第3話 反抗期の妹
昼飯をおごらされ、小見の家が反対方向だったと知ったため俺は帰り道を一人歩いていた。
交通量の多い道路をわきにそれると、一瞬で目の前の景色が変わる。そこに広がるは田んぼだ。今はまだ干からびた土しかないがもうすぐ一面草原と化すのだろう。それから大人になり頭を垂らして最終的には俺も見習わなければいけない姿に変わる。
米ってすげえな。
そう思いながら、俺は田んぼ道を抜ける。家はここからちょうど反対側の住宅街の一角だ。小学校の頃、道の途中にいた犬に何度も吠えられたっけな。今はもう爺さん犬だ。
ふと田んぼ一つ分先に小さな人影を発見する。周りすべて田んぼなので視界は良好。一年前まで俺が通っていた学校の制服着用の女子生徒はきびきびと歩いていた。ストレートに降ろされた髪と制服で察する。
駆け足で隣に立つか、それとも無干渉かで迷いせっかくなので隣に立とうと決断。
足音が立たないように意識して走り寄る。今日はカバンにも荷物が少ないので音の心配なし。
背後に立ち、本人であることを確認する。よくある、この人だと思ったら違ったということの無いように配慮した。
「……」
無言で横に並ぶ。視界の端で首を曲げこちらを確認する様子が見られる。
「……」
女子生徒も無言で歩くスピードだけを速めた。俺も負けじと追いかける。
「…………」
「…………」
無言の戦いは田んぼ三つ分行われ、女子生徒の口から終わりが告げられた。
「ちょっと。」
「なんだ。」
「ついてこないで。」
「家は同じだ。」
「妹にセクハラぁ!」
「おい、声が大きい。」
口に手を当てメガホンを作ろうとする妹を制止させて俺もからかうのをやめた。家の方向が同じ同級生がいるかもしれないのに。
俺の妹の名前は蓮。中学二年生で俺と二歳差の兄妹。最近反抗期がひどい。母さんにも父さんにも反抗しないってのに、俺だけだ。ひどい話だ。
勉強も運動もそこそこできるらしい。俺にはその手の情報が回ってこないため小学校の時の情報だが。
目の前に立ちはだかる妹に、先ほどの小見が重なる。
心に残った傷は財布の中身とともに豚骨スープの餌食となっていた。
俺はそっと手をあげ蓮の頭にのせる。
「なっ、」
「お前は宇宙人とには絶対はまるなよ。」
心からの言葉だった。中学二年生って言うのは一番危険な時期だろう。俺の友人も俺さえもそこに黒歴史の種を植えてしまったのだから。芽吹いた後すぐに摘み取ったが、歴史の溝は深い。
「きゅ、急に何してんのよ。」
「うぐっ、」
俺の心からの言葉は蓮には届かなかったらしい。思いっきり横腹にかばんという凶器で殴られた。中に教科書という隠し技込みで。
苦しむ俺は地に伏して前方を見やる。妹は足が速くなったらしい。体育は五なのか。そう考え俺は小さくなる妹に怒りを沸かすことなく立ち上がった。
頑張った俺。後悔は無い。残るのは虚しさと切なさだけだ。
帰り着いた家は朝と何も変わりなくそこにあった。ここにロケットでも刺さってたら、小見が飛んでくるだろうな。そんな気がして馬鹿な子と考えてるな俺とまた虚しくなった。
「ただいまー。」
家のドアには不用心にも鍵がかかっていなかったが、俺が閉めると想定していたのなら最後に入った奴は頭が切れるのかもしれない。
「おかえりー。」
出迎えてくれたのは母さんだった。父さんは平日仕事のため夜にならないと帰ってこない。うちは四人暮らしなのだ。
「昼はどうする。」
「ごめん食べてきた。」
胃の中でとんこつスープがうごめく。さっき殴られて胃にも負担が大きいだろう。
「友達と?」
「うん。」
友達なのか。だとしたら俺は明日から多くの友達に見捨てられる気がする。宇宙人は高校生にとってはただただめんどくさい奴に過ぎないのだから。
後は男子の視線が怖いとだけ言って置く。
母さんは訝しむように俺を見る。多分、頭の中は『彼女』『友人』の両方が天秤にかけられているのだろう。俺にそんな期待しても無駄だ。
母さんから逃げるように俺は自室へ戻った。
階段あがってすぐが俺の部屋。その奥が妹の部屋で、二階にはあとベランダがあるだけ。一階には両親の寝室、リビング、キッチン、洗面所、風呂、トイレがある。
自室に入る際、隣のドアが開き、蓮が姿を現した。服は着替えられショートパンツとシャツ。シャツには『I am a boy.』と書かれていた。すごい矛盾。
睨まれたため俺はそそくさと部屋に入った。
最近の女子は怖いね。しみじみ。
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