みんなで下校
授業が終わった。
桧山くんが思っていた通り今日は簡単な自己紹介とシラバスで一日の授業が占められた。だから今日は授業という授業はなかった。
「お~い藤川。一緒に帰ろうぜ。」
「うん。いいよ。」
まだ学校のルール上、部活勧誘は始まっていないので今日はみんなで帰ることにする。
「そういえば3人って家どこにあるの?」
「俺と原口は西船橋だぜ。」
「じゃあ僕と同じ方向だね。」
「俺は八王子だから一人だけ反対側なのか。残念。」
この学校は某真ん中通る路線沿いにある。だから東東京だったり千葉方面の人とは一緒に帰れるけれど、西東京の人とは一緒に帰れない。僕は市川に住んでいるので当然千葉方面だ。
荷物をまとめて四人で歩いて駅へ向かう。学校の前には心臓破りの坂があり、登校時は地獄、下校時は天国という状況を作り出している。中学時代は一人で帰っていたのでこういうシチュエーションに少しあこがれていた僕はウキウキした気分で坂を下っていた。
他愛のない話をしながら坂をくだるとあっという間に駅に着いてしまった。
「じゃあ俺はここで逆方面だから。じゃあな。」
「おう。」
「バイバイ。」
「また明日。」
藤浪君と別れ、僕達は1番線のホームに昇った。反対側のホームには藤浪君の姿が見えた。相変わらずでっかいな。
そうこうしているうちに僕達が乗る電車が入ってきた。この電車は都会のど真ん中を通っているにも関わらず6両しかないという謎めいた電車で朝は学生やサラリーマンで乗車率が200%にもなる。僕は日本に住んでいてこれが一番嫌だ。ただ、時間帯が幸いして電車は空いていた。
「にしてもこの電車不便だよな。」
「何が?」
「いや、俺たちが住んでるところからこっちに出てくるまでってこれと地下鉄くらいしかないだろ?しかも快速はこっちこないし。ほんと不便だよな~。」
「確かにね。」
「まぁそれはおいといて。どうだった授業。俺はあんなもんかなと思ったけど。」
「でも今日自己紹介しかしてないよ?」
「そうだぞ桧山。本番は一週間後からだ。」
「確かにそうか。」
「そういえばさ、藤川はなんでこの学校に入ったんだ?」
「確かに。俺も気になってたわそれ。あんまり言いたくないならいいけど。」
「いや、二人のことは信用してるからいいよ。」
「そう言われると照れ臭いな。」
「中学の時の同級生と馬が合わなくてね。それで女子のいない男子校にしようと思って。近場だと顔合わせるかもしれないしさ。」
「なんで疎まれてたんだ?お前勉強バカだけどいいヤツじゃん。そんな要素なくね?」
「なんか照れるな……。ありがとう。自分達で言うのもなんだけどさ、僕達そこそこ、いやかなり頭いいじゃん。それをよく思われてなくてね。それに僕、昔から引っ込み思案だしそういうのもあってね。クラスメイトと関わりなかったんだ。」
「なんかごめん。」
「いやいいって。」
「いや藤川に非ねぇじゃん。クラスメイトが自分の力不足をお前に押し付けてるだけだろ。お前全く悪くないじゃん。」
「しょうがないさ桧山。いやまぁしょうがないじゃ済まないけど。ゲームでレベルの差がありすぎると試合にならないのと同じだよ。」
「なるほど。それもそうか。」
「いや、悪いのは僕なんだからそういうこと言うのは」
「藤川の悪い癖だなそれは。高校で変わるって言ってたろうに。お前は悪くないんだから自分に自信持てって。」
「そうだよ。勉強できないのも他人とつるんでしか何もできないのもそいつらの実力がないだけなんだから。」
「……ありがとう、二人とも。元気出たよ。明日からもよろしくね。」
「おう。」
「元気出てよかった。丁度駅着いたしじゃあね。」
「また明日。」
—いい人達だな、やっぱり。
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