第12節 入学式と四人の姫たち−1


「月ノ宮さんの妹さん……ですか?」


 日向は恐る恐る聖に尋ねた。

 薄明女学院には場所は離れているが中等部が存在している。


「うーん。まあ、そんなところかな。だけど良かった。その反応を見る限り、君は色乃の知り合いで間違いなさそうだね。お名前を教えてもらってもいいかい?」

「あっ、私は明日風日向と申します! 月ノ宮さんとは同じ寮で暮らしています!」

「うんうん。日向ちゃんか。太陽に関わる名前って素敵だよね。僕は太陽が好きなんだよ」

「えっ、そうなんですか。私はあまり好きじゃないかなあって感じです……」


 日向がそう言うと聖は目を丸くした。

 日向は自分が失言をしてしまったのではないかと思い、ハッとする。


「ご、ごめんなさい。つい空気の読めないことを……」

「ううん。僕の方こそ無神経だったかもしれないね。君の肌や瞳の特徴はなるほどつまりそういうことか。従者たる者が日傘を差して登校するなんて最初は気取っている子かと思っていたけど事情があるなら仕方がないよね。それより、僕のことを年下だと思っているならどうして敬語なんて使っているの? もっとフランクにしていても僕は全然構わないよ」

「こ、これは私のくせなんです。それに、聖さんは見たところ普通科の生徒のようですから。蜜海さんも一年生の月ノ宮さんたちにはいつも敬語で話していますし、そういうものなのかと思いまして」

「蜜海? ああ、詩緒の従者だね。いや、まあ、あの子は堅物だからそこまで見習わなくてもいいんじゃないかな? そもそも、あの子は生粋の従者気質だから外部入学生徒の君ではキャリアも何もかものレベルが違い過ぎている」

「蜜海さんや詩緒さんとはお知り合いなんですね……」

「一応そうとも言えるかな。特別仲が良いとは言えないけど、彼女たちは付き合いやすい方だと感じているよ」


 聖は苦笑した。

 だが、日向は聖の見せる笑顔をどうにも胡散臭く感じていた。

 色乃と比較すれば、聖は表情豊かで態度もフレンドリーだ。

 しかし、その笑顔はどうしてなのかとても不安を掻き立てるものだった。


「さて、本題だけど、色乃は最近どんな様子なのか教えてくれないかい?」

「そ、そうでしたね。ですが、私もそこまで月ノ宮さんと交流がある訳ではなくて……」

「うん。おおよそそんなところだろうと思っていたよ。色乃は学校で誰とも関わらずにいようとしているらしいからね」

「聖さんもそのことを知っていたんですか?」

「それについては寧ろこっちも驚いているけどね。あの子、君にそのことを話したんだ……」

「偶然……というか。ほとんど絶交宣言みたいな感じでしたけど」

「ふむ…………」


 聖は難しそうな表情で数秒ほど考え込むような様子を見せた。


「ありがとう。君のおかげで色乃の学校生活が少しだけど分かったよ。もうすぐ入学式が始まるというのに引き留めて悪かった」

「いえいえ、こちらこそ大したお話が出来なくてすみま――って、ああっ!」


 日向は不意に近くにあったモニュメントの時計盤を見て、突然大声を上げる。

 彼女は気づいたのである、入学式開始の時間が五分後に迫っていることに。


「すすすすみません! 私、このままだと遅刻してしまうので、この辺りで失礼します!」


 聖に深々と頭を下げた日向は踵を返して入学式の会場である体育館に向かって走り出していく。


「……なんだか、面白い子。君のことは覚えたよ、明日風日向」


 聖は駆けていく日向の姿を見つめながら呟いた。

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