第2話 吸血鬼だと言ったであろう
「こりゃあ、悪い夢だ」
見慣れた洗面所……のはずが、コップには女の子めいた色のカラフルな歯ブラシが計3本。そんでもって、女性経験皆無の俺には検討もつかない、液体の詰まったオシャンティーな液体類。これじゃあ、洗面台というより、化粧台だ。
「美少女二人と、半同棲生活。泣いて喜んでもちょっと引くくらいで許してあげますよ。担ぎ上げられるのは快感です」
「美少女っ! まあ、妾程ともなれば美少女認定されるのも致し方あるまいのう」
「いや、お前らほんとなんなわけ……」
「メイドですが?」
「吸血鬼だといったであろう」
「そういうことじゃないんだよ……」
確かに、この銀髪メイドも吸血鬼を名乗る女児も、今まで俺が出会ったこと無い程に美少女だ。思春期真っ盛りな男子高校生ならば、泣いて喜ぶ展開だろう。
だがしかし、俺はついさっき喉元に短刀を突き付けられた。言ってみれば殺害未遂に他ならない。警察に駆け込むなりなんなり、保身に走るのが賢明だろう。スマホが見つからない以上それしかない。
と、威張りくさった銀髪メイドの女児を前に心持ちを決める。
「ちょっとトイレ」
「おや、性処理ですか。ほんと盛りくさった猿ですね。私達の姿を前にすればしょうがないとは思いますが」
「お〇にーか!!」
「その見た目でおっそろしいこと言うんじゃねえ!」
「「お〇にー! お〇にー!」」
「やかましいわ! ご近所さんに聞こえるだろっ」
言って、俺はトイレに入る。何を隠そう、ここには窓があるのだ。ガチムチだったり、太っていれば通り抜けるのは不可能なサイズだが、インドア趣味が功した俺の様な細身であればちょちょいのちょいだ。
「よっと」
無事、着地する。裸足で移動するのは厳しいので、そのまま庭へ移動し、スリッパを拝借。といっても、俺が知っているデザインではない。ポップなキャラクターがプリントされたいかにも女の子感のあるもにすげ変わっている。見慣れた庭には、植えた覚えのない花が咲いていた。
「あいつら、いったいなんなんだ。これじゃあまるで……」
本当に住んでいるみたいじゃないか。そんな思考を認めきれず、俺は逃げだすように家を飛び出した。
向かう先は警察署。言った事はないが、いつも高校への通学路途中にある。だというのに、わからない。
「……なんだよ、これ」
見慣れた待ちなみはそこには無く、見たことの無い民家が立ち並び、憶えの無い道が敷かれている。
「っ」
今しがたいた家を振り返る。が、俺の家はいつもどうりだ。屋根の色も、形も。
——まるで、俺と俺の家だけが、世間から切り離されたみたいだった。
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