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【四】
エロタワーではしゃいだあの日から二日……喫茶店オープンを三日後に控えた今、僕らは再び異世界(リリスらの)へと舞い降りていた。
例の如く幼馴染のメイと、加えて剣士ライコはお留守番。
「――で。喫茶店の準備でクッソ忙しいこの時期に、何故元の世界に、しかもこんな『荒れた大地』に来なきゃならないのよ?」
「えー、それまた言わなきゃなの? 一度聞いて理解したでしょ」
「納得はしてないわよ」と駄々をこねる、この世界の魔王ことナイトに再び説明。
今日異世界に来た理由はただ一つ。『ゲームのオープニングムービー撮影』である。
以前に撮ったのはPVだが、今回はギャルゲーのオープニングで良くある『歌付き』の映像だ。歌手はこの姉妹。実写映像だが、二次元並に可愛い二人なのでセーフ!!
因みに、既に二人にはライコお手製のミニドレスを着用して貰っている。徹夜で繕ったライコは今頃布団でおネムだ)
「頑張りましょうね姉さん!」「……はぁ、そうね」 既に姉妹には僕の作った曲を叩き込んだ。まぁ歌詞に関しては『元ネタ』があるんだけれど。
「それで、この場所を選んだ理由はなんです? それをまだ聞いてないんですけど」
「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれたリリス。ほら、何も無いただのスタジオで曲の収録もつまらんでしょ? かと言って、僕が何も無いこんな荒野を選ぶ筈も無い。ここにはね――竜神が眠ってるらしいんだ」
「「竜神?」」と同時にパチクリさせる姉妹。リリスはまだ良いとしてナイトは知っとけよ。
これは、ナイトの母こと先代魔王さんに聞いた話だが……千年前、この世界には竜の始祖こと竜神と呼ばれた暴れん坊が居て、その圧倒的強さで頂点に君臨していたらしい。世界の創造に携わった精霊らですら対抗出来ず、世界は闇に包まれかけた、そんな時――竜神は何者かの手によってアッサリこの地に封印された。ここはその戦闘の場となった地でもあるらしく、草木が生えないのは、邪悪な竜神を封じてる影響だとか。
「その竜神が封じられてる地に来る事と、歌の収録にどんな関連性があんのよ?」
「いい質問だナイト。今回は君達の歌で――『竜神を復活』させます」
「なんでよ!?」
「その方が動画映えするからに決まってんだルルゥオ!?」
「悪魔ね……」 眉根を寄せる魔王に対し「天使だよ」と返し、
「まぁ、復活は『儀式が成功したら』だけどもね。君のママンこと先代魔王さんに聞いたんだよ、ふっかつのじゅもんをさっ。その呪文の言葉を、ゲームのテーマソングの歌詞に散りばめたってわけっ」
「成る程! 歌い終わりと同時に竜神様が復活するという魂胆ですね!」
「イエスッ」 イェーイと手を合わせる僕とリリスだが、ナイトは一人テンション低めに「ハァ」と息を吐き、
「何であの人そんな呪文を、よりにもよってナデなんかに教えちゃったのよ……」
「おや、ママンの気持ちが分からないのかい? 竜神復活によって訪れる世界の危機、駆けつけるのは誰だ? 勇者だろう? 早い話、旦那に会いたかったらしいよ」
「……あの人そんなキャラだったかしら」 ――余談だが、ナイトは魔王の肩書きを返上したいらしい。そんな称号要らないのだと。先代的にはそのまま継がせたい様子だけど。
「てなわけでっ、早速撮影に入るよっ。ほら二人とも、向かいあって」
「? ナデさんこれから何を? リリスはダンスとかの振り付けはまだ知らないんですけど、踊らなくていいんです?」
「うん」と僕は頷き、「二人には歌いつつ『初心に帰って貰えれば』それでいい」
「「…………??」」 姉妹は同時に首を傾げた。お前ら本当はもう仲良しだろ。
――。
僕は今回のオープニング撮影の構想と同時に、リリスとナイトが姉妹らしい仲になる方法を模索していた。その、僕なりの答えこそが『初心に帰る』事。初心とは何か? どこからの事だ? 全て、あの『魔王城での死闘』の時まで戻って貰う。リリスが言っていたじゃないか。
『姉妹喧嘩をして、本能を曝け出して、終わった頃には仲良し』と。ん、リリスここまで言ってたっけ? まぁいいや、兎に角そんな感じ。
僕は二人にそれらしい理由をつけて提案する。さぁ喧嘩しろ、とも言えないので、
『オープニングのシーンにもストーリーがあって、姉妹が歌いながら戦う事で魔力の奔流にあてられた竜神が歌との相乗効果で目醒める展開にする予定』と。
何故戦うのか、歌うのか、竜神を目醒めさせるのか、なんていう理由は後でから幾らでもつけられる。今回製作するゲームは体験版だ。意味深な要素はプレイヤーが勝手に考察してくれる。僕の提案に、リリスは『成る程?』とよく解ってないようなリアクションをし、一方のナイトは『お節介ね』と意図を理解していた様子だった。
そんな訳で――既に『ミュージックバトル』は始まっていた。二人ともマイクはつけていないが、リリスの『風呂場のように音を反響させる結界魔法』を用いて、マイク無しでもライブ会場のような大音量高音質サラウンドで曲が響くようにはしてある。同時に爆発音やらの効果音も凄いけれど。
姉妹喧嘩……響きは可愛いが、二人を知らぬ者が見れば殺し合いだと物騒な勘違いをするだろう。次々と激しい魔法を繰り出すリリスの方が強いと思う筈。そう、これは対等な喧嘩にはならない。逆の意味で。
二人をよく知る僕が見れば、いくらリリスが優れていようと、ナイトには勝てない。『あの時』とは違い、今のナイトは冷静で、奇策は通じない。
やりようが無いわけでも無い、とはリリスには撮影前に一言助言している。奇策が通じなければ正攻法で攻めればいい、と。
『喧嘩中、常に炎なり冷気なり岩の鎧なりのバリアを体に纏っていれば』いいと、そうすれば時を止めていようがリリスには触れられないので攻め手が無くなる、と。
そのアドバイス通り、今、リリスはゴウゴウとした炎を体に纏わせつつ特大魔法を放っている。触れただけで物体を炭化させる程の炎の鎧で、離れて撮影する僕にもその熱さは伝わって来る。勿論、自らの服には燃え移らない安心仕様なので、ライコの苦労を無にしたなんて悲しい展開にはならない。
両者とも攻め手の無いジリ貧なバトル。だがこれがベスト。お互い本気で傷付け合うつもりなど無いし、例え本気を出してもどちらも傷付かない、ある意味本気でぶつかり合える理想の仲だともいえるから。まぁ、飽くまで『理想の』だけれど。
「――――! ――――」「――――――!」
姉妹の歌声が大地を震わせる。ロック調の曲。タブレットで撮影しつつも、僕は彼女達のパフォーマンスに魅入っていた。
元気一杯な澄んだ歌声のリリス。静かで妖艶な歌声のナイト。
太陽のような明るさを放つリリス。月のような妖しい輝きを秘めるナイト。
それぞれの魅力。他人になど見せたくない、独占したい光景。けれどそうも言ってられないのが辛い所。
……そうして、四分弱の曲を歌い終えた二人は、静かに歩み寄り、見つめ合う。
「やるじゃないリリス、驚いたわ」「姉さんも! 感動です!」
ハァハァとお互い汗を流しつつも満足気な顔。僕はタブレットでの録画と音楽を切り、「良かったよー」と二人にタオルと飲み物を渡す。
「ありがとうございますナデさんっ」
「いやいや。ああ、ナイト、ちょっと」 手招きすると、疑問顏なナイトが寄って来たので、ヒソヒソ話をするように顔を近づけ、
「空気読んでくれてありがとね。なんだかんだ優しいお姉ちゃんだって信じてたよ」
「なんの話よ?」 またまた、とぼけちゃって。
「僕がリリスにしたアドバイスに乗ってくれたんでしょ? 例えリリスがさっきみたいに炎の鎧を張ってても、君には『意味ない』し」
早いネタバラシだが、僕はリリスに嘘を吐いた。ナイトには弱点があると、こうすれば対等に戦えると嘘を吐いた。
実際の所、ナイトに隙があろうとなかろうと弱点など無い。全て昔に僕が潰した。 天国の塔で何度も死ぬ思いをして、その度に対策を考えて……ナイトは最狂の時魔法使いとなった。いくら灼熱の炎で身を覆っても、森羅万象の運動を止められるナイトの前では無意味なのだ。
「ああ、それね。不思議な事に止まらなかったのよ」
「ん?」
「だから。時間を止めてリリスは止められた、けれどあの炎の鎧だけは轟々と燃えていたの。だから貴方の思惑通り近づけなかったのよ」
……どういう事だ? 理屈に合わない。ナイトに止められなかった概念など無かったのに。リリスの思いの強さは、物理法則さえ無視すると?
このチート姉にしてあのチート妹あり。僕の認識はまだまだ甘かったようだ。
「やっぱり、あの子は理屈じゃないのよ。その内、止まった時の中でも本人はケロッと動き出しそうだわ」
どこか楽し気に表情を綻ばすナイト。既に悩み事など無い彼女にとって、リリスとの不和ですら気に留めるものでも無かったろう。妹の方は必死に仲良くしたがっても、姉の方からすればどうでも良かった。しかし今回の件で、リリスが目に映った。少しはリリスを認めたのかもしれない。仲良し姉妹なゴールはまだ長そうだけれど。
「もう! 何を二人で内緒話してるんですか! リリスも混ぜて下さい!」
僕らに抱きつくように飛び込んで来るリリスに苦笑しつつ……(あれ? 何か忘れてるような?)なんてモヤモヤ感を覚えた、その時だ。
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