第2話 父ちゃんは変な奴

「ただいま。」

ガラガラと玄関の戸を引く。

家の中からは誰も返答がない。

「またかよ。」

ヒロシは靴を乱暴に脱ぎ、洗面所でキチンと手洗い・うがいをして居間に向かった。


「うわ~っははっ、マジか~。やりおるわ~。」

楽しそうな声が響き渡る。

「うおおっ。帰ってきたか坊主。おかえり。手洗いは・・・。」

「もうしたよ。」

居間で楽しそうにゲームをしていた男の言葉に被せるように、ヒロシは冷たく言い放った。


「さすが俺の子だねえ。エライねぇ。」

少し小馬鹿にしてるのか、本当に褒めてるのか。

彼はいつもこの調子なので全く読めない。


「もうすぐ大会なんでしょ。早くゲームしなよ、ご飯作っておくし。」

「おお。悪ぃな。次は頑張っからさ。」

「・・・・・。」

「何だ何だ、今日はやけに元気ねえな。」

「そんなことないよ。今日は焼きそばね。」

「何もねえことねえだろ。顔上げろ。」


ずっと俯きながら喋っていたヒロシの顔を、父親は掴んでぐいっと持ち上げた。


「そんなへらへらゲームしててさあ・・・、勝てるの・・・?」


ヒロシは顔を上げた瞬間、緊張の糸が切れたのか、ぼろぼろと涙を流しながらこう言った。


「負けてばっかじゃん、父さん。年齢だって若くないし。」


だめだ、だめだ。言っちゃいけない、こんなことは。

ヒロシは自分でぎゅっと抑え込もうとした。ただ、涙もしゃっくりも、止まってはくれない。


それと同時に、言葉も、長年ずっと自分の中にくすぶっていた気持ちと共に溢れ出す。


「遊んでお金貰ってるのと変わんねーじゃん、かっこわりいよ!」


とめどなく溢れる涙と鼻水。

父親は真剣な眼差しでヒロシを見つめながら、彼の言い分を一通り聞いた後、ヒロシの頭に手を乗せ、ポンポンッと2回、優しく叩いた。


そして、父親はギュっとヒロシを抱きしめた。

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