第71話 友だちが背中を押してくれるのですが?

 踊りの本番が終わった。ぞろぞろと人々が場所を移動していく。そういえば、この時間から花火の場所取りが許可されるんだったな。

 でも、今日の俺はちゃんと準備しているから問題ない。会場の下見もしているし、きちんと穴場も見つけている。まぁ、見つけたのは俺じゃないんだけどな……。

 いい場所を取ろうと移動する人たちに混じって動き出す白崎さんの腕を引いて止める。不思議そうな白崎さんに微笑み、こっそり連れ出す。


「あの、翔馬くん?」

「いいところを見つけてるんだ。こっち」


 白崎さんの手を取って人混みとは反対方向へ。神社に続く階段を上っていき、中段辺りで脇に逸れる。そのまましばらく歩くと、開けた場所に出た。

 小さめの原っぱに一つだけポツンとあるベンチ。周囲は木々に囲まれているが、正面には川が見える。その川の中州では、職人さんたちが打ち上げの準備をしている様子が見える。

 まさに知る人ぞ知る秘密の場所。一昨日、天音からいきなり写真と座標が送られてきたときは何事かと思ったけど、いい場所を教えてくれて感謝だ。でも、今度から緯度経度で伝えるのはやめてほしい。解読が面倒だから。

 ここを知ってるのは天音と、多分駿太だけかな。彩乃や彰が乱入してくることもないだろうし、二人だけの時間を過ごすことができそうだ。

 とりあえず白崎さんにベンチに座ってもらう。後は、花火が上がったタイミングで告白だ。あぁ、緊張してきた……! お腹痛くなってくる……!


「翔馬くん? 大丈夫?」

「う、うん。でも、ごめん。ちょっとトイレ行ってくるね」


 断りを入れてトイレに行かせてもらう。ここから仮設トイレまではちょっと遠いんだよな。別にいいけど。

 急いで走ってトイレに駆け込み、しばらく座る。こうして座って精神を統一するだけでも効果があるはずだからね。……てか、よく考えたら精神統一ならトイレじゃなくてもいい気がしてきた……。

 と、とりあえず落ち着け! 脳内でシュミレーションし、緊張をほぐす。準備を整えたところでさて、いくか。

 トイレから出て行くと、大きなため息と共に謎のミストが振りかけられる。


「うおっ!? なんだ!?」

「デリカシーって言葉知ってる? 告白の前にトイレにこもるバカなんてあんたくらいよ」


 天音が小瓶みたいなものを持ってトイレの前で待っていた。近くには駿太も揃っている。


「え、なんでここに?」

「翔馬……ぜったい緊張でトイレに駆け込むって予想できたからね」

「で、どうせあんたのことだから何も気にせず戻ると思ってあたしたちが待ってたの」


 天音の持っているものはどうやら香水らしい。フローラルな香りがする液体が全身に振りかけられて……ちょっと多くないか?

 ちょっと拭き取っていい感じに調整。これで今度こそバッチリ。


「ほんっと、世話が焼ける」

「ごめんて。でも、ありがとな」

「いいから、ジュースでも買って早く行ってあげな」

「成功確定の告白なんだから早く」

「成功確定?」

「え、まだ気づいてないの? 沙耶香が好きな相手ってあんたのことよ」


 ……マジ? まさかそれを天音の口から聞くとは……。

 二人に背中を強く叩かれて送り出される。ほんと、こいつらは……。


「二人とも、ありがとう」

「友だちの恋は応援するよ!」

「沙耶香のこと、幸せにしてやりなさい!」


 ここまできたら緊張も何もねぇ! 想いを伝えるだけでいいんだ。

 屋台が並ぶ場所まで……来たけど、今日は店じまいらしいな。仕方ない。自販機で適当に買っていこう。

 二人分のジュースを買ってあの場所に戻る。バラ色の明日を想像しながら!

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