34
――。
「ぅわっぷ! お、おいおい、ベロベロ舐めてくんなよっ」
戦場からの帰路……紅き炎のドラゴン〈ファフニール〉を使役する紅き髪の少年、篝火焔(かがりびほむら)君は、敵の洗脳から解放したドラゴンに懐かれていた。
「全く……焔は相変わらずのすけこましならぬドラゴンこましですわねっ」
「おかしな造語を創造するなエレクッ!!」
焔君に突っ込まれたのは、金髪碧眼の美少女、エレク・エイム・エターニアさん。使役するのは髪色と同じく金色の鱗を持つサンダードラゴン〈トール〉。
「相変わらずやかましい連中だ。静かに帰る事すら出来んのか」
「根暗女は黙っていれば良くってよ。不満ならば一人で帰りなさい」
「圧し潰すぞ金髪」 エレクさんにキレたのは、夜色髪でキリッとした切れ目の美少女、常闇(とこやみ)おもりさん。使役するのは同じく夜色の鱗を持つアースドラゴン〈ディルゴ〉。
三人に共通する点……それは学生服。三人はまだ十代の学生なのだ。そして、世界を救った竜騎士として名を轟かせている。
先程戦っていた敵こそは、半年前まで世界を混乱に導いていた悪の集団〈竜の爪(ドラゴンジョー)〉の残党。
竜騎士らは長年奴らと戦いを繰り広げ……そして半年前、焔君らが敵の幹部らや、ボス――天空竜を使役する元竜騎士――を打ち倒した。本当に、この三人は凄い人達なのだ。
「圧し潰す? 潰れているのは貴方の胸では無くって?」
「来いディルゴ!」
「お前らやめろガチの殺し合い始めんな! ――おわっ!? こんな所に石が!? (ズコー)」
「ちょ! ほ、焔っ、どこを触っている!? ぁん……やめ……」
「は、ハレンチですわ! トール! 焔に裁きの雷をッ!!!」
本当に、この三人は凄い人達なのだ。
「おいおい千里(せんり)、お前もあいつら止めてくれよー」
「え!?」 と。いつの間にか焔君がぼくの側にいて、肩を組んで来る。
「い、いやーぼくにはどうにも……下手に君を擁護したら、どんな飛び火が来るか……」
「血も涙もねぇな!?」
「ぅぅ……ごめん。やっぱり、ぼくなんかには君達のような英雄の側に居る資格なんて……」
「涙はあったがガチ泣きすんなよ千里!? お、おいお前ら! 千里が泣いちまったぞ!」
すると、「むっ、それはいかんな」とおもりさんが頭を撫でてくれ、「泣き虫ですわねぇ」とエレクさんがハンカチを貸してくれた。本当に優しい。
「それで千里……今回はどうだった?」 訊ねて来る焔君にぼくはかぶりを振る。今回もぼくは『力を取り戻せなかった』。
これでも、ぼくも一応竜騎士、ではある。けれど、てんで戦闘面はダメ。ただ、特殊な能力だけが取り柄『だった』。
ぼくのドラゴンは千里眼を持つサウザンドドラゴン〈ポカリス〉。過去を読み、相手の心を読み、未来を読むその千里眼は半年前の大戦時は本当に役に立った。ただ、あの時は常に生命の危機を感じていたような状況だったから、ぼくもポカリスも覚醒状態で……大戦が終わって落ち着いた今、その力は殆ど鳴りを潜めてしまったのだ。
なので、こうして英雄達の『残党狩り』に同行し、当時を思い出すようなピリピリした空気を味わっているのだが……力が復活する様子は無い。
ぼくらの背後を護るように、のしのしとついてくる三体のドラゴンらは威風堂々としたものだ。それに比べ、ぼくの肩に乗るポカリスは小型犬に羽が生えたような見た目の上、常にプルプル震えていて情けない。竜騎士とドラゴンは一心同体。つまりぼくと同じだ。
「まぁ、そう落ち込むなよ千里。知ってるだろうが、俺が目指すのは『竜騎士の居ない世界』だ。世界が平和なら、お前の力も俺らの力も必要無くなる。ドラゴンと人間、仲良く暮らせる世界が理想なんだよ」
「焔君……ありがとう」
「千里……」
「うわぁ……やはりこの男二人、色々とあやしいですわねぇ」
「千里も男の癖にそこいらの女より見た目も上で愛嬌もあるからな……ひょっとするぞ」
そんな風にぼくらが話しながら歩いていると、気付けば帰路先である学園都市への門が見えていた。門の奥は竜騎士を育成する目的の学園を中心に広がる巨大都市である。
その入口の門の所で、顔を知る二人の人物がぼくらを待っていた。
「おやじー、帰ってきたぞー。あとコイツ(ドラゴン)は残党から助け出したヤツだ。保護してやってくれ」
「焔ッ! 貴方またわたくしのお父様であり学園長である彼にそんな口調をッ!」
「知ってるよ、何だよその説明口調」
「ハッハ! ワシは気にして無いと言ったろうエレク。焔、そのドラゴンは任せろ。千里もおもりも、今回も良くやってくれた。済まんな、真夜中から出動させて、こんな明け方まで」
「学園長、私は大丈夫だ、気にしないでいい」
「おもりも何ですのその馴れ馴れしさはッ! もう少しお父様に敬意を表しなさい!」
基本他者を下に見る傾向のあるエレクさんが発狂するのを見てわかるように、目の前に居るスーツ姿のダンディな男性は物凄い人物だ。竜騎士としても数多くの伝説を残し、戦時も前線に立ち、その無双ぶりにぼくらを奮い立たせたヒーローである。
「全く。優秀な若者を後続に育てられてワシも満足だよ。安心して後を任せられる」
「ははっ、おやじ、まるで死ぬみてーじゃねーかっ」
「確かにな! ワッハッハ!」
「なんなんですのこの男たちは……」 エレクさんが男二人にドン引きした。
「千里……怪我は無いか?」 訊ねて来るのは、パンツスーツ姿の綺麗な女性。彼女はぼくらの担任であり授業では戦闘指導も行う現役竜騎士の竜宮先生だ。この学園の卒業生でもあり、当時のランキングは三年間変わらず一位だったという。怒ると怖い。
「大丈夫です。あと、すいません先生、今回もぼく……」
「ああ、気にするな、焦る必要は無い。いつも言ってるが、自らを卑下するな。お前も、戦時はこの三人に劣らぬ程の活躍をしたんだぞ? 胸を張れ」
言われて、ぼくが同い年の三人に目を向けると、皆小さく頷いてくれた。この三人は嘘を吐かない。厳しい事でもハッキリ相手に言うタイプだ。そんな三人の、ぼくを思ってくれている優しさが……嬉しくもあり、辛い。
「さぁ、四人もドラゴン達も、ゆっくり休んでくれ。今日は授業への参加は自由とする」
先生にそう言われたぼくらはひと息吐き、学園都市への門を潜ろうとして、
ポツリと、学園長が。
「ああ、これはあまり気に留めんでいい事だが……〈セレス〉が何かを警戒しておった。ヤツ曰く『胸騒ぎがする』と。この平和になった今、そこまでの脅威は無いと思うが……スマン、忘れてくれ。」
……そんなわけにはいかない。学園長のドラゴンことホーリードラゴン〈セレス〉は、ぼくとポカリスが持っていたような未来視に近い力と強大な戦闘力を持つS級のドラゴンだ。セレス……彼女の不吉な予言が外れた試しがないのを知っているぼくらは、顔を見合わせて苦々しい顔を浮かべるのであった。
そして。
その後、セレスの予言は的中した。訪れたのは、最悪の災厄。
もし、ぼくの力が完全に復活していたら……事前に分かっていたら、防げた悲劇だったか?
無理だ。あんな……あんな【悪魔】相手に……ぼくたちは全くの無力だったのだから。
絶対に、間違ってはいない。
ぼくらがやって来た事に間違いは無い。ぼくらは間違っていない。
間違っているのは、世界の方だ。
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