2 十一月のよく晴れた朝に その2
動画作成者としてある程度名が売れてくると、横のつながりもできる。
その中の一人、《グレ子》さんという人は
『
すぐに返信があった。
『知ってるよ。コンクール
それって
『
『コンクールの動画たまたま見つけて気に入ったんですけど今どうしてるのかなって思って』
『ぱったり名前聞かなくなったね。ピアノやめたのかも』
グレ子さんはそう書き送ってきた。
『たしか何回か一位を
めんどくさい世界。
うん、まあ、めんどくさいのだろうな。ピアノに人生のほとんどを
どうもありがとうございました、とグレ子さんに返信してスマホを
そのめんどくさい世界で勝ち続けてきた
積み重ねられた順位の《1》は細い木の幹のように
もったいないな、と正直思う。
ブックマークをクリックし、動画サイトの
でも。
音楽に順位をつけるなんて、そもそもが
そうして
その夜に新しく見つけた中でいちばんのお気に入りは、シューベルトのピアノソナタ第二十一番だった。
だから
関連動画に、同じコンクールのものらしき別の女の子が
すると
何度
そういえば、と
『サルヴェ・レジーナ』。
聖母マリアを
シーケンサに
*
その
「……Dマイナー11thオンA」と
「和音当てクイズなんてしてない」
「……ええと、なんでそんなに
「
「ううん、まあ」
でも──やっぱりそのときは
「
「
「シューベルトの四倍くらい長生きしてだれも面会に来ない老人ホームの
「それで、どういうつもりで
「あー、わかる? やっぱり」
「当たり前でしょう。二十一番はもう何百時間かけたかわからないくらい苦労した曲だし」
「そりゃそうか。コンクール用の勝負曲だもんな」
「コンクールの曲だって知ってて使ったわけ? なんで知ってるの?」
「動画で
ふうぅ、とわざとらしい
「みんな消えちゃえばいいのに」
動画について言ったのだろうけれど、もっと広い意味のように聞こえて
「いや、でも、動画のおかげで
「あなたのために
「そりゃそうなんだけど……」
「あなたのためならベートーヴェンの十二番とかショパンの二番を
どちらも
どうせとっくに
「なんであんだけ
「やめてないでしょ」
自分の指先を見つめて素っ気なく言う。
「ああ、うん」
「そんなにコンクールが大事なの? うちの親みたいなことを、なんで赤の他人のあなたにも言われなきゃいけないの」
視線も返答も痛かった。親にも言われてたのか。そりゃそうか。
なんで赤の他人に──。
まったくの正論だった。だいたい
ちら、と目を上げる。
ピアノの黒く
もったいない。理由はそれだけだ。
「前にも言ったでしょ。
「よく言われた。わたしの演奏には
「……音色?」
「ピアノの音色? ……それって、あの、ピアノ
ようやく
それから
「べつにいいじゃない。
なにをさせたいって?
きまってるだろ。もっと
だいたい、さっき自分で「やめてない」って言ってたよな? あそこでさらに
この中に、まだ心を置き忘れているからじゃないのか。
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