第5話 父さんの仕事場3

ステージでは、MCが進行のチェック、台本とのすり合わせなどを行っていた。

「さぁ~!行ってみましょー!!」

ステージMCが華やかな壇上にて流暢に話している。


「ここ、効果音もっと抑えた方がいいな。」

「やっぱ選手は花道から出て、MCは上手かな?」


細かな演出もここでチェックしていく。

こんなに隅々チェックするのか・・・。ヒロシはその細かな調整に驚いた。


リハ中のステージMCが叫ぶ。


「さて、第三試合、高島平!!誰よりもゲームを愛する男!!今日もニヤニヤ平(だいら)は現れるのか!?」


「だって、父さん。」

「まあ、間違ってないな。」

「父さんどうしていつもニヤニヤしてるの?」

「楽しいからじゃないの?自分でもわかんねえな。」

「いつも思ってたんだけど。」

「うん。」

「悔しくないの?負けたりしてさ。」

「悔しいよ。」

「じゃあ何でニヤついてるの?」

「悔しかったらニヤついちゃいけない法律でもあんのか?」

「ないけど。普通は怒ったり、泣いたり、悔しがったり、するんじゃないの?」

「父さん普通じゃないから。」

「それは知ってるけど。」

「なんかな、上手く言えねえけど、その、勝ち負けじゃなく、心がヒリつくような、汗びっしょりかくような試合できたら、楽しいんだよ。」

「全然わかんない。」

「まだわかんねーだろうな。相手の思考と自分の思考を交わらせるその過程が面白れえんだ。結果は副産物だな。」

「ふーん。」

「まあ、プロゲーマーだから、もちろん結果は大事なんだけどさ。父さんはゲームが本当に好きだから、楽しむ気持ちだけは絶対に忘れないように心がけてるよ。」


そういう父さんの顔は、僕たち小学生と変わらない、ただのゲーム小僧みたいだ。

いつもそうだ。誰よりもゲームを楽しんでるよ。父さんは。


ヒロシはふぅーっと溜息をついた。

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