第66話:咆哮、ケルベロスエンペラー
大きな3つの首を生やした犬はレナードの出した大型犬とは違って、より一層凶暴さが強く、何よりも大きい。
ここででこんな化け物が暴れたら沢山の人が犠牲になってしまう。
すると、この犬は突然話を始めた。
「……我の眷属を殺したのはお前達か?」
「い、犬が喋った?! 」
「冥界の番人を愚弄するか! 我はケルベロスエンペラー、地獄の門番なり! 」
咆哮を上げ、凄い風圧と大きな音で耳が痛い。
すると、姫様が3体の植物を攻撃させたが…
「愚かな! その程度の魔法で我と対峙するか! 」
そう言うとこの犬は炎を吐き出す。
さっきのレナードの出したケルベロスとは、違って熱さが違う……
植物はいとも簡単に灰となり、炎が姫様を襲う。
とっさにブラインドガーディアンを大きな盾の様な形にし、炎を食い止める。
何とか耐え凌いだが、腕が少し焼けた。
「リヒター様! 」
「大丈夫です、姫様とこいつは相性が悪そうですね、僕がやりますので退いて下さい! 」
そう言うとハルさんが言った。
「リヒター! 耐えるんだぞ! 姫とミラ達を安全な場所へ連れて帰ったら直ぐ戻る! 」
その言葉にレイが反応する。
「ま!待って! 私もリヒター君と! 」
「ダメだ! お前は来い! 」
そう言うと4人は闘技場のステージから去って行った。
さて……こいつの相手だ。
どんな相手かは分からないが、慎重に行かないと丸焦げだけでは済まなさそうだ。
「ふ、人間よ、勇者気取りか? 貴様の様な弱者が我を倒せると?」
「倒す事だけが勝利とは限らないよ? 貴方がこのまま帰ってくれれば僕としてはありがたいのだけど」
「我が眷属を殺めた罪は重い! 貴様の命で償わせてやる! 」
そう言って彼は口から炎を吐く。
ナイトフォールを出し、炎を一閃して真っ二つに分けたのだけど熱さだけはどうにもならず、僕は火傷を負う。
「く! 」
守ってばかりではダメだ、攻めないと!
「マス・アフター・イメージ! 」
幸い、まだ魔法は使えているけど、距離が開き過ぎたら魔法すら展開できなくなる。ここは早めに決着をつけないと……
「笑止! 分身程度で我を惑わせれるとでも思ったか! 」
そう言って本体である僕に飛び掛かろうとするが、
「落ちろよぉぉぉ!」
分身は顎にアッパー、僕は脳天にげんこつを落とす。
ダメージが大きかったのか、ケルベロスは距離を取り、ふらついている。
「人間めぇ……我に傷をつけるとは! 」
「まだ終わりじゃないですよ! 」
分身に「ダークイグニッション」を唱えさせ、頭上から黒い球体を落とし、本体である僕はケルベロスにブラインドガーディアンで何百本もの剣をケルベロス目掛けて飛ばす。
剣は体中に刺さり、血を流し、効果がある事は見て分かった。
勝てる!
そう思い、僕はナイトフォールで切りかかろうとすると……
「調子に乗るな! 人間風情が! 」
別の頭から大きな氷の塊が放たれる。
咄嗟の出来事で反応できず、体全体に当たってしまい激しい痛みを感じる。
吹き飛ばされた僕は、片足を付いていると、氷の鎖の様な物で拘束されてしまった。
急いで解除しようとするが、ケルベロスはそんな隙を与えず、何か大きな魔法を放と
うとしている。
「遊びは終わりだ! 」
そう言うと頭を空に向け、吠えた。
ケルベロスの体から
すると、突然空が暗くなり、不穏な空気を感じる…
よく見てみると空から大きな岩が……こんな物を落としたら、沢山の人が死んでしまう、止めないと……!
しかし……僕の使える魔法であんな大きな物を壊すには、あの魔法を使うしか……
すると突然、目の前に金色の粒子が集まり始めた。
「リヒター!わしの出番じゃ!」
そう言うと、マジシャン・タイプゼロが突然現れた。
「あれ? ゼロ……どうやって? 」
「乙女の秘密じゃぞ? ダメだぞ、乙女の秘密を暴くには『責任』が必要じゃぞ? 」
そう言うと、彼女は氷の鎖を破壊し、ヒールをかけてくれる。
体は楽になったが、僕は隕石の方を見ていると、ゼロは察したのかこう言った。
「よし! わしに任せたまえ! 新兵器を試す時じゃ! 」
そう言うと、彼女は何処からか大きな4つの穴が印象的な鉄の筒を右肩に構え、打ちはなった。
凄い速度で何かが隕石に向かって飛び、隕石に当たると大爆発し、粉々に砕け散った。
なんだあれは……!
「うーむ! 綺麗な花火じゃの~! 流石異世界の魔法じゃ! リヒター、わしはこいつに用があるから、そこで大人しくしておるのじゃぞ~」
そう言うと、ゼロはケルベロスを睨んでいる。
いつものふにゃーとした雰囲気等無く、私怨でもあるのかと言う位、恐ろしい何かを発している。
「さて……駄犬、わしは怒っておるぞ?貴様には失望させられた恨みがある。
毎回毎回お前が出きては『50』と言う数字を見せられ、『神』が降臨しても『2回目と3回目』にお前が出て来た時わしは何度怒りで身が震えたか……」
何の話をしているのか分からないが、きっとロクな事では無いのは本能的に分かった。
「おらぁ! 喧嘩は何処だぁ! 」
ステージの横からベルベット一家とハルさんが来た。
声を上げたのはカガリさんの様で、ケルベロスエンペラーはカガリさんを見て急に震えだした。
「え、あ……カ、カガリ様?!」
「ああ? 駄犬じゃねぇか…… てめぇ懲りずにまたあたしに挑もうってか? 良いぜ? 久々に犬の躾も楽しいからなぁ? 」
そう言って、指をポキポキと鳴らし、首を鳴らす、口元はにやけているが、目は笑っていない。
それを見たケルベロスエンペラーはトラウマでも発症したのか急に委縮し、震えた声を出した。
「も、申し訳ありませんカガリ様、す、直ぐに帰ります、ええ! 」
あ、あれぇ?
さっきまでの冥界の番犬だの、地獄の門番だの、ケルベロスの帝王とか色々言ってたけど……もうそんな威厳さが完全に消えた、目の前に居るのはただの犬だ……
「おい、ゴラァ! てめぇ、金目の物置いてけや? これだけ好き勝手に暴れたんだ、殺すぞ? 」
「あ……え……」
「あたしゃ短気なんだよ、殺すぞ? 」
「あ……じゃ、じゃあ、ケルベロスの宝玉で……」
「ダメだ、もっと寄こせ! てめぇ、舐めてると3体に分解してやろうか? ああん? 」
「あ…で、では…宝玉3で許してもらえませんかね? 」
そう言って、光り輝く丸い球体を3つを宙に浮かし、カガリさんの手元まで送る。
受け取ったカガリさんは悪態を付く。
「湿気てんなぁ! ケッ! さっさと消えろ駄犬! 次は冥王でも連れてこい! 」
カツアゲされた犬はシュンとした感じで魔法陣を通って何処かへと帰って行った……
こうして、ボロボロになった闘技場での騒動は収束した、闘技場はだ。
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