第67話:修羅場、Predictable

 レナードの襲撃を受けてから色んな事が動いた。

闘技場の修復、これはカガリさんがケルベロスを強請って手に入れた宝玉を2つ売って得たお金を修繕費に充てるが、それでも赤字だそうだ。

しかし、ミラさんはファッションショーが好評だったと知り、次回はファッションショーを企画しているそうだ。

尚、今回の大会は優勝者は決まらず、結果は流れてしまった。

こうして騒動は収まった、精霊界に平和が訪れ皆が幸せに暮らした……


 と思いたかった。

僕もそうあって欲しいと心の中で願っていた。

しかし……そんな結果は訪れなかった。

城で僕は表彰されている時だ、その出来事が起きたのは。


「リヒター・ウェイン! 褒美だ! 一つはケルベロスの宝玉。詳しい話はガンビットに聞いてくれ、きっと役立つだろう」


綺麗な赤色をした宝玉で、宝玉の中は生きているかのように液体が動いている。

僕はそんな宝玉を手に取ると、何となくだが力が溢れてくる様な気がする。

しかし、これがどんな効果があるのかまでは分からず、早くガンビットさんに聞いてみたい、ちょっとワクワクしていると……


「リヒター様! 二つ目の褒美は……私です! 」


「え……」


突然の姫様の発言に全体の場が凍る。

王様は何やら複雑な表情をしながらも、説明してくれた。


「お前の働きは聞かせて貰ったぞ! 姫であるアマンダはお前を漢だと言っていた、お前の様な人間なら娘をやっても良い! さぁ!持って行くが良い! 」


僕は冷や汗をかいている、何この状況?

おかしい、僕はてっきりこういう流れを断ち切った、運命に打ち勝ったと思っていたのだけど……


「リヒター様、命懸けで私を守ろうとした姿を見て私は確信しました。 私の運命のお相手なのは間違いありません! 私と結婚を前提にお付き合い下さい! 」


彼女は僕に近づき両手を握り、見つめてくる。

キラキラとした彼女の目を直視するのは辛い、彼女が悪いとかでは無く、僕が彼女の気持ちに応える事が出来ないからだ。


「僕は……」


しかし、そんな僕の気持ちを無視して周りの話は進む。


「ハハハ! 数十ものお見合いを断った、お転婆姫アマンダが此処まで首ったけになるとはなぁ~! 良い日だ! 」


精霊王、腕組みして高笑い。

アマンダ姫、勝ち誇った満面の笑み。

家臣は皆、拍手。

ハルさん、目が点。

ベルベットとレイ、固まる

僕は……無言を貫いた。


 こうして……僕は無理矢理姫様を押し付けられてしまい、何も言えずに事が進んでしまった。

この日の晩、僕は王城に泊まる事となった。

人間である僕が食べれる晩御飯を用意てくれたみたいで、とても美味しかった。

と言っても、沢山のフルーツとか木の実だったけど、そんな事は如何でも良かった。

彼女を押し付けられて、と言うと失礼だけど……僕はずっと考えていた。

決して姫様は悪い人ではない、少し強引で怒ると怖そうだけど、根は優しい人だとは思う。

でも、それでも僕は彼女と将来について等考えたくない。


『特定の大切な人を作る』


それが重たいと思ってしまうのだ。


 僕には家族はもう居ない。

今はベルベットやレイしか居ない。

でも……いつか離れ離れになってしまうのでは? と思ってしまう。

誰かに逆らったりして父さんや母さんみたいな目に遭ってしまったら?

もしもある日突然、僕の考え方が変わったり、『当たり前』を失ったらどうしようとか、そんな事を考えてしまう。

何時かは終わりが来る。

でも、そんなのは早いか遅いかの違いだ。

頭の中では分かっているつもりだけど、それを受け止められる様な強さは無い。


だから現在がずっと続けば良い


それがきっと僕の気持ちなのだと思っている。

ただの臆病者なのか、ただ表面上上手くやっていると見せたいだけなのか。

心の中で、自分を自嘲しながら自室へと向かうと、ドアの前に2人の見慣れた姿が見えた。


「リヒター、私はお前に話がある」


「私も……」


 今まで見た事が無い位、怒りを噛み殺している様子で僕を見る彼女達。

彼女達が怒っているのは何となく察していた。

彼女達は、真剣な表情をしている。

誰も話を始めず、ただただ、ドアの前で音のしない空間に立っている、そしてその空気は非常に重たくて冷たい。

するとレイが話し始めた。


「リヒター君、私ねハッキリと言いたい事があるの、どうして断らなかったの……? 」


「リヒター、この件については私も不満がある」


 やっぱり姫様の事だった。

自分の心の中でも、正直言って分からない。

どうしたら良いのか分からない。

そして今も、何を言えば良いのかも分からない。


そんな時、追い打ちをかけるベルベット。


「私はリヒターが選択する事を尊重してきた……しかし、今日のリヒターは酷かった。正直、私と言う存在はただの精霊としか思っていないのかと思う程だ。私達精霊にも気持ちがある事を忘れない欲しい」


ベルベットの言葉にも重みを感じる。

それでも、何を言えば良いのか分からない。


『ごめん』


と言えば良いのだろうか?


『僕が悪かった』


とでも言えば良いのだろうか?

それで全ては収まるのだろうか?

それとも……どうして僕が何も言えなかったのか理由を言うべきなのだろうか?

何を伝えれば良いのか分からず無言で居ると、彼女達それが余計に気に入らなかったのか冷たく言い放った。


「それだけを伝えたかった、見損なったぞ」


「残念だわ」


彼女達はそう告げると去って行く。

僕の中で彼女達との関係は壊れたのだと思った。

自分が悪いんだろう。

引きとめもせずに、何も言わず、ただ風に吹かれる草の様に。

自室へ入り、僕はゼロを呼び出した。


「リヒター、遂にわしを夜と……」


「ゼロ、お願いがある、僕を人間界の何処かへと送ってもらえないかな?」


「可能じゃが……リヒター、本当にそれで良いのか?ボタンの掛間違いは直ぐに直せる筈じゃぞ?」


「ううん、もう良いんだ。何かね、1人になりたいんだ。人間界へ戻ったら、もう魔法は使えないから……最後のお願いになっちゃうね」


そう言うと、ゼロはスッと僕に抱き着き優しく言ってくれた。


「わしは常にお前と共にじゃ、呼べなくても、わしは傍に居るぞ、だから気にする出ない」


こうして僕は誰にも知らせずに人間界へ戻った。


ベルベットとレイに手紙を書いた。


さよなら



そして姫様には、


「お応えできません、ごめんなさい」



逃げる様に僕は精霊界を去った。

二度と来る事はないだろうし、二度と会う事はないと思って。

もう何も要らない。

1人で静かに暮らそうと。


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■あとがき


沢山のフォロー、応援や☆等有難う御座います。

長い間ランキングにも入っていて、正直驚きと感謝の気持ちで一杯です。

また、コメントも嬉しいです。


これにてこの章は終わりとなります。

リヒターの心情と行動に納得できるかどうかで評価が分かれそうですが……


意図としては、『変わる事』と『失う』怖さと言うトラウマから来てます。

拒絶する勇気がない→傷つけたくない→結果として彼女達を傷つけてしまい、大切な彼女達が離れたと思ってしまう→1人で居れば良いじゃん


リヒターに決断力が無いと言う部分が歯がゆさやイライラを感じるかも知れませんが……許していただきたく。


次章からはメインはリヒターとベルベットとレイ視点で進みます。

今の想定ですが、追う者と追われる者のお話になりそうだなぁと。


長々と書いてすみません、これからも末永く宜しくお願いします_(._.)_


PredictableはGood Charlotteの曲で、歌詞がリヒターの心情に近しかったのでこの題名となりました。(怒りでは無く、分からないと言う部分についてです)

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