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【三】


翌日、学校終わり、秋葉原駅電気街口から少し歩いた所にて……


「――さぁ、ここが目的地だよリリス、ライコ」

「はえ?、前々から気にはなっていましたが、この緑色のビルに【こすぷれ衣装】が揃っているのですね?」

頷く僕。見上げた先には、緑色の七階建てのビル。今日はここに用があったのだ。

「むっ、ナデ、何やら周囲の男どもが我々をチラチラ見てくるが、どうしたのだ?」

「んー? 恐らく女性客だけで入るってのは珍しいからだろねぇ。ここは基本、『大人の玩具屋』なわけで、普通は恋人同志とか男だけで入るもんだから」

「おとなのおもちゃ! 何やらワクワクするワードですね!」

リリスがどういうイメージを持っているかは知らないが、面白いのでスルー。三人で入店する。(因みに、他のメンバーである二人――魔王と幼馴染――は今は別行動。ナイトは研修中、メイはその喫茶でイラスト作業だ。あの二人はこっちの姫と剣士ほどのピュア度が既に枯れているので、こんな店に連れて来ようものなら侮蔑の視線を頂くこと請け合い。それはそれで面白いので今度その二人と来よう)

〈一階 ――潤滑剤、避妊具フロア〉

「ナデ、この箱の中身は何だ?」

「ヌルヌルしてる風船だよ。緊急時は水が一リットル入るサバイバルグッズとしても優秀なゴム風船だよ」

〈二階 ――軟質樹脂嫁フロア〉

「ナデさん! この柔らかな塊はなんです? 穴が空いていて……大きなちくわです?」

「それは食べられないけど片栗粉でも似たの作れるから帰ったら作ったげる。きな粉と黒蜜が合うよ」

〈三階 ――振動マッサージ器具フロア〉

「ほらほらここがええのんかナイトォ? 乳がデカイから肩に効くダルォ!?」ブブブブ

「くっ……気持ちいいが何故か悔しい……!」

〈四階 ――下着フロア〉

「はえー、セクシーなランジェリーが沢山ありますねー。ナデさんはどんなの着られたら嬉しいです?」

「タンクトップとボクサーパンツかな」

〈五階 ――コスプレフロア〉

さて。各階でアダルトグッズを満喫した僕らは、漸く目的の階に到着。ズラリと目の前に並ぶコスプレ衣装。女の子達を色んな格好にさせて愉しむのが今日の目的、では無くも無いが、本命はライコの為だ。

ライコには意外な特技があった。被服制作である。あの大正娘チックな着物も彼女の自作で一度見た衣服は作れるらしい。なので、お店の制服はライコに任せる事に。(ミシンという便利な道具を見せたら目を輝かせていた)

そしてその参考の為に、様々な衣装の揃うこの店に来たのだ。

「うーむ……思った以上に沢山あるな……これなんかはどういう衣服だ?」

「バレーっていうスポーツをする時の格好だね。前かがみになった時にキュッと突き出るお尻がいいんだ。ちょっとリリス、試着してみて」

「――、はいっ。むむっこのひき締まる感じは短いスカート姿よりもゾクゾクしてきますね。動きやすそうですが……ウチの店の雰囲気には合わないかもです。ナデさん、こっちは?」

「アオザイっていうベトナムって国の民族衣装だね。露出は少ないけど体のラインが出るスラッとした感じは上品なエロスさを引き上げるんだ。これはライコが試着しなさい」

「――、――むっ。確かに、普段よりも肌の出る部分の少ない衣装だが、こう、ヒラヒラした生地が逆に着心地を無くし、全裸で歩いているような開放感が……」

「ふふ、新たな扉を開いたようだね? でもまぁそれもウチの喫茶店の雰囲気じゃあないね。さて、次の服は……仕方ない、僕が着ようっ」

「ノリノリですねっ! ――、――わぁー、ナデさん可愛いです! リリス、この格好テレビで見ましたよ! 治療所での女性が纏う聖装(ドレス)、ナース服ですね!」

「白衣の『天使』か。なんともまぁ……たまに私はお前が男である事を本気で忘れるぞ」

その後も何着も『あーでもないこーでもない』と試着を繰り返し、次第に『あれ、目的忘れてね?』と気付き始めた頃……僕は、こちらに近づいて来る足音を察する。

その主は店員さんだ。先程からそれとなく視線を気にはしていたが、マズイな、はしゃぎすぎた。そもここは基本アダルトショップ。未成年の来店は黒に近い灰色。素直に注意を受けて退店すべきだが……僕には少し、試したい事があった。

「ちょっと、君達?」 声を掛けて来た店員さんに振り返る。

「はい、なんでしょう?」

「……あ、あれ? ……あの、いえ、失礼しました、ごゆっくり……?」

首を傾げながら、店員さんは離れて行った。

「? なぁナデ、一体今のは――って、お前? ……何だか急に……大人びてないか? グッと母君に雰囲気が近付いたような? その女忍者の格好が原因では無いし……」

「そういう君も自分を鏡で見て見なよ」

「え? ……、な、なんだこれは!? 急に『一〇は歳が老けた』ような……? というか姫! 貴方はいつのまに『赤子』に!?」

「ばぶ?」 チョコンと僕の胸に抱かれていたベビーなダボダボベビー服リリスに、更に体を熟れさせたテニスウェアライコが目を見開いた。

「まさか……いや……しかしこんな芸当が出来る者など『あいつ』しか居ないが……?」

「ふふ、違うよライコ、『時魔王ナイト』はこの店に居ない。僕らの年齢を操作したのは――僕自身だ」

左手を掲げつつ僕は説明する。僕のトレードマークたる指輪の『真の力』について。

――きっかけは、メイの姉こと先輩天使の尊姉ちゃんと天使の仕事の話をしている時。

『そういえばその指輪、天国の塔で見つけたんだよね? ふむ……もしや、それは生命力を吸う機能だけではないかもしれない』

天国の塔。僕がナイトと共に一〇年過ごした、ある意味第二の我が家。

これはどうでもいい補足だが、アレ、『全ての世界に』存在するらしい。リリスの世界のようにあからさまな物から、この世界だとイタリアの〈ピサの斜塔〉のようにただの観光施設な見た目だったりと様々。入り口が違うだけで、(特殊な条件を経て)進んで行けば同じ天国の塔内部へ辿り着くのだと。

そもそも、あの塔自体どんな理由で存在するかといえば、一つは『天使の心の訓練場』という理由。精神的に過酷な天使の仕事に耐えられるよう多くの地獄を体験出来る闇のテーマパークという役割。(たまに、僕とリリスのように生ある身で迷い込みその上生き残るような輩も居るらしいので、スカウト場としての機能もあるようだが)

――っと。閑話休題。兎に角、尊姉に『色々試せ』と進言され、試行錯誤した結果、

「『生命力を吸った相手の力の一部を使える』という能力が発覚したわけだ。装着一〇年目にして衝撃の事実だよ。『一部』だけというのが肝で、ナイトの時魔法を使えるといっても、こうして『年齢を操作出来る』程度だけどもね」

「はぁ。それでも、私達の力の一部が使えるという事だろう? いよいよもって、私達以上に人間から遠ざかって行くな」

「何言ってだ、僕はどこにでも居る普通の高校生……とは流石にもう言えんな。自分でも君の格好並に属性がゴチャゴチャし過ぎたとは思ってるよ。あ、因みに僕が使える『ライコの能力の一部は』――」

リリスを抱きつつチョチョイと指を動かすと、「なっ……手が勝手に姫の頬を摘まんで!?」「アビャ?」ライコが赤ちゃんリリスの頬を両手でムニムニ。

「ほら、生き物って基本電気信号で体動かしてるらしいから、こうして電気の糸を出して対象に貼り付けると、一人ぐらいなら操れるんだよ」

「断り無く操るな! むんっ!」

「あっ。やっぱり同じ電気使いなら解除されちゃうよね、要検証の能力だ。

「アブゥー」 ん? どしたのリリス、しーしー漏らした? なら今おパンツを脱が、え、違う? お腹すいた? しょうがないなぁ、おっぱいあげるっ。……んっ……歯ァ立てちゃらめぇ……」

「私はもう十分参考になったから店を出るぞ」

「反応悪いなぁ。あ、出る前にコスプレ元の位置に戻しとかなきゃだよ。てか、リリス、何でベビー服着てるの? 変態なの?」


「バブゥ!?」 ベビーリリスが『理不尽ですっ!』と言いたげにびっくりした。

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