第3話 父ちゃんの仕事場

「お。ヒロシ。起きたか。行くぞ。」

朝7時。今日は土曜なので学校は休みだ。

ヒロシは昨日泣きすぎて腫れた顔を洗って冷やしながら、父の話を聞いていた。


「行くって、どこへ?」

「大会だよ、もう随分見に来てないだろ?」

「・・・いいけど、外暑いし。それに、大会明日じゃん。」

「そうなんだけどさ、準備とかお前みたことないだろ?行こうぜ。」

あ、これは行かないって言っても無駄な時の顔してる。

ヒロシは察した。拒否権はないようだ。


父親はヒロシにヘルメットを被せ、バイクに乗せた。

「しゃっ!行くぞ~。」

父親がご機嫌な様子でアクセルを捻る。雲一つない空。

汗ばむような気温だが、バイクのおかげで風が心地よい。


そこは有名なアーティストも使用するような、立派なホールだった。

「大きい・・・。」

思わず口から漏れた。

「だろー?2020年夏の陣。今年一番でかい大会だからな。中もすげえよ。」

中もさぞかし煌びやかなのだろう、ヒロシはそう思った。


ところが、会場内は「無」だった。

真っ新で、何もない。何もないただのだだっ広い空間である。

観戦用の椅子も、ゲーム機も、ステージすらない。


「ここ、本当に会場なの?」

ヒロシがおそるおそる父親に尋ねた。

「会場だよ、告知にもあったろ。」

「あったけど、何もないよ?」

「これから、作るんだよ。」

父親はニヤニヤと笑った。ああ、ゲームしてる時と、同じ顔をしている。

きっと、何か面白いことがあるんだろう。ヒロシはそう感じた。


「おー!高島平!来たな!」

大きな男がホールの向こう端から声をかけてきた。

「松山さん!お疲れ様ッス!」


松山と呼ばれた大男が近づいてきた。

「ヒロシ君かな?高島平にそっくりだな!」

「俺と違って、むちゃくちゃ優秀っすよ」

「高島平だって高学歴じゃねえか!何言ってんだ。」

「また昔の話を~。まあとにかく、今日明日、よろしくお願いします。」

「おう、ゆっくり見てけ!」

そういってガハハと笑いながら松山は足早に去っていった。

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