14日目


話は数日前に戻る。


日曜日の夕方、俺はヨシと地元の友達らと一緒に地下鉄に乗っていた。


営団地下鉄有楽町線の月島駅から電車に乗り地元に戻るところだ。駅から乗ってくる客のほとんどが大きな紙袋やナップザックのような背負い鞄を持っている。


今日は晴海の東京国際見本市会場で開催されていたコミックマーケットに皆で遊びに来ていた。


会場までは月島駅から歩いて行く。会場は少々不便な所にあったが、そこに行くまでの期待感がそんなものをかき消していた。


俺もPCエンジンのゲームの攻略本などの同人誌を買ったりTRPGのオリジナルルールなどを買い漁っていた。


コミケの開催中は例年暑いと言われている。去年の夏に初めて同じ会場に来た時はあまりの暑さに参ってしまった。しかし、今年は冷夏の影響もあり終始曇り気味で、最高気温も25度に届かずとても快適だった。



「ヨシ、今度俺、旅行に行くんだけど、その時に『アッチ』に呼ばれたらどうなるんだ?」


地下鉄の座席に座り、大きな紙袋を足の間で挟んでいるヨシに俺は聞いた。ヨシはアニメの同人誌をたくさん買い込んでいた。ヨシと俺とでは資金力が圧倒的に違う。


「んー・・・」


ヨシは『またその話か』といった表情を一瞬だけしたが、真面目に考えだした。たとえ自分では信じられないようなことであっても真面目に考えてくれるのがヨシのいいところだ。


「そうだなぁ・・・お前がどこにいても呼ばれるか部屋の中にいる間だけ呼ばれるかどちらかが分からないから、正直どうなるか分からないな」


ヨシの言うにはアッチの世界に呼ばれるのは『俺』を対象にしているのか『部屋にいる俺』を対象にしているかで変わってくるという。前者ならどこにいても俺は呼ばれ、後者なら俺が自分の部屋にいる間だけ呼ばれるということだ。


「話が通じればその辺が分かるだろうけど、それすらできないんだろ?」


「ああ、未だにアッチの連中が何を言ってるか分からない」


「そうなるとやっぱり分からないなぁ」


ヨシは腕を組んで再び考える。俺よりもヨシの方が知識も豊富でSF的な発想にも長けていた。


「結局、出たとこ勝負ってことか・・・」


「まぁそうなるかなぁ。それに呼ばれる場所がいつもの所と異なると、いつも呼ばれている所ではない所に呼ばれるかもしれないぞ」


「ってことは? いきなり海の中とか崖の上とかに呼ばれる可能性もあるってことか?」


「もちろん、ゼロじゃないな」


俺が焦るとヨシはニヤッと笑った。ヨシなりの悪い冗談であろうか? しかし、可能性があると思うと背筋が凍る思いだった。


「でもさ、いきなり女子更衣室のド真ん中に飛ばされたり女風呂に飛ばされたりって可能性もあるよな?」


「どんだけご都合主義なんだお前の脳ミソは・・・」


ヨシはため息をつき、狸寝入りし始めた。

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