朝(最終回)


目を開ける。


見慣れた部屋の風景だ。ここは熱海の旅館でもない。


狭い6畳の部屋。部屋の隅にはコンビニの弁当のカラやペットボトルが詰め込まれ蝶結びされて転がっている。


蒸し暑さで目を覚ましたのか。ここ数日、クーラーの調子が悪いんだったか。冷房のキレが悪い。


寝ぼけた頭をかきつつ上体を起こして部屋をでて台所の調理台に転がっているコップを拾って蛇口の水をひねる。


勢いよく流れる水。それをコップですくって飲む。まずい水の味だ。しかし、それで目が覚めた。


台所に掛けてある時計を見る。午前5時を指していた。まだ起きるには1時間も早い。窓の外はまだ真っ暗だ。


(何て夢見てたんだ・・・ありゃぁ30年以上前のことじゃないか…)


昨日は珍しく残業が無く、早く家に帰っていた。狭いアパートの一人の部屋。帰り際にコンビニで買った飯とストロングを飲み、シャワーを浴びてテレビも見ないで寝たのだった。


気づけば寝つきは良くなっていた。年を取ったからか。疲れも取れなくなってきていた。


カレンダーを見た。8月のお盆前だ。仕事柄、これからが忙しくなる時期だ。今日も早出なので普段よりも早く起きなくてはいけなかった。


そして、何故か夢を妙に覚えていた。時々変な夢ほど覚えていることはあったが、大体はすぐに忘れてしまうものだ。


(まぁ・・・いいか。何やっても面白い頃だったな)


学生時代を終えて仕事に就いた頃にはバブル崩壊の負の時代が続き、景気は底なし沼に突入していた。


(さて二度寝しても寝坊しそうだし、仕事の準備するか・・・)


シャツにパンツ1枚の姿なので着替えのクソも無いのかもしれないが…。



『我々が追い出されずに済む唯一の楽園は「思い出」である』 ジャン・パウル

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者3600秒 虎昇鷹舞 @takamai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ