第20話:母親は暴君と菩薩の心を持つ

僕はブルーだった。

この日母さん達が帰ってくる、つまり僕の『死』が確実に近づいている。

彼女達の戦の翌日、僕は被害内容の把握をしていた。

見たくない事実だが…仕方ない…僕の責任になるのは間違いない訳だし…

彼女達の喧嘩によって発生した…被害はこうだ。


・庭が荒野化

・家の一部壁に大きな穴

・家の屋根部分に斬撃を受けたかのような大きな傷

・一部窓ガラスが割れている

・家の柱が歪んでいる

・不思議な異臭


これを見て溜息しか出なかった…

父と母が帰還した時、僕の処刑が確定する、そんな未来が見える…

僕の落ち込み具合を見た二人はかなり焦っている…


「リヒター君…ごめんなさい…」

「本当に…すまない…」

「…うん」


彼女達は反省している様だけど…僕の心情としては複雑だ。

頭では仕方ない事と思っていても、心はそう思ってくれない。そんな気持ちだ。


夜、父さんと母さんが帰って来た。

変わり果てた家を見て、二人は呆然と立ち尽くす。

壊れかけたドアを開け、母さんが大きな声で怒鳴る。


「な、な、何が遭ったの!!!」

「ごめんなさい、母さん…」

「リヒター、話なさい、今すぐに…!」


母さんはその晩、修羅と化した。

ベルベットとレイがやったのは事実だ、でも…契約者である僕が止めなきゃならないのに止めれなかった…だから僕の責任。

そう考えていて、母さんには僕の魔法が暴走した事にした。


ベルベットとレイは驚いた顔をしているが…まぁ監督不行き届きだから仕方ない、腹をくくろう。

そして僕は地獄を見た。


延々と終わらない指摘、感情と理論が混ざった言葉、気が付けば2時間経っていた。母さんはふと立ち上がり、裁判を行うと言い出した。


家族裁判だ。裁判官は『家庭』と言う名の人治国家の頂点に君臨する暴君、母親様だ。

弁護士なんて居ない、検事は母親様だ。

彼女は淡々と被害を説明し、判決を下す…


「この状況下で家に住み続けるのは難しいと判断し、新しい家を買う事で決定しました。では金銭の話ですが、リヒター、貴方が行った行動で起きた事です、よって!家を購入するまでの間、ホテル滞在費を請求します!死ぬ気で働け、以上!」

「え…でも、家壊したのは…」

「んー、そうねぇ…母さんも昔壁にパンチして壁一枚壊したりとかしてたしー…父さんと喧嘩した時なんて、柱に父さんを張り付けにして『地獄の業火』とかやったりしてたからねぇ…経年劣化よ、父さんがそうさせたから、父さんに頑張って貰いましょう」

「へ、ヘレナ…俺が悪いのか…?」

「母さん…」


僕は母さんを暴君だの独裁者だの言って申し訳ない気持ちになった…


「あ、でも良いホテルに泊まるから、頑張って働くのよ~それに二部屋も借りるんだから、多分30日で50万ゼニーはするかもよー?」


前言撤回、やっぱり母さんは暴君だ…


「はい…冬休みはギルドで働く予定なので、頑張って稼ぎます…」

「うん、じゃあこの話はお終い、さぁ、荷物をまとめてホテルへ行くわよ!」


こうして僕達は街にあるホテルへと移動した。

部屋割りは、勿論父さんと母さんで一部屋、残りの3人が一部屋となった。

母さんは「お楽しみに~早く仲直りしなさい~」と言っていた、ギクシャクしてるのが分かったのか…


部屋に入ると、大きい部屋だった、ベッドがとても大きく、3人一緒に寝れる位だ。

僕達は荷物を部屋に置き、テーブルに腰かけた。

此処まで僕達の会話は無かった、まぁ…話す気分じゃなかったのもあるけど…

ボーっと窓から外を見ていると、ベルベットとレイが近づいてきた。

彼女達はしょんぼりしていて、本当に反省している様だ…


「ねぇ…リヒター君…」

「何?」

「怒ってるよな…?」

「…」

「私もお手伝いしたり、働くから…許してくれない?」

「ああ…私達が悪かった…何でも手伝う、だから許してもらえないだろうか…」

「はぁ…僕は怒ってないよ、もし怒ってるなら、ベルベットとレイがやったって言うし、僕が止めれなかったのが悪いし、寧ろ手伝ってもらうからね!覚悟してよ!」

「リヒター…」

「リヒター君…」


彼女達は泣き出し、いきなり抱き着いてくる。

よっぽど不安だったのか、二人共肩を震わせている。


「すまぬ…すまぬ…リヒター…私が調子に乗らなければ…」

「リヒター君…お姉さん、捨てられるんじゃないかって思って…怖かったよ…」

「捨てはしませんよ、二人共僕の精霊だからね?僕も…ベルベットとレイが必要だからね、もう生活の一部だからさ」


彼女達は涙でぐしゃぐしゃな顔でニコっと笑ってくれた。


こうして喧嘩は終わり、学校が冬休みに入ったら、3人で働く事を約束し、もし大喧嘩をして、家を破壊したら口きかないと言っておいた。

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