第14話 答え合わせ③

「篠原悠也は相沢美優に付きまとわれている」

 篠原を探しに教室を飛び出す直前、坂倉はいきなりそんなことをのたまいだした。                 

「は? そりゃ彼氏彼女の関係なんだから当たり前だろ?」

「それが違う。おそらく、この二人は恋人関係じゃないさ。……少なくとも篠原悠也の方はそう捉えてない」

「じゃあ、相沢の自分語りはなんだったんだよ」

 すると坂倉はこちらを小馬鹿にするように見つめ、ため息を吐いた。

「……はあ。君はそんなことも分からないのか。見損なったよ。

 ……いや、初めから損ないきっていたから特に変わらなかったね。安心したまえ」

「ああ、俺もお前がいつも通り性格悪くて安心したよ。で、一体どういうことだよ」    

 坂倉はニヤリと嫌な笑みを浮かべた。

「――もちろん、間違っているってことさ。相沢の自分語りの大部分がね」

 


    ******************

ああ、胸倉を掴まれて苦しい。

けれど気分は悪くない。

「出雲! なんで美優のことを知ってるのか教えろよ!」

……あ。

「と、とりあえず、落ち着いてよ、胸が苦しい」

「くっ」

 ようやく篠原は俺の襟から手を放した。

 俺は少しだけ咳き込みながら冷静に考える。

 今、篠原は興奮している。

 言葉を選ばなければ暴力沙汰になりかねない。

 ここは変に嘘をつかず、正直に言うべきか。

「僕は、相沢さんから直接、聞いただけだよ」

「美優が? なんでだよ……あれだけ言うなって口酸っぱく言ってきたのに」

「それは、二人が恋人同士ってことを?」

 また襟に手がかかった。さっきよりも強い力だ。

「違う! 俺と美優はそんな関係じゃない!」

「でも、本人はそうだって」

「美優が勝手に言っているだけだ!」

 坂倉の推理、的中。別に驚きはない。そうだろうと思っていた。

 それはともかく、またしても胸が苦しい。どうにかこの男を黙らせないと。

 俺はあえてさらに踏み込むことにした。

「じゃあ、なんで本人に否定しないの?」

「う……」

 篠原が呻いた。襟の力が緩む。その隙をついて俺は篠原の手を引き剝がした。

「俺はずっと否定してる。あいつがそれを聞かないだけで……」

「はっ。それは、違うね」

 穏便に済ませるはずだったのに衝動を抑えられなかった。

 気づけば笑い、声を遮るように言ってやっていた。

 俺の変貌に篠原の顔が驚きに染まる。

「あんた、ずっとは否定できなかったはずだ。少なくともここ数年間は」

「な、なにを根拠に」

「相沢がおかしくなるからだ」

 坂倉は言っていた。相沢にはリストカットの跡があった。

 では、最初にそれに励んだのはいつだったのだろうか。

 俺のこの一言だけで篠原は当時のことを鮮明に思い出したようだった。

 吐きそうになったのか、口元を抑える。

「お、お前、どこまで……」

 篠原は恐怖に、俺は愉悦にそれぞれ口元を歪ませた。

 俺をさんざん小馬鹿にしたツケ、ここで払ってもらうぞ。

「まずは、昔のことから振り返ろうじゃないか」

 



 



        


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