第6話 村八分
HRが始まる2、3分前というかなりギリギリの時間に教室に着く。
やはりと言うべきか、ほとんどのクラスメイトが教室に集まってれぞれのグループで固まりながら駄弁っていた。
そんな中、ガラリと音を立てて教室に入る黒田と俺。クラスメイト全員の視線が刺さってかなり気まずい……
しかし幸か不幸か黒田が入ってきたと分かるや否や、それまで盛り上がっていたグループは即解散し、男女関係なく大人数のクラスメイトが黒田のところへ集まってくる。
因みにそいつらは全てカースト上位層の陽キャのみだ。
当然、その陽キャ達は俺のところには目もくれない。……まあ別に見られても困るだけだからいいけど。
それにしてもかなりの人気だ。
黒田は坂倉の人気が凄いと言っていたが、黒田自身の人気も十分高い。
理由として挙げられるのはまず第1に優しさ。
それは俺に対してあそこまで温かい言葉をかけている時点でもう分かるだろう。
なんなら俺に話しかけた奴全員良い奴まである。
第2にコミュ力。
それも陰キャな俺に対して積極的に話しかけてる時点でもう分かるだろう。
なんなら俺に話しかけた奴全員コミュ力高いまである。
第3に容姿。
そしてそれも先程の俺の彼女に対する陰キャ特有の童貞丸出し反応でもう分かるだろう。
なんなら俺に話しかけた奴全員容姿が良いまである。
……ナニコレ。俺に話しかけた事自体がプラス要素になってるじゃねーか。
いやー有能だな〜、俺の証拠能力。
と、1人自虐しながら黒田の横で愛想笑いをしてると、ボソリと話しかけてくる男子が一人。
お?俺に話しかけるとはどんな良い奴なんだ〜?
「お前、陽香と登校とか調子乗ってんじゃねえぞ」
「…………」
う、うわ〜、め、めっっちゃ良い奴来たわ。
いやコレ、完全に陰キャを脅す陽キャの図じゃないかと思う奴は浅い。
よく考えてみて欲しい。物の見方は多様だ。
これは恐らく、黒田が俺のことを好きだと俺が勘違いして告白して玉砕する前に警告をしてくれたってこと。つまり優しい御仁なんだ……そうだ、そうに違いない!! 黒田に聞こえないように言ってるのも俺に気を使ってるんですね、分かります。
流石、……えっと何君だっけ、すまん忘れた。
俺は忠告してくれる優しい彼に頷きを返す。
「うん、分かってるよ。黒田さんはみんなに優しいんだよね」
そう言うと、彼はフンとばかりに鼻を鳴らして俺に肩をぶつけると、黒田のところへ話しかけに行った。
もちろん俺は対抗せずに後ろにのけぞる。
そして彼は今の俺に対する態度から急変して、チャラい笑顔で黒田に話しかけた。
「お、陽香。今日も可愛いな!」
「もう! からかわないでよね!」
そして起こるは爆笑の渦。
……俺は一人蚊帳の外。
面白いなー、アハハハ……はー。
俺は肩を竦ませると、そそくさと自分の席に戻った。すると今度はクラスの陰キャ男子達から睨まれる。陽からも陰からも見放される。これはもう無キャと言っても差し支えない。
完全に村八分状態だ。
しかし、ただ一人、浅沼明彦だけは俺を感心の眼差しで見つめながらこちらに近づいてきた。
コイツも僕の数少ない話し相手だ。
勿論、声は
うるさくしすぎると陽キャ達から何を言われるか分かったもんじゃないからな。
浅沼は少しオタク特有の興奮気味の早口でまくし立てた。
「お前、よくあの場に1分も居られたな。俺だったら陽キャ集団が集まった瞬間、下向いて教室のホコリまみれのきったねえ床を見ながら足早に去ってるぞ」
「……妙に表現がリアルなのは経験談なの?」
「ったりめえよ。黒田と登校したことのあるのはお前だけじゃないんだぞ」
そう言うと浅沼は黒田を複雑な顔で見やる。今、彼が何を思ってるのか俺は分かった。
が、純粋な僕は黙っとく。
結局、浅沼は自分からそれを話題に出した。
「黒田、優しいのは良いけどよ。自分の立場を考えてなさすぎじゃね?」
「どういうこと?」
首を傾げながら聞くと、浅沼は俺をまるで変人を見るような目で見た後、何かを悟ったかのように俺の肩に手を置いた。
「……それに気付かないとは、やっぱりお前、本来は嫌われるような人間じゃなかったんだな、可哀想に。……それもこれも坂倉さんのせいか」
「え?何でそこで坂倉さんの名前が出るの?」
「もういいさ。お前はずっと純粋でいてくれよ」
そこで話を切ると、浅沼は元の席に戻って陰キャ同士の友人達と一緒に今期の覇権アニメは何かといういかにも自身の立場を表すかのような話をしはじめた。
……俺に話しかけてくれるだけで浅沼もかなり人が良い。
だから俺も積極的に話しかけに行きたいところだが、他の陰キャたちから何を言われるか分かったもんじゃない。
俺は諦めて、机に突っ伏して寝る事にした。
あれ?中学の時と変わってなくね?俺。
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