授業のはじまり
身体測定が終わった次の日。
僕が登校すると原口君と桧山くんが話していた。
「おはよう二人とも。」
「おはよう藤川。」
今日から授業だ。中学校までのただ教科書をまるまる写すだけという授業ではなくなり、専門的な先生が教科書に載っていないような知識まで教えてくれる。
僕の通う学校はなかなか偏差値が高い所で、お給金がいいので元大学教授が教えていたりする教科が多かったりする。中学時代、クラスメイトと関わらないでいい時間だった授業のつまらなさを憂いていた僕にとって、この学校の楽しみの一つであった。
「今日から授業だろ?昨日みたいに帰らせてくれよ~。」
「そういう訳にもいかんだろ。一応この学校は偏差値トップクラスなんだし。」「そうだよ。それに僕は授業楽しみにしているんだよ。」
「お前ならそう言うと思ったぜ……。」
途中で藤浪君が来て四人で話していると予鈴が鳴った。
「確か一時間目は国語だったよな。先生は……うちの担任か。なら楽そうだな。」
「なんで?」
「担任ということはクラスの面倒を見るということだ。今回は自己紹介とこれからの授業計画を話すだけだと思うし。今日は授業に入らないと断言できる。」
「なるほど!」
「はい授業するぞ~。座れ~。」
これから高校生活初めての授業が始まる。どんなもんか、見させてもらおうじゃないか。
「挨拶とかはめんどいからやらなくていいわ。ただおはようくらいは言ってな。俺は国語担当でこのクラス担任の大山っていう。よろしくな。まずはじめになんかやろうと思うんだが何やる?回答権はクラス三回までな。俺が納得しなかったら授業始める。」
大山先生っていうのか。っていうか、授業内容決めてないの?
「先生。」
「どうした?」
「授業内容決まってないんですか?」
「いい質問だ。これは回答に含めないでおこう。授業進行は後で言うとして、余裕もって配分決めてるし、テストも俺が適当に作るから何の問題もない。しかもこの授業金曜日の一時間目とかいう絶対やる気でない時間だろ?だから緩めでいいんだよ。」
「ありがとうございます。」
「よしお前たち。よく聞け。今みたいないい質問ならいいが変な質問ばっかするやつは教師にも女にも嫌われるぞ。覚えとけ。」
ぷふっ。反面教師か。でも面白い先生だな。
「先生。」
「ん。一回目な。」
「自己紹介しましょう。」
「なし!」
「なんでですか?」
「個人情報はプライバシーの侵害だし…本当のこと言うと今日のHRでやる予定だからな。残念だ。」
なるほど。残念だったね、桧山くん。
「先生のことについて熱く語ってください。」
「俺の人生厚すぎて1コマじゃ足りない。次ラストな。」
原口君の質問の癖がすごい。
「学校探検しましょう。」
「採用!ただ普通にするだけじゃ面白くないから自分が一番心に残ったところの俳句書いてきて。一番良かったやるには平常点あげる。」
藤浪君凄いな。センスを感じる。でも俳句か……。中学生活で何回か書いたけど苦手なんだよね。
「20分後くらいに帰ってきてな。親睦を深めるために周りのやつらで四人ごとで行けな。じゃ、始め。」
四人というと。やっぱりいつもの四人だよね。
「じゃあ、行こうか。」
20分後
「よしみんな提出したな。今から採点するからみんなで喋ってな。うるさすぎないように頼むよ。」
というと先生は自分の世界へ入ってしまった。
辺りは昨日と同じように静かになってしまった。数日だけじゃそんなに親睦を深めることなんて不可能だ。僕達がむしろ奇跡だったといえよう。
でもここで妥協してはいけない。自分を変えるためにこの学校へ来たんだから。
「みんなどこへ行ったの?」
「どうした藤川。お前そんなこと言うタイプじゃないだろ。」
「この空気が嫌いだしね。あと僕は変わるんだ。」
「そ、そうか。」
僕と桧山くんが話始めると周囲がざわつき始めるのは時間の問題だった。
「俺はグラウンド行ったぞ。でっかい蜂の巣があったぞ。」
「いやそれ問題でしょ。」
「僕は図書館に。何故か先輩達が漫画読んでたけど。」
先輩達、何があった。
「俺は職員室の前のトイレ。女の先生のグヘへ。」
何もいうまい。
こうしてみんなが思い思いに話し、クラスは大盛り上がりになった。
「採点終わったぞ。はい静かに。でもここまでうるさくなるとは思わなかったぞ。例年なら周りが牽制しあってろくに喋ってないから静かなんだよ。そうするとわだかまりが出来てグループができる。クラスに一人話題を作れるやつがいると団結力ができる。そしたらもう無敵さ。体育祭だろうが音楽祭だろうが文化祭だって優勝さ。一から十にするやつも必要だが零から一を作るやつに先生はなってほしいと思ってる。みんなもこういうやつになってほしい。そういうのが将来お偉いさんになるんだしな。好き勝手出来るのもこの三年間だけなんだ。精一杯楽しんでいこう。で肝心の俳句なんだがみんないまいちだったので全員点無しな。これから精進したまえ。一学期は俳句やるからな。今日は授業おしまいだが、さっき職員室のトイレ行ったやつ、ちょっと話があるから体育館の裏な。」
「勘弁してよ先生~。」
大山先生、一見ふざけてるように見えて実は生徒思いのいい先生じゃない。これなら3年間楽しい生活を送れそうだ。先生ガチャはあたりだな。
良い先生だったよ。僕も勇気をだせた。高校生活で僕、変われそうだよ。
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