三章

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 ▼ 三章 ▲


【一】


「〈ルビー・スピア・カーペット〉ォ!」


リリスが大地に掌を叩きつけると無数のルビーの槍が下から突き出て獲物の動きを止め、

「二刀! 〈雷断頭(らいだんとう)〉!」 いかずちが如くな速さのライコが二刀のもとに獲物の首を落とす。流石のコンビネーションだ。

――秋葉原散策から一週間……僕らは今、異世界(リリスらの世界)へ居た。目的は、異世界喫茶の食材の調達と、お店のプロモーションビデオ撮影の為。

開店はもう来週だというのにのんびりし過ぎ感は否めないが、なぁに、ギリギリになったら本気出す。因みに幼馴染ことメイは危険なので来ていない。

「良いよ良いよ二人ともー、じゃあ次は服を脱ぎ脱ぎしよっかー」

「はーい!」「従わなくていいですよ姫! ナデもどさくさに紛れて変な事を言うな!」

今の戦闘、巨大な象の魔物との一部始終も勿論動画で撮っていた。このまま無編集でアップロードしても、最新のCG技術を使った映画のようにしか見えないだろう。いやー異世界って素材のままでおいしい。普段から色々な動画――『羆と喧嘩してみた』、『アポなしで某国の城に侵入してみた』など――をサイトに投稿していてそれなりに有名な僕だが、これは再生数が期待出来る。

「一方こっちは……」と後ろにタブレットのカメラを向けると、ナイトが一人黙々と魔物を狩っていた。地面には、傷もなくこと切れる魔物達。ただ、獲物の生命活動を『停止』させているのだろう。

「なんていうか、ナイトの戦い方は動画映えしないね。派手さがない」

「……そんな事言われても『静かに、確実に』ってナデと一緒に考えた戦い方じゃない」

「そりゃそうだけど……、てか今更だけど、僕らって何か罪無き生き物を虐殺してる屑な連中みたいじゃない?」

「本当に今更ね。食べるんだし、気にしないでもいいと思うけど。この世界の絶対的理は弱肉強食よ。死にたくなければ逃げきるか勝てばいいだけの話」

「ワイルドだなぁ」 この連中に勝てる面子なんて想像もつかないけど。

――と。僕らが油断していた、その時、「ん? 何か足首に絡みつ……うひゃ!」

僕の体がフワリと浮く。足首には植物の蔓。その主は巨大なハエトリソウの化け物だった。周囲の草木に溶け込み虎視眈々と獲物を待っていたようだ。基本、この世界の食虫植物は自我を持たず本能のままに行動するので気配を感じ取り難い。(付け加えると、自我を持たない植物やら微生物などは、生気を吸う指輪の対象からは外れるようだ)

「ぁぁん……らめぇ……蔓でこちょこちょしないでぇ……ふぇぇ変な粘液でベトベトだよぉ……絶対エッチになるやつだよぉ……たまご植え付けられちゃうよぉ……」

「結構余裕そうだな」 全く助ける気がなさそうなライコ。仲間のピンチに何てやつ!

まぁ、けれど。薄情なのはライコのみだったようで、

「――〈デッドガーデン〉」「――〈アビスゲート〉ッッ!!」

重なり合う二つの魔法名。後者もヤバそうな名前だが僕は前者のヤバさを知っている。

先に発動したのは前者。ナイトを中心に『腐敗』が広がって、鮮やかな緑を一瞬でどどめ色へと染めてゆく。腐敗の波はすぐに巨大食虫植物を襲い、蔓は堪らず僕を離して……

直後、リリスの魔法が発動。頭上には一つの禍々しい見た目の門。その地獄の門が開き黒い手が巨大食虫植物を、闇よりも深く暗い先へと引き摺りこんでいった。

「わわっ」 支えが無くなり落下して行く僕を、

「「ナデ(さん)!!」」 姉妹が同時にキャッチ。

「ふぅ、ありがとう二人とも。流石姉妹、即興でも息の合った連携だね!」

「「え? ……あっ」」 顔を背けるナイト。どこか嬉しそうなリリス。

「大丈夫かー、災難だったなー」と、心の篭ってない言葉でライコが近づいて来る。

「ナデ、お前自分があんな目にあっている時でもその板を離さないんだな」

「タブレットな。しかしそのお陰でいい映像が撮れたよ。魔界の植物は気が荒くて……むっ? 腐った植物の蔓が服に……(パクッ、モグモグ)……何か発酵食品みたいになってて美味しい、これも持ち帰ろう」

「逞しいなお前は」

一応の目的を果たした僕らは、荷物をまとめ、帰るべき世界へと戻った。


――。


「あら? お帰りなさいませ皆様」

僕の世界へ戻る時は、何故かいつも幼馴染の部屋へと辿り着く。初めの内は迷惑がっていたメイも、一週間経てばこのように慣れた様子だ。

「ただいまですー、では早速午後の『試食会』の準備してきますねー」

「メイ、キッチンを借りるぞ」

魔物の死体こと食材を持って部屋から出るリリスとライコ。ナイトはというと、例の如く少し働いたらすぐに横になるという相変わらずの自由っぷり。

で。メイだが、今はパソコンの前で、液晶タブレットでイラストを描いている。

そのキャラクターは……まさに僕達の造形。お遊びで描いてるのではなく、僕がメイへ充てた立派なお仕事だ。

メイにはお嬢様という本業? がある他に、イラストレーターとしての肩書きもある。イラスト投稿サイトでは常に上位なネットの有名人。伊達に母が漫画家ではない。仕事の依頼もよく来るが『面倒臭い』という理由で全て断っている。

今メイが進めているのは、異世界組含む僕らの実話を元にしたギャルゲーのCGだ。シナリオやゲーム作り担当は僕。過去、メイとの同人ゲームを一度作りコミケで売った経験はあるのでノウハウはある。(あの時はすぐに売り切れ、内容も奇抜と話題になり、続編や書籍化の話など金の話をして来る連中も多かったが、二人で『面倒臭い』と一蹴した)

因みに、今回作るゲームはお店来店時に無料配布する数量限定の体験版。集客用の餌。ネット上でもそれなりに知名度のある僕とメイのコンビが『何やら始める』のだ、話題になって貰わないと困る。

「タブレットからそのまま動画をアップしてっと……ふぅ、完了。ねぇ見て見てメイ、これ編集無しだよー」

「……本当にファンタジーしてるんですのね。これを見て『異世界に行きたい』という輩が出たらどうするんです?」

「『お客様ー異世界には選ばれし者しか行けませんよーw』って草生やして誤魔化すさ」

「思わず手が出そうな程に苛立ちますわね」

「おっ、動画の反応が一杯来てるよ、このままニコ生で喫茶店の宣伝放送しよっと」

動画サイトの生放送開始ボタンを押すと、すぐに馴染みの視聴者がワラワラ集まって来た。因みに、今は平日の朝。この後学校もある。

「はーい、いらっしゃいませー、動画の視聴ありがとーございまーす。『CG乙』? 違いますよー無編集ですよー。来週からオープンの異世界喫茶には件の動画出演の美少女らが皆店員をするんでお越し下さいねー。ナンパ目的やセクハラ目的の方は家に遺言状を残してからご来店下さーい。『映画化決定!』? そっすねー今まで商業化のお話は断って来てましたけど、書籍化とか漫画のお話し来たら受けますよー、お店盛り上げたいのでー。『何でも?』 何でもはしませんよー。『準備間に合うのか?』 大丈夫、うちの魔王様は時間止められるんで。『ちんちんぅp』 BANされるんでダメですー。『おっぱいぅp』 ありませんよー。『画伯ぅp』? 画伯は今ゲームのCG描くのに忙しそうなんで無理でーす。『画伯のおっぱいぅp』? ありませんよー(ピシッ)痛っ! 画伯ペン投げないでねー。『魔王さーん』? 魔王さん居ますよーほら、寝てますけどねー、ホッペむにむに。んー、そうですねー、こいついつも寝てますねー」


画面上に流れるコメントを返しつつバッチリとお店の宣伝。オープン初日の客足はまず大丈夫だろう。


――その後、生放送を終了させてメイの方を見ると、丁度彼女の作業もひと段落ついた様子で、「では学校へ行きましょうか」と腰を上げた。

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