第10話 人間が進化した姿……
「唐突に1万年後の世界と言われても、頭を抱えるのはわかる。ぢゃがまあ、聞け」
ナハツェーラは、懐かしむように、紅眼を細める。
「昔、2匹の鬼がおった。人ならざる者の原点と呼ばれていて、信仰の深い者は、
俺は、昔話なんかで出てくる鬼の姿を想像しつつ、リネットをちらと見やる。
「確かに、私のような美少女銀髪爆乳完璧クールメイドが、優斗様のちん〇こな脳みそでイメージしているような鬼から産まれたとは思えないのでしょう」
俺ってやっぱり、リネットに嫌われているんでしょうか……。
「鬼は、様々な生物に魔力を授けることが可能なのぢゃ。リネットの種族名は銀狼――すなわち、狼が魔力を与えられた結果、進化した姿ということになる」
リネット獣耳をひょこりと出し、ぴこぴこさせる。やめろ、俺はお前のことを可愛いと思ってしまうと、謎の敗北感がうまれるんだ……。
「そして、妾と優斗ぢゃ」
ナハツェーラは、リネットと対照的にぺたっとした胸を反らせて自身を指差す。勝手に着られている俺のTシャツには、ハンバーグを食べている時に零したのか、ケチャップの染みが付いている。それ、気に入ってたんだけど……。
「妾達は、人間に魔力を与えた結果に進化した姿ということぢゃ」
「人間が進化した姿……」
「『進化』というからにはわけがある。原初より、生物が進化するときというのは、現存する場所の環境に適した状態のものになるために行われるものぢゃ」
「つまり、人間が環境に適さなくなった……とでも言いたいのか」
ナハツェーラは、幼児の顔に似合わない、含みのある笑みを浮かべる。どうやら、正解だったらしい。
「地球に『フリーズレクイエム』と呼ばれる地球規模の急激な気温低下が起こった。お主の知識で言うところの氷河期のようなものぢゃな」
氷河期——教科書なんかでしか見たことは無いが、多くの生物が死滅することとなり、生態系が大きく変化することになった、と記憶している。
「源鬼は、人間が氷河期で絶滅するべきでは無い、と判断して一部の人間に魔力を与え、生命力の高い吸血鬼へと進化させたというわけぢゃ」
「ちょっと待ってくれ。俺が記憶している限りだと、科学技術だって発達していたじゃないか。しっかりと準備をすれば――」
「準備ができなかったもの、ということです。優斗様」
リネットは淡々と続ける。
「確かに、過去、優斗様が記憶しているような氷河期と同じものであれば、人間の科学力で事前の観測も可能だったでしょうし、シェルター等の準備もできたのは間違いないでしょう。つまり、科学では観測できない力によって起きた超常の現象、ということになります」
ナハツェーラは頷き、説明を引き継いだ。
「源鬼の一人は、千里眼と呼ばれる一定の未来を観測することができる能力を持っておった。だから、フリーズレクイエムを予知することができ、一部の人間を吸血鬼として――現代である、1万年後まで生き長らえさせることに成功したのぢゃ」
「ちょっと待て、話を飛ばしすぎだ。……フリーズレクイエムってのは、どうして起きたっていうんだよ」
「……何者かが、作為的に起こした。それで間違いないぢゃろう」
俺は息を呑む。仮に、仮にだ。この話が全てその通りだとしたら、とんでもない奴が居たことになる。
「このフリーズレクイエムで、人類は一度絶滅し、この1万年をかけて再度ここまでの進歩を遂げた。つまり、この騒動の犯人は、世界中の人間を殺害した、ということぢゃな」
ナハツェーラは、しっかりとした面持ちで、そう断言した。
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