第6節 鉄仮面とメイド服


 空が夕焼け色に染まり始める頃、新月館の倉庫部屋からようやく日向と詩緒が出てくるのだった。


「やっぱり良く似合っていて途轍もなく可愛いですよ日向ちゃん」


 詩緒が日向の姿を見ながら興奮した様子で叫ぶ。


「そ、そうですか? ううっ、コスプレっぽく思われてないかな……」


 恥ずかしそうに呟く日向は黒のワンピースに白のエプロンのクラシックなメイド服を纏っていた。


「何を言っているのですか。侍女科の生徒となるのですから、エプロンドレスは第二の制服と言っても過言ではありません。寧ろ、学校や寮での生活はずっと着続けるものなので、ある意味、制服よりも長くお世話になる服なのですよ。」

「な、なるほど……」

「それにしてもいいですね、小さな女の子のメイド服姿というものは」

「えっ、今何か言いましたか?」

「ううん。なんでもないわ」


 詩緒の笑顔に日向は何故か一瞬だけ寒気を感じる。


「――こんなところにいましたか、詩緒様」


 その時、どこからか声が聞こえて日向と詩緒が声のした方に振り向くと、廊下の曲がり角でメイド服姿の女性が掃除機を両手に持って二人を睨んでいた。

 女性は銀縁の眼鏡をかけており、日向は彼女の顔立ちから理知的な印象を強く感じる。


「あらあら、蜜海みつみ、お掃除お疲れ様です」

「姿が見当たらないと思ったら、また年下の娘にちょっかいをかけていたんですか?」

「別に遊んでいた訳じゃないのよ? 見て! この子が件の明日原ちゃん! 私が選んだメイド服がよく似合っているでしょう?」


 詩緒が日向の両肩に手を乗せて女性に紹介する。

 女性は日向を睨み、日向は思わず肩をすくめる。


「……まだ自己紹介をしていませんでしたね。私は白雪蜜海しらゆきみつみ。薄明女学院侍女科の三年生です」

「わ、私は明日風日向です!」


 緊張した日向は上擦った声で答える。

 詩緒とは対照的に鉄仮面のように表情を変えない蜜海に日向は委縮していた。


「詩緒様には寮の運営予算についてお話がありましたが、それは後ほどでも構わないでしょう。今は一先ず、明日風さんに色々と教えておく必要がありそうですね」

「その仕事は私がしておくから蜜海はいつも通りにしていてくれていいですよ」

「いいえ。これは私の仕事です。詩緒様は大人しくしていてください」

「は~い。わかりました」


 詩緒は残念そうに肩を落とした。


「では、明日風さんはその格好のままで私と来てください。あなたには早速、使用人としての仕事を覚えていただきます」

「えっ、お、お仕事ですか!? 今日はもう時間も遅いと思うのですが……」

「この寮で暮らすのでしたら、家事全般の一通りは一刻も早く習得していただきます。わかりましたね?」

「……は、はい」


 反論も空しく、日向は蜜海の後をついていくしかなくなるのだった。

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