6日目~16日目

清々しい朝。時計を見るとまだ7時前だ。こんなに気持ちのいい朝は久しぶりか。


網戸の外から入ってくる風が涼しいのもあるが、それ以上に自分の心が満足感で満ち溢れていた。


(俺でもできることあるんだな)


思い出すのは昨日の快進撃。次々と襲い来るゴブリンを一網打尽にして追い払う。


金髪の女性は前髪が伸びていて目元は見えなかったがほくそんでいるように見えた。


子供らは言葉は分からないが、何か俺に向かって言葉を投げかけてくるようになった。それは応援みたいだった。



この日が転機になった。


それまでの何も目標も無くただ日々を無為に送っていただけだったのが、『守りたい何か』が見つかってからその為に体を鍛えるようになった。


家の近所をランニングしたり、素振りをしたり。ソフトボールをやっていた時よりも熱心に素振りし、陸上をしていた時よりも必死に走って自分の体と心を追い込んでいた。


ただ、今年の夏は涼しいのはいいが天気が悪い。8月に入っても大雨の日が続いていた。その時は家でスクワットや腕立て伏せをひたすらラジオを聴きながらやっていた。


それまでは嫌いで仕方なかった練習を自らするなんて・・・自分でも驚きだ。


もちろんあまり無理をしてはいけない。それは続かなくなる罠だ。少しずつ結果が出てからでいい。実際、結果は出ている。



異世界でのゴブリン退治は順調すぎるほど順調だった。


それから数日の間、ずっとワンパターンのゴブリンの襲撃が続いた。あまりにワンパターン過ぎたので罠ではないかと思ったくらいである。俺はそれでもなお高速トスバッティングをするかのように縦一列で襲ってくるゴブリンを撃退し続けた。


20体のゴブリンを撃退すると子供らが一人蘇ることも分かった。最近では一日で大体7、8人は蘇るようになっていた。出会って最初は10人くらいしかいなかった子供らも80人以上になっているだろうか。あの悪夢のような出来事で奪われた命をほとんど取り返せただろうか。


子供らも最初はずっと金髪の女性に寄り添うように泣いていたり震えていただけだったが、蘇った人数が増えるにつれ、子供らの様子も変わってきていた。


泣いている子は減り、俺が戦っている後ろで野球の応援歌ようなテンポと手拍子を入れて応援しているかのようだった。


言葉の意味は分からないが、応援をしたいという気持ちには国境はないのかもしれない。


「$^#! $^#! $^#!」


日に日に子らの声が大きくなってきていた。それを背中で感じる度にゾクゾクする何かが体を駆け巡る。


(プロ野球選手が試合中に感じている声援ってこんな感じなのかな)


ソフトボールと陸上をしていた時も成績も良くなく、そんなに応援もされなかった。自分に浴びせられる声援がこんなにも力をくれるものだと。


疲れていても体が動く。ランニングとか素振りとかしてきた成果が徐々に出てきたからだろうか。鈍っていた体も少しは軽くなった気はする。



今日も終了を告げる鐘が鳴り響く。腕時計を見ると23時を指さしていた。今日も子供を8人蘇った。


体力がついてきたのか。ゴブリンを160体倒しても立っていられるようになった。前は倒れるくらいフラフラになっていたが今は大丈夫だ。


子供らに囲まれた女性の方を見た。


俺の視線に気づいてか俺の方を見直して微笑んだように見えた。途端に自分の方が恥ずかしくなり目線を逸らした瞬間、真っ白な光に包まれて俺は青白く床が光る部屋から自分の部屋に戻ってきた。



光が収まり、見慣れた自分の部屋に戻る。


バットを持ったまま俺は布団の上に立っている。


ラジオからはザ・ベースボールクイズのコールが入り番組が始まっている。


俺は喉の渇きを感じたのでバットを玄関にしまうついでに水でも飲もうと部屋を出てリビングに行こうとした。ついでに昨日から始まっている甲子園大会の結果を知りたかったのもあった。


「おぅ、起きてたのか?」


トイレに行っていたのか親父と廊下でバッタリと顔を合わせた。


「ちょっと甲子園の結果が知りたくて」


「そういや明後日から熱海旅行だぞ」


うちでは毎年熱海に家族旅行に行っていて、明後日から二泊三日で旅行に行ってるのだった。ここ数日間の出来事のせいですっかり忘れていた。


(旅先で呼ばれたらどうなるんだ・・・?)




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