27

——翌日、早朝、メイ宅。


「と、いうわけで。これが昨日あった出来事ね。……聞いてんか? 親父」

ソファーの上で、メイの親父は俯いたまま動かない。耳にはイヤホン、手にはタブレット。聞いているのは昨日の夜録音した、尊ねぇとそのママン……つまりは目の前のオッさんの嫁との会話。見ているのは『新作漫画』。

おや? よく見れば、タブレットの液晶には水滴。それじゃあ読みにくいだろうに。

親父はイヤホンを外し、俯いたまま、

「……撫ちゃん……俺は……俺はこんなに幸せでいいんだろうか」

「どゆこと?」 震え声の親父。言わんとしてる意味は解っている。

「俺は……俺の娘の尊は……妻を助ける為に……死んだ後でも身を粉にして頑張っているという。本当に優しい子だ。家族の為に、あの頃の幸せを取り戻す為に……でも。その輪の中には、尊も含まれてないと、本当のハッピーエンドではないというのに」

「だーかーらー、『その件』はさー、さっきさー」

「わかってるっ。——ああ……俺達天ノ家は、どれだけ皐月家に感謝すればいいのだろうっ。一生を掛けても、恩を返せそうにないっ」

ガシッと僕の両手を掴む親父。大の大人がボロボロ涙零しちゃって、暑苦しっ。

「べ、別に、親父の為とかじゃないんだからね!」

「うんっ、わかってるよ……! ほんとうにっ……君という男を選んだ娘達の目にっ……狂いは無かった……!」

「はいはい。……でぇ、パパぁ、僕、今ちょっと店に欲しい調理器具があるんだけど?」

「なんでも! なんでも言ってくれ! 百個でも千個でも買ってあげるよ……!」

「そんな要らねぇよ」 感無量なのは結構だけれど、まぁ一応、釘は刺しとくか。

「でさ、今回の件で調子に乗って『尊ねぇに会いたい』とか『妻と電話したい』とか高望みはダメだかんね?」

「うっ……やはりだめかな?」

「そら今まで尊ねぇが親父の前に現れなかった時点でお察しだよ。欲張ると、今までの尊ねぇの頑張りが水の泡になりかねないかも?」

「そ、そりゃあ大変だ! 迷惑は掛けられないしね! ……いやぁ、本当……再び世界が明るくなった気分だよ! こんなに嬉しい誕生日プレゼントは久し振りだ! ポッカリと空いた穴が塞がっていく!」

「ん? そういえば親父、今日誕生日だっけか。……、ふぅん」

やられた。あの人なら僕の行動すらお見通しだろうし……良い具合に操られたかもね。

「全く。親父の嫁って、本当食えない人だよね」

「うん? ふふ、そうだよ! 妻は凄い女なんだ!」

自分の事のように自慢する親父は、心から嬉しそうな顔だった。


その後は学生らしく学校へ。


いくら明日の喫茶店オープンを控えていても、ゲーム製作が終わってなくても、学校はサボれないのだ。まぁ実際はサボるつもりだったのにメイと母ちゃんに怒られて渋々、なんだけれど。

かといって、学校での時間も無駄に出来ない。


休み時間には持ち込んだ機材でリリスらのボイス収録やゲーム作りの最終調整などをするわけだが……

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