第4話 朝の校舎の先生さん

 翌日、俺は珍しく早く起きたため家も早く出てしまった。


 そして。


「早いな、江川。」


「はい、ちょっと早く起きてしまったんで。」


 教室の黒板横にある時計を一瞥し七時を指す時計に呆れる。あと一時間は待つな。


 俺の会話の相手は担任の草薙先生だ。昨日は、電波発言をフォロー出来ず、おろおろしていたが。


 スーツ姿の草薙先生は、俺に何か聞きたいことがある様子だった。


 俺は無言で草薙先生を見つめる。見た感じは二十代後半で、仕事のできる男という印象だ。


「江川は、小見とは仲良いのか。」


「え、」


 突如宇宙人が会話に入ってきた。


 奢らせられた、というのは仲がいいことになるのか。だが、昨日の様子だと俺以外に話せる人がいる様には思えない。


 無難な答えを返す。


「昨日、初めて会ったばっかっすよ。」


「そうか。あいつ多分クラスに溶け込みにくいと思うから仲良くしてやってくれよ。」


「あ、はい。」


 生徒思いの良い先生と思うには、まだ日が早いので、心配性の先生という評価にしておこう。


 というか、それなら、小見に対して発言を控える様に言ってほしい。俺はクラスメートであって、保護者ではないのだ。


 草薙先生が話すことをやめたため俺たちのキャッチボールも転がって消えた。


 それから俺は机に突っ伏して時間を潰した。クラスメートも時間が経つにつれ教室に姿を現し、中学からの知り合いか、はたまた昨日仲良くなったか、数多くの集団ができていた。


 俺の前にも一人生徒がいた。男子生徒出席番号が一つ前の上田健二だ。かなり人懐っこい性格なのだろう。一人でいる俺に席についた時点から話しかけてきた。


 今はこのクラスの中で誰が一番かわいいかについて語っていた。それにつられるように二人ほどまた男子も増えていた。片方は近藤で背が低く軟弱そうで、もう片方は松田で体つきが良くスポーツ会系まっしぐらな感じだ。


「で、江川はどう思うよ。可愛い知り合いいないかね。」


 おどける上田。


「今んとこ、ない。中学んときの知り合いもいないし。」


「ま、昨日はお隣の小見さんと仲良く帰っていたじゃないか。」


 何故それを、とかいうと意味深に隠している感じになるので、スルーしておいた。


 その代わり話題をそらす。


「近藤は、誰かいる?」


 近藤を選んだのは一番内気に見えたし、話しかけてあげた方がいいのではというのも含めた理由だ。別に弱そうだったから単にいびった的なやつではない。


 俺へ向けられた上田の視線は一瞬で近藤に向く。


「ぼくもないよ。よくわかんないし。」


「そっかー。松田は。」


「このクラスじゃ、小見さんと松村さんが肩並べるんじゃないか。」


 松村さん、とは誰だろうか。まだクラス全員を把握していない俺は「へえ。」とだけ言った。


 そうこうしていると、小見が隣の席に座ったので場はお開きとなった。近藤と松田はまだ向こうで話していた。学校が同じだったのだろうか。今度聞いてみよう。


 俺の前では上田が小見に話しかけていた。


「小見さん、昨日は江川連れてどこ行ってたの?」


 こういう積極性は見習わなければいずれ友達を失うのだろうか。俺は少し悩むが、この馴れ馴れしさを真似すると俺が俺でなくなる気がした。


「江川にこの世界の美味なるものを紹介したわ。」


 相変わらずの言い草。確かにラーメンを紹介されたよ、メンマましましで。


「へえー。じゃあ、俺も江川においしいもの紹介しようか。」


「なぜ。」


 俺は今度は上田に奢らなければならないのではないかという不安に見回れた。上田は奢ってくれるのだろうか。なら行ってもいいな。


 こうして俺の高校生活二日目も始まり、友人が増えていけばいいなという若干の期待を胸に抱くのだった。

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