体験入部
ガラッ…
「こんにちは。どなたかいらっしゃいますか?」
そう言って僕は音楽室の扉を開いた。
「よう。お前見ない顔だな。もしかして仮入部?」
「はいそうです。藤川と言います。よろしくお願いします。」
「名乗ってくれてありがとう。」
僕はコーラス部に入ることにした。今まで勉強一筋だった僕にとって嫌いなクラスメイトが騒いだり陰口を言い合う音楽祭にはあまりいいイメージがなかったし、そもそも僕は音楽活動なんてしたことはないし楽器も幼稚園の鍵盤ハーモニカと小学校のリコーダーくらいしかない。歌も音楽祭はほとんど声を出していないし、カラオケに行ったりもしなかった。せいぜいお風呂の中の鼻歌くらいだろう。
「音楽なんかやってた?」
「歌も楽器も特には……。」
「初心者ね。OK。強豪校だったら推薦とかでばんばん人とれるんだけどうちの学校そういうのしないし。したとしても勉強ついてこれないだけだしね。ただそれだからと言って初心者お断りすると部が崩壊するんだよね。うちも吹部も軽音も色々苦労しながら頑張ってるのさ。ちなみに俺も初心者だったから心配することはないぜ。」
「でもここの音楽系の部活、全部強いっていう話を聞きましたが。」
「まぁ否定はせん。頭脳とハートで音楽をやってるからな。」
僕が入りたいと思っていた理由の一つ。それはこの学校のコーラス部がなかなかに強いということだ。今までは教室の影に埋もれていて自分の力を伸ばしきれなかったので、高校に入ったら自分の力を発揮して名前を残してみたいなという願望があった。この部活は少数精鋭なので非常に僕に向いていると思った。歌も小さい頃に親と見に行ったのが印象に残ってる。
「とりあえずパートを軽く決めたいからピアノの前で軽く声出してもらっていいか?」
「わかりました。」
僕と先輩(仮)はピアノの前に移動すると先輩はピアノ椅子に座り、僕はその前に立った。
数十分後
「君なかなかうまいじゃないか。うちの部活に入らないかい?」
「いや今入ってるじゃないですか。」
「そーじゃなくて本入部だよ。嫌か?」
「そういうわけではなく。僕この性格上一度行くと断れないんですよ。だからここに入るつもりでいますよ。」
「そうかそうか。それはよかった。ただ仮入部期間はそろそろ帰らないとダメだぞ。また明日も待ってるからな。あっ言い忘れてた。お前のパートはアルトだ。詳しくはググれ。じゃあな。」
「ググれって…。ありがとうございました。」
なかなか楽しそうな部活だった。しかもあれで強豪校っていうのだから驚きだ。明日も部活が楽しみだ。
「っていうことだったんだけどみんなどうだった?」
「俺はもうくたくただぜ。初日からランニング10キロは勘弁してくれ。」
「右に同じく。なんでも一年間はずっとこんな感じらしいし。高校に入ったら運動部入ろうかと思ってたけどやめようかな。」
「俺は部活に同じクラブの先輩がいてな。クラブと一緒に部活やれるみたいだから入部するつもりだ。」
「へぇ。」
「じゃあこっちだから。また明日。」
「バイバイ。」
その後家に帰った僕は滅多に感じない楽しかったという感情を抱きながらベッドに飛び込んだ。
「それにしてもあなたが直々に面倒見るなんて珍しいですね。」
「まぁな。なんたって働き者だからな。」
「嘘おっしゃい。本音は?」
「…昔の自分を見てるような感じがした、じゃダメか?」
「…なるほど。」
「それにあいつかなり才能あるぞ。」
「なら目をつけておきましょうか。明日が楽しみですね。」
「あぁ、そうだな。」
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