第3話 女流画家

 宗景は画廊に電話してあの絵……砂川夕陽の「雨雲の中の太陽」をどうしているか訊いた。受け答えた店長は画家本人に返却したと言った。宗景は参った。

「どういう風に返したんだね? もしや、俺が酷評してもう店に飾っておけないからと突っ返したりしてやしないだろうね?」

『いえ、そんなことはありませんが』

 電話口で店長は困惑した。

『先生。あの絵が何か?』

「いやね」

 宗景も言い訳に苦労しながら言った。

「俺もつい大人げなく言い過ぎたと反省してね。そうしたら知り合いにその画家のファンだというのがいてね、失礼を言ったお詫びに俺が買ってプレゼントしてやろうかと思ってね。あれは……いくらだったかな?」

『百三十万円ですが』

「ああ、そう」

 宗景は内心、チッ、あんな物がそんなにしやがるのかよ、と思いながら、努めて穏やかに。

「君、すまんが、画家に連絡して、買い取ってくれたまえ。絵が手元に届いたら連絡してくれたまえ。もう一度見てみたい。それから先方へ届けてもらおうか」

『承知いたしました。しかし……、こう申しては気分を害されるかと思いますが、先生には売ってもらえないかも知れませんよ?』

「なんだと? そりゃどういうことだ?」

 若造が、この俺に売れないとはどういう了見だ?!、と宗景はむかっ腹を立てた。店長はため息をつく間を空けて言った。

『先生、ネットの噂をご存じありませんか?』

「ネット? ネットってえのは、なんだ、インターネットか?」

『はい。砂川夕陽の絵がいっせいに画廊やインターネットのギャラリーから消えて、それについての噂が流れているんです』

「砂川夕陽の絵が消えた? なんでだ? 誰がそんなことをした?」

『いえ、ですから…』

 店長は恐る恐る言った。

『森山先生の不興を恐れて、皆一斉に砂川夕陽の絵から手を引いたんです』

「何言いやがる!」

 宗景は怒った。

「俺は自分の絵を飾る場所から片づけろと言っただけだ。画壇から排斥しろなんてことは言っておらん! 第一、」

 宗景はカッカと顔を赤くして怒った。

「俺がそういうことが大嫌いなのは知っているだろう!?」

 店長は恐縮して言った。

『それはもちろんそうなのですが、先生の絵と砂川夕陽の絵をいっしょに扱うのははばかられまして、どちらを取るかと言えばやはり先生のお作を優先しまして』

 宗景は忌々しく問いただした。

「第一だな、誰がそんなことを言いふらしおった? あれは、あの場にいたおまえらしか知らんことだろうが?」

 店長は犯人に疑われて慌てて言い訳した。

『誰も言いふらしてなんかいません。ただ、何故急に砂川夕陽の絵が無くなったのか、売れたのかと問い合わせが相次ぎまして、店としましては画家からの希望で引き取られたと、まあ、嘘をつきまして…。そこを邪推されてあれこれ言われているのかと…』

「それでなんで他のところまで取り扱いをやめる?」

『皆そうした情報には敏感でして。ネットで先生が手厳しく批判したというのが噂されて、それを見た業者がうちも先生に睨まれたらたいへんだと自主的に引っ込めたんですよ』

「だからどうして俺の名前が出た!? おまえのところからだろう!?」

『決して何も口外したりしておりませんが、先生の新作が展示されたのと同時に消えたのと、先生がインタビューで暗い絵は嫌いだとおっしゃっていたところから推測されたのかと』

「…………………」

 本当のことなのでさすがの大先生もクレームの付けようがない。

「ちくしょう、参ったな……」

 宗景は受話器を離し、苛々と考えた。もしもし、と言う声が聞こえて再び耳に当てた。

「あのな……。いいから、画家に俺が謝っていたと伝えて、是非あの絵を売ってもらってくれ」

『左様ですか。画家も喜ぶと思いますが…』

 と、店長はほっとしたように言い。

『先生、いかがされました? ずいぶんと砂川夕陽をお気にされておられるようですが?……』

 宗景は苦虫を噛み潰したみたいな顔で言った。

「いや、特にどうしたということじゃあないよ。たまたま、知り合いがファンだと言うので思い出しただけだ」

『左様ですか』

「うむ。ま、俺も大人げなかったよ。すまないが、俺に成り変わって十分謝罪しておいてくれたまえ。まあ、迷惑掛けて悪いが、そちらにはまた何かのおり礼はするよ」

『ありがとうございます。では画家に連絡します』

「うん。頼むよ」


 電話を切った宗景はむっつり不機嫌に考えた。

 ちくしょう、インターネットの噂だと? まったく素人どもがどいつもこいつもいっぱしの批評家気取りで好き勝手にほざきおって。そうしてべらべらしゃべりたがる奴らに限って底の浅い狭い視野しか持たず、自分の見方が絶対正しいのだと頑固に人の意見に聞く耳を持たない。…………。

 宗景はむっつりと俺もそうか?と思ったが、冗談じゃない、そんな底の浅い素人どもと俺がいっしょのわけはないと、ひたすら不愉快になった。

 宗景はインターネットというものが大嫌いだった。どいつもこいつも情報情報と忙しくして、どんどんどんどん物の見方がインスタントになっていく。

 上っ面の情報に惑わされて、振り回されて、自分の目で本物をじっくり見るということが無くなっている。

 情報というのは、つまり、他人の目だろう?

 自分の目に自信が無く、自分の意見に自信が無く、自分の意見が持てず、すべて他人の受け売りで、すなわち、自分という物がどんどん希薄になっていき、無くなっていっている。

 自分という存在さえ他人からの情報で形作られ、他人からどういう情報として見られるか、他人の目ばかり気にしてやがる。

 ええい、どいつもこいつも、インターネットなんぞやっとる人間はくだらん奴らばっかりだ!

 と、齢六十三の大画家はカッカカッカと腹を立てるのだった。



 一方。

 電話を切った画廊の店長も考えていた。

 四十二歳で、竹林という。

 竹林も若い頃絵を描いていて、パリに留学していたこともある。結果自分に絵の才能がないことが分かり、こうして売る側の人間になっている。この年でこれだけ立派な画廊の店長を任せられているのだから成功した人生だと言っていいと思っている。

 竹林は砂川夕陽の絵が日本画壇から干されたのがオーナーの蔵田のせいだと知っている。彼が大先生のご機嫌を取るために砂川の絵を徹底的に批判したことを、暗に、言いふらしたのだ。竹林は大先生がそういうことを好まないということを知っているが、蔵田は分かった上で敢えてやったのだ。それがなんだかんだ言って処世術というものだと心得ている。

 竹林は砂川夕陽の才能を高く買っていた。確かにまだ青臭くはあったが、それは自身のパリ時代=青春を思い起こさせた。そして竹林は砂川の絵に自分にはない天性の才能を見ていた。羨ましく思ったし、その才能を自分の手で開花させ、世に紹介していきたいという願望があった。

 まあ……、大先生のような人の好む絵ではないだろう、とは思う。

 逆に、大先生には砂川の絵を好む、特に若い人たちの気持ちなど分からないだろう。彼らも大先生の絵を見て感動するということはないだろう。相容れない感性だろうし、無理に二つを合わせて考える必要もない。

 それにしても何故大先生が急に砂川の絵を気に掛けたのか気になる。知らぬふりをしていたがやはりインターネットの噂を聞きつけ悪役にされて慌てているのではないか? 大先生がそんなことを気にするようにも思えないが、いや、人の評価、とりわけインターネットの巨大な組織的情報発信力というのは馬鹿に出来ない。悪意をもって攻撃のターゲットにされたら堪ったものではない。

 身から出た錆とはいえ大先生もとんだご災難だなと思う。

 それはさておき、

 砂川夕陽だ。

 ギャラリーに展示していた二十号七十三×五十三cmの油絵「雨雲の中の太陽」は、

 実は倉庫に隠してある。

 竹林がオーナーに内緒で隠して保管しておいたのだ。オーナーには画家本人に返却したと嘘をついている。

 砂川には今は時期が悪いからしばらく我慢して待っていてくれ、と伝えた。

 チャンスは必ず巡ってくる、

 自分が作る、

 と約束した。

 竹林は彼女と信頼関係がある。彼女は竹林が本当に絵が好きで、自分の才能を高く買ってくれていると知っている。

 竹林の思惑は、砂川夕陽の絵を海外に持っていこうと思っている。出来れば彼女自身を海外に留学させて、色々刺激を与えてやりたいと思っている。大先生の言ではないが、外へ出て才能を思い切り解放させてやりたいと思っている。

 以前会ったときにもそうした話をしたが、彼女の方にも事情があるようで、躊躇が強かった。竹林は今回の一件を機会にもう一度それを勧めてみようと思っていた。

 さてどうしたものかと考える。

 大先生と和解が成立し、再び画壇で評価されればこちらも海外出展、留学の援助もしやすいだろう。しかしそれとも、一度ケチの付いた日本画壇を蹴って、海外で評判を取り、凱旋帰国で見返してやるか?

 竹林本人には後者の方が愉快で魅力的ではあるが、まあわざわざ波風立てることもあるまいか? あちらが素直に謝ると言っているのだから、こちらも素直に受けて恩を売っておくのも悪くないか?

 まあ、ともかく、

 竹林は画家本人に連絡した。

 彼女は仕事中のようで、留守電に手が空いたら電話をくれるようメッセージを残した。

 夕方遅くに砂川から電話が来た。


 竹林が事情を説明し、大先生の謝罪を伝え、あの絵を売って欲しいと申し出ると、彼女は考え、言った。

『あの絵は、もう表に出したくありません』

 竹林は、ああこれはやはり相当気を悪くしているなと思った。しかし彼女は考え、続けて言った。

『森山宗景先生にお会いしたのですが、ご紹介していただけますでしょうか?』

 竹林は彼女のキャラクターを考えた。基本的に物静かな女性だが、自分の意見を譲らない頑固なところもある。見た目に似合わず芯は図太く、硬く、まっすぐなのだろう。

 二人を会わせて、また見解の相違で喧嘩、その場が修羅場と化す地獄図絵を思って胃が硬くなった。

 そんな竹林の心中を見透かしてか砂川は軽やかな笑いを含んだ声で言った。

『あちらが謝ると言ってくださっているんですからもう恨みもありません』

「ああ、そう」

 竹林はほっとした。

『それより、わたしの新しい絵を先生に見ていただきたくて』

 竹林は驚いた。

「新作を描いていたんですか? それは素晴らしい。是非わたしも見たいよ。

 ええと、それではですね…、

 絵は、持ってこられますか?」

『はい。それほど大きな物ではありませんから。八号です』

 四十五×三十三だ。最近の彼女の絵の中ではまあ小さな方だ。

「では、ここへ来ていただけますか? 先生もここへお呼びして、ちょっとした新作発表会と行こうじゃありませんか?」

 竹林は砂川夕陽の新作に心が浮き浮き沸き立った。

『はい。ありがたいです』

「ああ、よかった。それでは…」

 と都合の時間を聞き、先生と調整の上連絡をしますと電話を切った。

 さっそく森山宗景先生に電話すると、あの絵は売れないと言うとがっかりしたが、直接会って新作を見てもらいたいと伝えると、思いがけない事のようで考えたが、それは是非と返事をもらった。時間の都合も砂川に合わせてくれて、竹林は礼を言って電話を切った。

 折り返し忙しく砂川に掛け、会見成立を伝えると喜んだ。竹林も上機嫌で「ではその時に」と電話を切った。



 それから三日後、砂川夕陽は新作を携えて画廊に現れた。竹川は早速拝見させてもらいたかったが、砂川は森山先生が来てからと梱包を解いてくれなかった。

 約束の時間から二十分過ぎて大先生は悠々と現れた。

 応接セットのソファーから立ち上がって砂川夕陽は森山に挨拶した。

「砂川夕陽と申します。この度はわざわざお越しくださいましてありがとうございました」

「ああ、いや…、その、すまない、途中で事故に遭遇して、遅れてしまった。申し訳ない」

 タクシーで向かう途中車同士の事故が引き起こした渋滞に巻き込まれて遅れてしまったのは事実だ。これでもきちんと時間に合わせてそわそわしながら早めにハイヤーを呼んで自宅を出たのだ。横を通るときに見た事故は状況はよく分からないが一台は横っ腹が半分に折れて一台は前半分がぐしゃぐしゃに潰れ、それは無惨なものだった。

 砂川夕陽に会い、

 女だったのか?

 と宗景は戸惑った。てっきり男だとばかり思っていた。

 しかも宗景の想像していたのとはずいぶんキャラクターが違うように感じる。

 もっと陰々鬱々と内に籠もった感じを予想していたのだが、言葉遣いもはっきりして社会性があり、文学系の細身の、またはブクブク醜く太った男を想像していたのが、小柄だがひどく健康的な肉体派の若い女性だった。

 宗景は想像していたのとはまた違った苦手意識を感じた。

 宗景は座を勧められ、思い出して言った。

「どうやら君にはずいぶん迷惑を掛けてしまったようだね? どうもわたしの言葉が一人歩きして、どうもその、周りによけいな気を使わせてしまったようだ。申し訳なかった」

 頭を下げる宗景に砂川は屈託なく笑い言った。

「それはもうけっこうですから。なにはともあれ森山宗景先生のような大先輩の大芸術家にお目を止めていただいたわけですから、かえって嬉しいです。これを機会にご指導のほどよろしくお願いします」

 ささどうぞと店長に勧められて砂川に向かい合って座り、宗景はひどく居心地悪く思いながら座った。ニコニコ見てくる砂川の笑顔がどうも押しが強く、苦手だ。どうやら自分はこの女に借りを作らされてしまったらしい。

 本当にこの女が砂川夕陽なのか?

 あの絵を描いた?

 宗景は今一度訊いた。

「あの、『雨雲の中の太陽』をわたしに譲ってもらうわけにはいかんのかね?」

 砂川は一瞬本性を現したような冷たい目になり、それを払拭するようにおどけた笑いを浮かべると言った。

「あの絵は、嫌になりました。言われてみれば、確かに暗くて陰気で、気が滅入ってくるばかりの絵です」

「いや、君、それは悪かった。確かに俺自身はああいう絵は好みではないんだが……」

 歯切れ悪く言い訳する宗景は店長に、おい、と加勢を求めた。店長も眉をひそめて深刻そうに言った。

「森山先生には悪いですがわたしはあれはいい絵だと思いますよ? ファンも多いですし、自信を持っていいと思いますよ?」

 いえいえと砂川は笑いながら首を振った。

「あれは、もう、全然、駄目です」

 その言い方に店長の顔はますます曇った。砂川本人は吹っ切れたようにあっけらかんと言った。

「あれはもう過去の作品です。今のわたしの絵ではありません。あればかりでなく、今表から消えている絵も、ちょうどいいです、もう人様にお見せするつもりはありません。

 そうです、今のわたしの絵を見てください」

 ようやく画家のお許しが出たので店長は店員を呼んでていねいに茶色いクラフト紙の梱包を解いて画架に掛けさせた。

 現れた絵を見て宗景も店長も驚いた。

 ひまわりの絵だった。

 三本のひまわりとその奥にも数本のひまわりが、幼稚園児がクレヨンで描いたように天真爛漫な明るい太い黄色い線で描かれている。

 一瞬子どもの絵のようでぎょっとさせられるが、その実その線は何度も色の濃度を変えて重ね描きされており、非常に立体的で力強い。構成も三本のひまわりが飛び出してくるように迫力いっぱいでよく考えられている。

 更にその絵を不思議に見せているのが背景の処理だ。いかにも砂川夕陽を思わせる灰色の空だが、これまでの澱んだ感じの灰色ではなく、シャープな線がデザイン的に塗り重ねられ、部分的に水色や青も混じり、それがなんとも、ダイヤモンドのような輝きを思わせ、そう、雨が止んだ後に太陽が顔を覗かせた光る雲だ。その暗く輝く空を背景に強烈に生命力を感じさせるひまわりは、一通りではない複雑な表情を様々に想起させる。

 宗景も店長も非常に強い驚きに打たれ、しばし思考を止めて絵に見入った。

 ようやく、

 店長が喉をつばで湿らせながら言った。

「これはまた、ずいぶんと作風が変わりましたね?……」

 一瞬別人の絵かと思ったが、確かに筆致は砂川夕陽のものだ。

 宗景も唸りながら言った。

「こいつは……、化けたものだなあ…………」

 宗景は腕を組み、ううむと唸った。

「どうでしょう? これが今のわたし、新しく生まれ変わった砂川夕陽の絵です」

 自信満々に言う砂川に、

「まさに…、新生砂川夕陽だ………」

 店長はすっかり感心して言った。しかしふと。

「しかし……、この絵の変化は……。確かにすごくいいと思うんだが……、以前の絵にあった切なくなるような生への渇望感が感じられないなあ……」

「なあにを言ってるんだね、君!」

 宗景は立ち上がり、絵を手で示し、すっかり興奮して言った。

「素晴らしい! これこそ、絵だ! 芸術とは、これだよ! 一見シンプルでありながら、その実、実に深い! 明るいが、その裏には人生の苦悩をたっぷり抱えている。その苦悩を乗り越えた、輝きなのだよ!

 砂川君、立ちたまえ!」

 宗景は砂川を立たせると、その両手をがっしり握って振った。

「おめでとう砂川君! 君は真の芸術家へ脱皮した。この絵は、傑作だよ! わたしは、感動した!」

 顔面に濃く感動を表した宗景に力強く握手され、砂川も誇らしそうににっこり笑った。

「ありがとうございます、先生。先生にお褒めいただいて、これほど名誉なことはありません」

 店長竹林は砂川夕陽の突然の大変身に驚きながら、その絵の素晴らしさは認めざるをえず、結局のところ、大先生同様ニコニコ笑って、立ち上がると感動の輪の仲間入りをさせてもらった。

「実は、砂川さん、森山先生も。

 ニューヨークで日本の現代美術を紹介する展覧会が開催されるのです。急遽、ではありますが、先生の『黄金の黄昏』と砂川さんの……」

「では。わたしの絵は『輝きのひまわり』と」

 竹林はにっこり頷き。

「砂川さんの『輝きのひまわり』を、その展覧会に出品しませんか? 現代日本のアートを幅広く紹介する展覧会ですが、その中で、どっしりと、この二つの作品は存在感を発揮すると思いますよ?」

 砂川は目を丸く輝かせて言った。

「まあ嬉しい! あの、わたしもニューヨークに連れていってくださいます?」

「ええ、是非! 全てうちで手配させていただきます」

「そういうことならわたしの作品もかまわないよ。アメリカ人を驚かせてやろう。ま、わたしは言葉の通じないところに行くのは御免だがね。それに、運ぶのに金が掛かるぞ?」

「お任せを。うちも出しますし、主催者も、先生の新作をいち早く世界に発表できるとなれば大喜びするでしょう」

 というわけで急遽翌月に控えるニューヨークの展覧会に二作品の出展が決まった。

 三人は祝杯のワインを片手に森山宗景の『黄金の黄昏』の前で芸術を語らい、砂川の『輝きのひまわり』もそのとなりに運ばれた。

「小さいな」

 と宗景は言い、

「是非これをもっと大きな絵に描き直しなさい。ひまわりは、もっと輝くだろう!」

 と勧めた。砂川も頷き、

「展覧会に間に合うように頑張ります」

 と答えた。

 宗景は、

 あの暗い絵は手に入れ損ねたが、こういうことならば、もはやその必要もないだろう、

 と、意気揚々と考えた。

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