世界
インターネットには魔法のことがのっていたが、それを調べることはライラがゆるしてくれなかった。そういったことを調べると、政府の秘密機関に、知られてしまう原因となるかもしれないから、とライラは言っていた。目に見えないものをしんじるためにはそれなりの知識・勇気がひつようだったりするのだけれども。ユウは、まあ、いまは、ライラの言うことをしんじてみることしかできなかった。そして、ユウはそれでも良かった。ライラは魔法をおしえてくれる存在だし、なによりきっとうそはついていない。そのうえ、ライラはじぶんとかかわってくれる存在なのだ。ともだちのいないユウにとっては、ライラのような半ロボット的存在は、とても貴重なものだったのだ。
それから、この世には使途という怪物も存在するらしい。それについても、ライラがいろいろとおしえてくれた。
「使途は、人間も魔法使いもみさかいなく食らおうとする。でも、なかには、魔法使いだけをねらう使途も存在する。おそらく、IQの高い使途だと思う」
善あれば悪もある。
といったところだろうか。
魔法使いが存在する反面、使途という害も存在するのだろう。
早朝の広瀬川。道には人のすがたも車の移動もない。川のながれる音だけがユウに聞こえてくる。
魔法の杖を一本、もらった。ユウはまるではじめて自転車を買ってもらった小学生のようによろこんだ。直径二〇センチていどだろうか。木製の木の棒であるが、それにつつみこまれる魔力のような目に見えないものをユウはかんじとる。かんじとったような気がするだけだろうが、しかしたしかにその杖にはなにかがやどっている。
はじめはライラから物質操作の練習の指導を受けた。小石を持ちあげたりなげとばしたりする初歩的の練習である。けれども魔法の杖というものはそもそもたんなる促進薬でしかなく、本来は杖はなくとも魔法はあつかえるようである。しかし現代は魔法使い――あるいはハンター熟練者となっても、長く杖をあつかいつづけることもあるようだ。杖があったほうが魔法使いってかんじがするよな、とユウは思ったが。ライラに「まだ幼稚」と、指摘される。
「なぜ、使途は人間を食べるの?」
ユウは小石を魔力で持ちあげ質問する。あたまのなかのイメージが杖をつたい現実化される。
「さあ、わからない」
ライラはそうこたえる。その「わからない」はもしかすると「人間はなぜ存在するのか」というような質問とおなじなのかもわからない。それはすでに哲学的な質問なのかもしれない。
「使途は、ふつうの人間には、見えないっていうのに」
そう。
使途は通常の人間には見えなかった。
なんだか一部の人間には見えたりもするらしいが。
人間はそれを霊的にとらえたり妖怪的にとらえたりモンスター的にとらえたりするらしい。
「それも、わたしにはわからない。それには、いろんなかんがえの人がいて、いろんな見解をしめしてくれているけど。わたしには、どのはなしも、しんじるにあたいしない」
「なるほど。まあ、そういうのはあるよね」
ライラはうなずいた。
「ウイルスのときもそうだったみたいだし」
「一説には、そのウイルスショックで使途があらわれたというはなしもある」
「そうなんだ」
ユウはすこしおどろいた。杖をふりかぶる。小石を川へとなげとばす。
「そんなかんじで、杖をふったりしないとなげられないようではぜんぜん駄目」
「そんなこと言われても今日、はじめたばかりだし……」
「ユウなら、できるはず」
だが、ユウの想像はまだまだ行きとどかない。
魔法は、すごくがんばりたいきもちだけど。
しかし、さすがに初日で強めの要求をされてもこまる。
つよくなりたい。
それがユウのねがいだった。
ただつよくなりたい。
ただつよく。
それはいままでじぶんが得られなかった人生のプラスの部分だった。
それが得られれば、きっとこんなじぶんでも自信をつかめるにちがいない。
ユウはそうかんがえている。
「なんだか、ライラは、いまにも使途がおそってくると言いたげなかんじだよね」
「使途は、自然災害。いつどこでなにがおこるのかわからない」
「自然災害、か」
「そう」
「それは、人間と人間のあいだにも言えることかもしれない」
「たしかに、そうとも言える」
「どこにだって、きれつは存在するんだよね」
「そうだね」
「でも、とにかく。ぼくは元気になったような気がする」
「もう、マンションにかえるひつようはない」
「お金、ないよ」
「わたしが持ってる。オリオンに行く」
「オリオン?」
「この日本に隣接された人工島」
「そんな島、あったっけかな……」
「ある。それはインターネットにはいっさい情報がないけど。オリオンはたしかに存在する。そして、そこならEEからの監視もない」
「EE?」
「政府の魔法機関の略称」
「どんな意味があるの」
「エンド・エンド」
「おわりおわり?」
「どこかのヒッピーがつけた」
「ああ、なるほど。おわりのおわり、のような……」
「たぶん」
ライラがそう言うとおもしろかった。まじめにこたえるので。
「使途は、EEに飼われている」
「え」
ユウはおどろいた。
「さっき自然災害だって」
「そう、自然災害。でも、一部の使途はEEの手中にある」
「映画みたいなはなしだね。正義の味方が悪をあやつる」
「そうだね」
「ぼくらのようなわるさをおかすかもしれない魔法使いを取りしまりつつ、しかしその裏では使途を飼っているだなんて」
「ひどいはなし」
「そうか」
ユウは気づいた。そうか、もしかするとハンターたちはEEと戦争しているのかもしれない。だが、どちらが権力をにぎっているのかは明白で、しかしたたかいはいまも続いているのだろう。おそらくまだ均衡している。
「いろいろ問題がありそうだけど、とにかくぼくは練習する」
ユウがそう言いだし練習を再開すると、ライラはうんとうなずいた。
第一目標は、オリオンへの到達か。
ユウは、目先のことはまったく想像ができなかったのだけども。
魔法の練習をかさねてゆくうちに、すこしずつじぶんというものにやはり自信を持ちはじめ、戦争のための努力をしようとかんがえはじめてゆく。
練習も、ユウはあっという間に身につけてゆく。ライラがユウには才能があると言ったように、ほんとうに上達するのがはやかった。
だが、それだけではいけないらしかった。いくら基礎練習をかさねても、ほんとうのつよさにはたどりつけないらしい。
「能力。それを見つけだすのがひとまず最初のゴール」
魔法使いにはそれぞれ特殊能力が存在したらしい。個性のようなものであるとライラは言った。それがなければ、このさきあるであろう魔法使いとの戦闘において圧倒的不利となるようだった。だったら、それは確実にひつようになりそうだな、とユウは思った。そして、あれ、と気づく。
あれ、いつの間にか、ぼくはこの道にすすんでいてそれがあたりまえとなっているんだな。
たたかうことにためらいがなくなっている。
それはまったく不思議なことだった。
きっときのうまでのじぶんだったら喧嘩もこわかったにちがいない。
だが、いまはそれすらもこわくなくなっている。
これが自信というものなのだろうか。
いや、ちがう。
きっと、それだけではない。
これは、あるいは契約者としての意識の変換なのかもしれない。
じぶんはある意味、ライラと出会ったことで生まれ変わったにちがいない。
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