身体測定

 始業式の次の日。

「よっす藤川。」

「おはよう桧山くん。」

「とりあえず席は出席番号順らしいぞ。よかったな。」

 入学式と始業式はどちらも講堂でやるので僕たちがこうして教室に登校するのは初めてだ。知らない顔が多くなかなか話す空気になれない。他の人たちもそう思っているようで教室の中は重い空気が漂っていた。

 僕はこの空気が嫌いだ。なぜなら中学時代を思い出すから。クラスになじめず周りから扱いに困る目をされているときと同じ雰囲気だから。

こんな状況を得意とするだろう桧山くんは黙りこくって僕の顔をじっと眺めていた。

 いたたまれず困っている僕達の所に救世主は舞い降りた。

「おはよう桧山、藤川。」

そう、原口君が教室へ入ってきたのだ。

「おはよう原口君。」

「よっ」

二人だけの時の桧山くんと違い原口君が来ると彼は急にテンションがあがりだした。

「いや~この空気が辛くて辛くて。何か変えられるものが欲しかったんよ。ナイスタイミング。」

「人をイベント扱いするなよまったく。ごめんな藤川。こいつ俺がいないと想像以上に臆病で人とふれあえないんだ。こいつと一緒で辛かったろ。」

「いやこちらこそ。桧山くんこういうの得意そうだから完全に頼ろうと思ってたらさ、全然喋らないんだもん。びっくりしたよ。やっぱり幼馴染は違うね。」

「そんなことないよ。」

「いやいや。」

「いやいやいや。」

「いやいやい

「うっせぇ!俺を置いて漫才するなよ!それと原口!そういうこと言うな!心にダメージ入るだろ!」

 クスクスと周りから笑い声がおこった。

「ねぇ、原口君。」

「ん?」

「もしかして、狙った?」

「なんのこと?」

「んー。なんでもない。」

「とにかく、みんなこれからよろしくな。」

「おう。」

「こちらこそ。」

 アッという間に教室の空気が変わって重々しかった空気がとてもほんわかとした空気になった。彼らは一見何も考えていないように思えるけど実は他人重いのいい人達だと思った。

「にしても藤川?だよね、あの漫才凄かったな。いわゆる夫婦漫才ってやつだろ?」

 どうやら僕もそう思われているようだ。


 体操服に着替えると先生が入ってきた。

「みんなおはよう。私の自己紹介もしたいところだが実は時間がない。とりあえず保健室で身長体重計測して、その他もろもろやって今日は終わりだ。多分2時間くらいで帰れるぞ。」

 実は僕はこの体力測定というものが嫌いだ。

中学時代は自分の身長や体重で自慢しあうというくだらない文化が根付いていた。そんなバカ騒ぎしている隣にいるのはとても辛かった。そんな男子を横目にきゃあきゃあ言う女子のことが本当に嫌だった。でも高校は女子がいない。そんな嫌な目に遭わなくて済みそうだ。

 ちなみに身長は藤浪君がクラスで一番背が高かった。僕と原口君、桧山くんは同じくらいだった。体重は、企業秘密ということで。


僕も原口君みたいに周りに気を利かせて、桧山くんみたいに流れに乗れて、藤浪君みたいに威風堂々とできる人になりたいな。

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