24
グラグラ……横揺れの、大した規模では無いが、どこか気持ち悪さを覚える地震。
直後、大規模な大地の気の乱れを感じ、瞬間――『地面が消えた』。
「……わわっと! ふぅ。大丈夫ですか? ナデさんに姉さん!」
頭上からリリスの呼ぶ声。感覚の無い足元。真下の地面とは大分離れている。
この状況、どうやら今、飛んでいるらしい。危険を察知したリリスが、瞬時に僕とナイトの両手を掴み、飛行魔法を使ったようだ。
「助かったよリリス。大丈夫、この瞬間もバッチリビデオに撮ってるから。にしても……いきなり発生したあの巨大クレーターは何だろう? 隕石なんて落ちてないよね。おや、中心に、誰か居る?」
「ナデ……あんた今回、自分が何で私らに歌わせたか忘れたの? あそこに居るの、まさに【アレ】じゃない?」
「アレ? まぁいいや。リリスー、悪いけどあのクレーターの中心まで降ろしてくれない?」
「はーい!」 ふわりふわりと下がって行き、クレーターの最深部へ。しかし、本当に広く深い大穴だ。水を入れたらちょっとした湖だぞ。
地面に足をつける。クレーターの中心に居たのは――一人の全裸な幼女だ。緑髪、金色の二本のツノ、背中には小さな翼。スヤスヤと寝息を立てている。
「ふーむ、この子は一体」「あ、ちょっとナデ」 止めるナイトの声も聞かず、気安く頬を触れようとした、その時、カッと幼女の目が見開き、
「……う、……妾は、……何を、……くっ、……頭が」
「痛いの? 大丈夫?」
「……誰だ……妾に……ここまで近付いて……命知らずが……、……っ!? ――――き」
「き?」 キリマンジャロ?
「きさまァ!!!! 『天使』めがァ!!!!」
向けられる鋭い眼光と殺意。
と、幼女が口を大きく開いたかと思えば『カッ』と口の奥が光り――
――直後。クレーターの横っ腹に、先の見えないトンネルが開通した。
幼女の咆哮(と書いてブレス)が、音すらない破壊の光。キーンと、未だに空気が震え耳鳴りがする。咄嗟にリリスとナイトが僕を移動させて無ければ、今頃影すら残らなかったろう。こんな肌がピリピリする緊張感は久し振りだ。
「ハッ! ちょこまかと逃げ足だけは速い天使じゃ!」
「むぅ、いきなりな挨拶だな。てか、君は僕を知ってるのかな? 恨まれるほど君との思い出はないけれど」
「よくもぬけぬけと!!!! 妾を裏切りおって!!!! ただではおかん!!!!」
何やら人違いをしているな。説得をしても聞く耳を持ってくれなさそうだし。
と、目の前にリリスとナイトの姉妹が僕を護るように立ちはだかる。やだかっこいい。
「どこぞのわっぱどもか知らんがそこを退け!! 妾は加減が出来んぞ!!」
姉妹が動じる様子はなく、その態度に幼女は更に激昂し、
「命が惜しくないかたわけがぁ!! 妾も舐められたものだ!! 纏めて腸喰いちぎってくれるわあああ!!!!」
幼女が体を発光させ眩い光を放ち、そのシルエットが徐々に膨らんで行って――
クレーターをはみでる程の『巨大な竜』へと変身した。
「こ の 神 竜 を 愚 弄 し た 大 罪 ッ ! ! 贖 え る な ど と 思 う な ! !」
――一〇分後。
「ほらほらもうおしまいかい?」「があああ!! やめろおお!!」
僕の容赦無いロメロスペシャル(関節を極めた状態で相手を仰向けに釣り上げる技)に竜神様が悲鳴を上げる。
「ほらほら大股開いちゃって、あられもない姿をお天道様が見てるよぉ?」
「やめてくれえええええ!!!!」
まぁお巫山戯はこれくらいにして……多少は苦戦するかなと思われたこの世界の裏ボスこと竜神様相手でも、姉妹は圧倒的だった。引くぐらいに強い。
「ぅぅ……なんなんじゃお前らは……この竜神が歯も立たぬとは。それに……お前は妾の知る天使ではないな?」
漸く落ち着いてくれた竜神様に、僕らの事を話す。
「ふぅむ……あれから妾は千年も眠っていたのか。それでお前も、一応は天使だ、と」
「そそ。てか千年前にも天使はいたんだねぇ。君を封じたのも、その天使の仕業かな?」
「ああ……奴め、妾に隠れて他の雌にも手を出しておったんじゃ。それに怒った妾が奴を殺そうとしたら、このザマじゃよ」
――ん?
「その天使とは顔見知りだったの? いや、もしかして、それ以上の仲だったとか?」
「顔見知りも何も、妾は奴の『子を産んだり』もしている」
「マジかよ」 この見た目で経産婦かよ。まぁ本来の姿で無いのかもしれんけど。
「匂いでそこの二人の素性も把握した。そこの銀髪は我が竜の直系じゃろうし、そこの桃色髪のは……ふん、忌々しいフラガリアの女か。奴に色目を使った女と同じ甘ったるい匂いじゃ」
竜神様の話に困惑するナイトとリリス。千年も前から二人には繋がりがあったと、ご先祖様は一人の男を巡っていた仲だったと、加えてその男は天使だったというのだ。なんという運命の巡り合わせ。
竜神様は言う。二人の異常なまでの強さの要因は、天使の血の影響もあるだろうと。隔世遺伝なのか、二人からは天使の血の香りを色濃く感じるらしい。最初に僕を件の天使と勘違いしたのも、『ナイトとリリスの香り』が僕に染み付いていたのが原因だろう、と。
「天使……ナデと申したか。妾を起こしてしまったついでに、一つ頼み事を聞いてくれ。お前が天使ならば、妾を封じた天使の情報も得やすい筈じゃ。天使は不死。どうにかして、その天使を妾の前へと寄越してくれ。――今度こそ、息の根を止める」
「オッケー」と安請け合いをした僕は、とりあえず竜神様を魔王城へと連れて行く。いきなりやって来た竜神様に、ナイトのママンこと先代魔王様も四神竜の方々も『ええ……』と困惑していたが、快く受け入れてくれるようだ。
天使の情報を得たらまた来ると竜神様と約束し、僕らは『僕らの世界』へと戻った。
「あれ、ナイト。そのドレスの削り取られたような欠損部分は?」
「ああうん。竜神様のブレスがかすったらしくてね……私の魔法でも『戻せない』のよ」
……ほう。するってぇと何かい。あのブレスをまともに食らってたら、文字通り跡形も無くなってて、ナイトの時魔法ですら蘇生不可だったと。それは恐ろしい。流石は腐っても竜の神様だと畏怖するべきか。
「戻ったらライコにドレスの件謝らなきゃだ、発狂しそうだけど。にしても、事の発端たるその天使はとんでもない奴だね。特に竜神様含む色んな女の子に手出したとことか」
「「…………」」
姉妹は同意してくれなかった。
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