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◆◆◆
【一】
土煙、硝煙、爆煙……
土の香り、火薬の香り、血の香り……
憤怒、強欲、怠惰……
人間の視覚、嗅覚、感情を最もかき乱す場所、
そこは『戦場』である。
いつの世も、戦というものは無くならない。それが善か悪か、良い事か悪い事かなど、十数年しか生きていないぼくには何とも答えられない。
ぼくの目の前では、まさに今、戦が繰り広げられている。といっても、ぼくは離れた安全な場所で眺めているだけだが。
戦況は一方的。片や数十人の重火器を持った黒服の敵集団、片や手にあるのは剣や槍だけという三人の少年少女。有利なのは前者――言葉だけで取るならそう考えるのが普通。しかし、目の前に広がる光景は全くの『逆』。
「いい加減くたばれや糞ガキどもガァ!!!!」
複数人が一斉に、手に持つマシンガンを三人の少年少女らに放つ。避けようがなく、蜂の巣にされるのは必至……なのに、
ある少女の場合、体に届く直前の弾丸は『重力がおかしくなったように』地面にめり込み、
ある少女の場合、体に届く直前の弾丸は『磁石が反発し合うように』空中に静止し、
ある少年の場合、届きはするものの弾丸が『熱で溶けたように』蒸発した。
「糞ッ、化け物どもがッ! おい! 【アレ】を前に出せッ!」
敵が用意したのは――大木をも切り裂く鋭い爪、象をも凌駕する巨体、弾丸も刃をも通さぬ硬い鱗、そしてあらゆる物を消し飛ばす咆哮(ブレス)……その生物を、この世界では【ドラゴン】と呼んでいた。
首に特殊な魔法具を巻きつけられたドラゴンは、虚ろな瞳で前方に居る少年少女を見すえている。アレは無理矢理に使役させられる拘束具の一つ。当然、そこに互いの信頼関係は皆無。
「ドラゴンッ!! あのガキどもを吹き飛ばせッ!!」
命令されたドラゴンはその大口を開き、喉の奥を光らせる。その咆哮は、決して人類が到達する事のない残虐な破壊力を秘めている。
カッ! と、目を覆う程の閃光の後、少年少女へと放たれたブレス。今度こそ、とあちら側も思ったろう。 ――が。
「来なさい【トール】!」「来い【ディルゴ】」「舞い降りろ! 【ファフニール】ッ!!」
少年少女の呼び掛けの直後、『三つの影』が隕石が如く空から降り注ぐ。そしてその影は少年少女らを護るように、来たるブレスと対峙して――轟音と塵芥が周囲に広がった。
……、……。
「やったか!?」
勝利を確信したような、希望に満ちた声を上げた敵の表情が、すぐに絶望に染まる。
晴れた土煙から姿を表す『三体のドラゴン』。それぞれの硬い鱗には負傷の様子は無く、土埃しか付いていない。敵がドラゴン本来の力を引き出せていれば別だったろうが……その三体からすれば、今のブレスなど避けるに値しない威力なのだろう。
「ファフニール! あのドラゴンには手を掛けるな! 敵だけを薙ぎ払え!!」
怒りに燃える少年の命令に、炎のように紅い鱗を持つドラゴンが頷く。そこにあるのは固い信頼関係。
ドラゴンを使役し、共に戦い、分かち合う存在――――この世界では彼らを〈竜騎士(ドラグーン)〉と呼ぶ。
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