第9話 自白剤

 沈黙が続いて雑談にも応じなくなっていた那珂湊教授。


それに苛立ちを感じた宇都宮秀男は翌日には宣言通り強硬手段の準備を始めた。

上からの事態収束の圧力も続いた。


マスコミ報道で世論誘導が上手くコントロール出来ないと、若者を中心とした声を無視出来なくなる前に、那珂湊教授から全てを聞き出し、これ以上策を実行される前にが精神異常者としてレッテルを貼り、なかったことにしたかったのだ。


その為には全てを聞き出しておかねばならず強硬手段に出るしかなかった。


翌日、那珂湊教授は警察署内にある特別な取調室に屈強な目出し帽男4人に連れられ特別な椅子に固定されていた。


いや、拘束されていた。


SMプレーでもするかのような拘束椅子。

それに革のベルトで手足、身体の自由を奪われていた。


「那珂湊教授、最後にもう一度だけ聞きますよ。全てを話していただけないですか?私だって出来るならこのような手段は使いたくない」


と、ジュラルミンケースに入った注射器5本を見ながら言った。


「本当に国は急いでいるようだね。だが、私は自由にならなければ話す気はない。好きなように試してみると良い」


「くっ、仕方がない」


と、宇都宮秀男は那珂湊教授の左腕に注射を一本打った。


「薬が効くまで15分です。薬が効き始めれば那珂湊教授、あなたは夢の世界の住人。質問にはなんでも答えたくなるでしょう」


と、時計を宇都宮秀男は見ていた。


「15分経過、那珂湊教授、気分はいかがですか?」


「無駄なことだよ、宇都宮君」


「はっ?」


と、宇都宮秀男は目を閉じている那珂湊教授の目を目出し帽の男に手伝って貰い開けさせる。


「嘘だろ、訓練を積んだテロリストでさえ瞳孔が開いて焦点が合わなくなるという自白剤なのに」


「私には効かないのだよ。こうなることも想定していたからね。対策済みだよ」


「んなわけはない、たまたまだ」


と、二本目を打ちまた時間が経過したところで瞳孔を確認したが、正常だった。


「くそ、ならもう一本」


「宇都宮さん、これ以上短時間に続けて打つと死んでしまいます」


と、目出し帽の男が止めに入ったが


「目出し帽くん、心配ご無用」


と、那珂湊教授は笑いを見せていた。


その笑いに逆上した宇都宮秀男は残っていた三本の自白剤を注射してしまった。


「宇都宮さん、それは」


と、目出し帽の男が止めるより先だった。


「死んでしまったなら留置所で首を吊ったと言う事にしてしまえば良いだけだ」


と、宇都宮秀男は言うと、目出し帽の男達はドアの前に一歩下がり整列した。


が・・・・・・。


「宇都宮くん、それはなんでも酷いじゃないか、まぁ、私が殺す事が出来るのかな?」


と、那珂湊教授は不敵な笑みを見せながら、なんら変わりがしなかった。


「うぉぉぉぉぉぉぉ、こんなことがあっていいのか、こんなことが」


と、宇都宮秀男は取り乱して拘束されていた那珂湊教授を殴りつけた。


「宇都宮くん、君のが精神異常者だよ」


と、殴られ続けた那珂湊教授は一言言うと、目出し帽の男達が宇都宮秀男を羽交い締めにして止めていた。


那珂湊教授の自身への改造、それは宇都宮秀男が考えているより上だった。


今までの常識が通用しない。


人間と呼んで良いのだろうか。

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