第30話
風呂から上がると、要はすでにベッドに丸まって眠りこけていた。
今日も終わりかと息をつく。短い時間でこんなにもイブを楽しめたのは彼女のおかげだから感謝しなくてはならない。
それにしても、プレゼントを渡しそびれたのは痛い。こうなったら寝ているうちにサンタ流に置いておこうかと要のそばに寄ると、机の上には小さな包みがちょこんと置かれていた。中央には赤いリボンが乗っかっている。
もしかして、と期待を胸にリボンに挟まれたクリスマスカードを抜くと、「水無瀬さんへ」と書かれていた。高鳴る胸を押さえる。
今回のパーティーだけじゃなくて、プレゼントまで用意してくれているとは。腰を降ろし、すうすう寝息を立てる要の寝顔を眺めてからリボンをほどいた。
中から出てきたのは長方形の布で作られたキーホルダーだった。ポケットのような作りになっており、ちょうど鍵が入りそうな大きさだった。端には小さなニコニコマークが笑っていた。
試しに鍵を入れて留め具をすると、ぴったりと当てはまった。
そういえば家のカギは裸のままだといつの日か要に言った気がするが、今日まで覚えていたなんて思いもしなかった。しかも手作りにするところが彼女らしくて温かい。本人はお金がなかったからと言うだろうけど。
鍵を入れた状態でケータイのストラップホールに紐を通して括り付けた。目の前まで持ち上げてそれを眺める。要は今回のパーティーのために一体どれだけ時間をかけて準備したのだろう。数えてみればきりがないほどだった。ツリーにぶら下がる人形たちだけでも数十個は縫っているはずだし、その上プレゼントにケーキまで作っている。
最高のクリスマスを用意してくれた要の手を優しく包む。気づかずに気持ちよさそうに寝続けている姿をみて気持ちが緩んだ。
今日も彼女の笑顔が見れてよかった。
この温もりを感じとれてよかった。
どこにもない右手を見返すたびに、どんな当たり前なことでも特別な存在に感じられる。
あの時右腕以外無事だったおかげで、要に出会えて、笑顔にドキドキして、温かさを感じれて、絵をもう一度好きになれて、愛おしいと思える人ができた。
いつからこんなポジティブに考えるようになったのだろうか。昔なら、右腕がないせいで、と憤りなげいていたはずだ。きっと考えも含めて僕を変えてくれたのは――
柔らかいショートの黒髪を愛撫する。
「好き、だよ」
瞼を閉じてくれている間なら言えるのに。今はこれが限界だ。
電気を消し、ベッドの側面に背中を預けて眠りについた。
要の鞄には、僕のものと同じ手製のキーホルダーが揺れていた。
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