21

 ――。


リリスのワープで地元に帰って来た僕達。今夜は天ノ家のお風呂をいただく事に。広いから皆で入れる。広くなくても皆で入るけど。

「試食会のメニュー、他店の店長さんらにも好評でしたねー。『油断出来ない』って」

脱衣所にて、服を脱ぎ脱ぎしつつ話し掛けて来るリリス。彼女は今、髪色と同じ上下桜色の下着姿だが、そのブラとショーツは自分の世界から持ち込んだ品だ。不思議なのが、異世界でもブラの存在は有り、形も変わらないという事。行き着く答えは皆同じらしい。

「そうね。パスタとゼリースライムに関してはメイと同じリアクションくれたけど」

「当たり前でしょうっ。蟲と踊り食いのコンビだなんて誰でもびっくりしますわっ」

ツッコんで来たのは、これまた下着姿のメイ。こちらも髪色に近い檸檬色の下着だ。見慣れた、程良い慎ましやかな僕好みのサイズ。嫌いなサイズ無いけど。

「インパクトはあってもいいと思うがな。こちらに来て多くの店を見たが、無難な事しかしない店に魅力があるとは思えない」

素晴らしい理論でメイを宥めるのはライコ。狙ってるのか、これまた髪色と同じ上下黒の下着姿。そのバストは豊満であった。

「話が分かるねライコは。ほらナイトもうつらうつらしてないで今日の反省会するよっ」

「ええ……大丈夫よーこのままでー、てかお風呂とか朝でいいからこのまま寝かせてよー脱ぐのめんどいんだけどー」

なんだこの銀色のダラダラした物体は。

倒したら経験値凄い貰えそうな上に逃げなさそう。でもこいつしなない。

「しょうがねぇなぁ」 彼女の制服のワイシャツボタンを一つ一つ外し脱がせると、白のブラに包まれた白い豊乳がプルンとまろび出る。普段からゆったりした服を着てるので分かり辛いが、妹のリリスと同じく着痩せするタイプなのだ。

慣れた手付きで下着を外してやり、浴場まで運んでやる。いつもの事なので、彼女も運びやすいように体を幼女化させていた。この要介護ヒロインは全く……はじめの頃はギャーギャー言っていた他の女の子達も、今はもう生温かい目しか向けない。

あ、因みにさっきから僕、ずっと全裸だったよ?


――その後、豪邸天ノ家のだだっ広いお風呂に浸かったのち、僕は日課を消化する為に湯船から立ち上がり、


「おう、一番最初にヤられたい奴、ついて来いっ」

「はいはーい! リリスから行きまーす!」と腕に抱き付いて来るのは裸のお姫様。素直過ぎて透明な服と言っても信じて街を闊歩しそうな危うさがある。

「誰よりも先にヤられたいだなんてスケベなお姫様だぜっ。ヌルヌルにしてやるっ」

「メチャクチャにしてくださいっ」

「茶番はいいんで早く行って下さいまし! お風呂だから声が響いてうるさいです!」

メイに怒られた後、そのまま二人で『周りに声が漏れない』隅っこのシャワー場まで来て、リリスをシャワーチェアに座らせ、

「ほら、頭にのってるティアラ外すよっ」

「ら、らめぇ! 封印が解けたらマズイ事にぃっ!」

「うるせぇそこに座った奴に拒否権はねぇんだよっ、僕がルールだっ」

「ああっ!」と狼狽えるリリスだが、毎度その封印だかを解いて何か起きた試しがない。今以上に強くなるのだろうか? リリスは教えてくれない。

「ぅぅっ……ティアラが無いのは全裸で外を歩く以上に恥ずかしいです……」

「よく分からん感性だな。ほら、お湯かけるよー」

ジャーとシャワーを頭から浴びせると、「わぷっ」と可愛いリアクション。シャンプーを手に数プッシュし、彼女の髪になじませる。すぐにフワリと泡立つきめ細やかな長髪。

「お客様ー、かゆいとこありませんかー?」

「んぁ……ないですよぉ……」 むず痒そうに身をよじらせ甘い声を漏らすリリス。僕の洗髪テクの効果でもあるが、指輪の力、エナジードレインの効果でもある。あえて、僕は強めにリリスから魔力を奪っていた。

対魔力を持たぬ者なら触れられただけで廃人になる程の強大な魔力を持つリリス。これでも制御出来ている方との事だが、幼少期はその魔力が垂れ流し状態だったらしい。

あの世界では魔力と生命力は同義。リリスが枯れた大地を歩けばそこは花畑に、衰えた動物に触れればたちまち元気に、自殺寸前に追い詰められるまで精神が疲弊した者でもエネルギッシュに……と、僕とは真逆な、世界一優しい力を持ったお姫様。

当然、その力を狙う者は少なくなかった。結果的に、リリスは目立つ事を避ける為に魔力の垂れ流しを抑える術を身に付けた。

しかし、絶えず無尽蔵に魔力の精製を続けるリリスの体は定期的なガス抜きを必要としていた。漏れ出る魔力を抑える程、留め過ぎた魔力で体調を崩すのだ。異世界ならば好き勝手にぶっ放せる魔法も、こちらの世界ではそうもいかない。それで数日前、彼女は風邪のような症状を患った。

そんなリリスにとって、僕の力、エナジードレインはおあつらえ向き。一〇分程――一般人ならば衰弱死する程の吸引力で――触れていれば一時間だけなら、リリスでも周りに影響を与えない程度の魔力総量に、という実験結果は出ている。体調を崩しても僕が吸い出せばすぐに元気に。なんで、今後も学校や仕事前はこうして触れ合う時間が増えそうだ。

「さてリリス。何か今日一日で、報告する事はあるかい?」

『毎晩皆で同じ時間に風呂に入るというルール』を決めたのもこの反省会をする為だ。一人一人、洗髪しながら一日の報告や悩みを吐かせる。個人的な会話の時間は大事。それがファミリーのルール。ウザい? 年頃の乙女達に配慮しろ? やかましい! ファミリーは長がウザいぐらいベタベタする方が円満なんだよ!

「報告……ですか。お仕事は楽しくやれました、けど……でも……」

「もにょもにょ言い淀んで、いつも元気なリリスらしくもない。もしや、さっきお店で僕とナイトの遣り取りを『覗き見』してた事と何か関係が?」

「っ!? ……、です、よね。ナデさん相手だと気付かれますよね。……リリスは。リリスはいけない子なんです。我儘で、嫌な子なんです」

リリスは語り出す。僕の世界に来てから無意識に貯めていた粘っこい『なにか』を。


――、と、まぁ。


「かくかくしかじかで、そういうわけなんだよライコ」

「どういうわけださっぱり分からん」

時間は少し飛んで、ライコとの洗髪会話タイム。因みに、既にナイトやメイとの洗髪タイムは終わった。ナイトは(僕と居られれば)悩みなど無いらしく、『脱衣所で寝てるから回収して』と言い残し、風呂場を去った。

メイは、逆に僕の髪を洗って「毎日大変ですわねぇ」と労った後、満足気に去った。

「……まぁ要約すると、リリスは『もっと姉さんと仲良くしたいっ』んだってさ」

リリスは言った。僕とナイトが仲良くしているのを見るとドロドロとしたモノが心の中に溜まる、と。姉を救えて満足しているのに、一緒に暮らせて嬉しいのに……次から次へと欲が深まっていく。ナイトと見えない絆で繋がる僕の事が羨ましく恨めしく、逆もまた然り。二人の間に入り込めない自分が情けなくもどかしい、と。

「リリスがここまで欲望を表に出した事って、過去にあった?」 ライコの髪を(ツノもマッサージしつつ)ワシャワシャ泡立てつつ訊ねると彼女は「ううむ」と唸り、

「快活で裏表がなく誰にでも優しい姫様がここまで妬みを覚えるような出来事は、少なくとも私の前では無かった。同世代の者が、私以外側に居なかったのもあるやもしれない」

「ふぅん。まぁこっちの世界だと、子供は学校に行って同世代と喧嘩だの恋だの嫉妬だのを繰り返して成長するからなぁ。それを遅れて体験している、と考えれば、無理におさえつける事も無いかぁ(シュッシュ)」

「おい私の髪で遊ぶなっツノを増やすなっ。……しかし、となれば放っておくつもりか? 姫の燻りを何とか発散させてやりたいのだが」

「分かってるよ、もう作戦は考えてある。ほら、明日ライコと一緒に『あそこ』行く予定立ててたでしょ? そこにリリスも同行させて、その後ゲームの――」

おおまかに作戦を伝えると、「ううむ」と目を細めるライコだったが、特に反対意見は出さなかった。

「てかさ、ライコはどうなのよ、ナイトとの仲は。二人が話してるとこ殆ど見ないけど」

「私か? 私は昔から奴とは絡みが少なかったからな。無理に馴れ合うのは……今更だろう。店の接客の上では最低限の会話はするがな」

「へぇ。あの異世界での禍根も、もう気にしてない感じ?」

「どうだろうな。全くかと問われれば、返答に困るが、姫や国の者達や魔王様が何も言わぬのなら、私がとやかく口にする話では既に無い」

何とも煮え切らない着地点、という感じか。そうだろうな。

人が人を許すのは、単純な話じゃ無い。

「――ま、時間が何とかしてくれるさ。よし、じゃあ次はトリートメントだっ」

「おい何で正面にまわった? 局部を目の前に晒すなっ頬にペチペチ当てるなっ」ピンッ

「はうっ、チンピンすんなっ! 異世界で恥ずかしがってた頃のライコを返してっ」

「毎日風呂に入れば流石に慣れるわっ!」

「全く……人との距離感やデリケートな男の子の扱いが分かってないのは君もだからね? そんなんじゃ、一生素敵な彼氏は作れないよ?」

「余計なお世話だっ!」 ――ライコにはもう伝えてあるが……彼女は、今回宣伝用に店頭で配るギャルゲ――まぁ体験版だが――のヒロインではない。主要人物として多くの登場頻度はあるが、攻略は出来ない。ファンディスクで追加する予定も無い。

ゲームのストーリーはノンフィクション。僕視点のシナリオでヒロインじゃあないという事は、つまりはそういう事だ。大切で大好きな女の子の一人であるのは今後も変わらない。ただヒロインで無いというだけ。

「ファミリーの長として、君に相手が出来るか心配だよ。あ、でも出来た暁には僕の前に連れて来て彼と面接ね? 僕より『強くて格好良くて頼り甲斐ある』男じゃないと認めないよ?」

「面倒臭いな! ……今の私に、色だの恋だの考える余裕はない。それに、そんな『難しい条件』を出すな」

唇を尖らすライコの表情は、そこらの男なら一発で落ちる程に魅力的だ。僕の前に男を連れてくる日もそう遠くないだろう。そして僕には確信がある。


色々と面倒臭い注文をつけたが、彼女が連れて来る男は、僕とは真逆の『弱くて格好悪くて頼り甲斐のない』、『放っておけない』タイプの男だ。

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