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「あ! ちょっとー、なに手ェ出してんのォ? 試合中の介入はご法度じゃないのォ?」


「……ああ、そうだな、退学でも何でも受け入れてやるよ。だから、俺に免じて、もう勘弁してやってくれ」

焔君の説得に対し、それでもナデさんは「むーっ」と不満気だった。その後、直ぐに審判が救護班と共に駆け付けて来て、おもりさんを運んで行く。

「審判さん、勝利宣言忘れてるよ? 観客の皆に伝えなよ、『転入生コンビの勝利』ってさ」

「き、貴様……ッ!」

「あ、何だその反抗的な目。仕事する気無いならマイクよこせよ、代わりに言ったげるから。『はーい皆さーん、ダークホースたる僕達が勝ちましたよー、拍手ー』」

当然、反応する者は誰も居ない。『ノリ悪いなー』とナデさんは再び頬を膨らまし、マイクのスイッチを切る。

「なぁナデ。お前は……お前らの目的は、この学校をメチャクチャにする事なのか? お前らは敵組織の……竜の爪からの刺客、なのか?」

「はぁ? 何それ。正々堂々と戦った後に掛けて来る言葉がそれですかい? 酷いなぁ、それでも正義の主人公? ――ま、『正解』だけれど」


……遂に。遂にナデさんは口にした。敵組織の人間だと吐いたのだ。ほぼ目的を達成したであろう、このタイミングで。


「けど、少し訂正させて貰うとさ、正確には僕らはその鷹だか竜の爪だかのメンバーとは違うよ。『依頼された』んだよ、組織のボスに」

「依頼された……? クシナダ、にか?」

「誰だっけ?」「あの依頼主の女じゃなかったかしら」

クシナダ。竜の爪のボスで、元々は優秀な竜騎士だった女。多くの絶望をその身で経験し、悪へと堕ちた。

「うん、そうそうクシナダさん。複雑な経緯を経て、僕の雇用先である『会社』? に彼女が助けを求めたんだ。『手を貸してくれ』って、藁にも縋るようにね。僕の会社、『弱い者の味方』をするのが仕事だから」

「弱い者? お前あいつらが何やったか知ってんのか!? 知った上で手ェ貸したのか!?」

「さぁ、知らないよ。僕らはバランスを取るだけだ。幸せな人達の陰には不幸な人達が居る。君らが幸せだと、不幸な奴らが居る。君らは一部を幸せにし、一部を不幸にした。幸せを実感するには不幸を経験しなければならない。僕らの会社はね、バランサーなんだ。一方に傾いてたシーソーを逆に傾けたり、平行にしたりするのさ」

「そんなん! そんなんハイソウデスカって受け入れられるか!」

「だよね、僕もそう思う」 ふっ、とナデさんは素のような表情で微笑み、

「一応、今のは相手に言っとかなきゃいけない決まりの口上でね。本来僕らは『君達サイド』だ。出来れば、もっと仲良く出来るような真逆な仕事だったならよかったけれども……残念だよ。僕らは嫌々、この善良な学園を終わらせなきゃならない。自然災害だと思って諦めて」

「何の為にこんな事すんだよ! 金か!? 名誉か!?」

「そんなの、『帰りを待つ可愛いファミリー』と『叶えたい願い』の為にきまってる」

ナデさんはマイクのスイッチを再び入れる。それから『作ったような』ニヤけ顔になって、

『えー、そんな訳で学園の皆さん、僕らは今からこの学園をぶっ潰すつもりです。異議のある方は下りて来て一列に並んで下さい。一人一人、時間が許す限りお相手する所存ですのでー』

一瞬、シン、と静まった後、『ふざけんなああああああああああ!!!』と皆の怒号。

『元気があってよろしいですねー。さっさと来て下さーい。時間がありませーん』

「――なら、最初は俺が異議を唱えてやる」 焔君はその手に身の丈程の大剣【ラグナロク】を顕現させ、ナデさん達に向けて、

「俺がこうして挑むのもお前らにとっては計画通りなんだろう? 学園長を倒してエレクを怒らせ、エレクを倒しておもりを怒らせて……最終的に、俺を怒らせる腹積りだったんだろ?」

「その通り。君達という希望を落とせば皆が戦意喪失して、無駄な犠牲は減るだろう?」

「ふん、考えが甘いんだよ。俺らが居なくなってもここの生徒達は簡単には絶望しねぇ。こんなピンチ、何度も味わって来た奴らだからな! ――来い! ファフ!」

「叫ばなくても聞こえてるからー」 のそのそとファフは焔君の側までやって来て、

「ホムラァ、だからあの時言ったでしょー? クシナダにちゃんとトドメ刺せって。いつかこんな風に報復の痛い目を見る事になるからって」

「そうそう、その子の言う通り。主人公の君はね、悪の根源をちゃんと断つか、若しくは相手を説得し和解する道を進むべきだった。何事も中途半端はいけないよ。このアドバイスは次回に活かしてくれ」

「ふんっ、何が次回だ。そんなたらればの話してどうする。俺らが進んで来た道に後悔の文字はねぇんだよ! さぁ! 勝負しろ!」

「だってさ。でも見た感じ、君は余り乗り気じゃなさそうだけど?」

訊ねるナデさんに、ファフは「んー」と首を傾げ、

「ファフはねー、今でも君達に憎しみは湧かないんだよねー。考え方も共感出来るし、平和ボケしてた子達が悪いってのもあったし。――まぁ、けれど」

ゴウンッと、ファフの体が炎に包まれ、

「それはそれとして、トールやディルゴ達をヤられて何も思わないわけでもないんだよねー。仲間の為だなんて、昔のファフなら考えられないけどさー、どうもホムラのあつくるしいのが移ったみたい。今回は久し振りに、熱くなれそうだよ」

炎のドラゴンの癖に熱しにくく冷めやすい彼女が、ここまで燃えるのはいつ以来か。

「うん、決めたぞ。この世界の戦利品は、『キミ』こそが相応しい」

「お持ち帰りー? カラアゲにでもして食べるつもりかなー? 熱くて火傷するよー」

軽口を言い合いつつも、既に、どちらも臨戦態勢。いつぶつかってもおかしくはない。

圧倒的なナデさん達コンビ。それでも焔君達ならとぼくは、ぼくらは期待せざるを得ない。

ファフは不死身(いわく不死鳥を食べた事があって消滅しようが何度も復活出来る)だし、焔君は近くだけで炭化させるような炎のバリアを纏えるしで、隙など全く――「センリ……」

ふと。ぼくを呼ぶ声。どこか懐かしささえ覚える弱々しい声。気付けば、肩にあった重みが消えている。首を回した先に居たのは、一人の怯え顔な少女。

「え、まさか、ポカリス?」 少女は頷く。半年前の戦時、彼女はこの姿になっていた。

竜人となっているという事は、つまりは――ぼくらは今、この危機的状況下で全盛期を取り戻している、と?

「センリ……ホムラ達を止めて……みんなでここから逃げるべきだよ……?」

「な、何を言ってるんだポカリ! ここまでメチャクチャにされてもう後に引けないのは分かってるだろ! それに! 焔君達なら――――ッ!?」

その時、唐突に、一瞬、ぼくは『夢を見た』。

その世界は、恐らくこの世界の『少し未来』の映像で……ハッ、とぼくは目覚める。

数秒意識を失ってたであろうぼくを、ポカリスは心配そうに見ている。

今のは間違いない。未来視、だ。

「さて、焔君。一つ聞いときたいんだけど……『君らを操って』皆の相手をさせる、『君らの我を忘れさせて暴れさせ』皆の相手をさせる、真面目に戦う……どれが一番嫌?」


漸く思い出す。

ぼくが、ぼくらが見た未来は――あの夢で見た、地獄だった。

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