる軽蔑の目


「明日からキモブタに改名ね。一人でやってなさい! あいにく、そんなもの持ち合わせてません!」


あれ? 


君が主人公のギャルゲーがしたいってことは、僕の彼女になってほしいってことなんだけど……


……あれ?


さっき言ったことを思い出す。


僕は、こんどは“君のギャルゲー”が攻略したい。


あ! 言い間違えた。


これじゃあ女の子にギャルゲーを貸してくれって言ってるただのキモブタじゃないか。


「あっ、たくみくん。わたしからも一つ」


「なに?」


刹那、とろけるように柔らかい唇の感触。


「告白、受け取ったよ」


ありるはそう言い残して、家の中に消えて行った。


僕は唇を触る。


「なんだよ……伝わってたのかよ」



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君と僕だけのひみつ まいてい @mizukisan321

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