第69話 二人で盆踊りを楽しむのですが?

 白崎さんといろんな屋台を巡った。食べ物や遊びなど本当に多くの出店があって全然飽きない。去年までと大して変わりのないはずなのに、ここまで楽しいのは白崎さんと一緒だからだろうか?

 空が暗くなってくる。そこら辺で橙色の灯りが点き始め、光を背景にヒラリと回る白崎さんはとても綺麗だった。


「可愛い……」

「えっ!? あ、ありがとう……」

「あ、声、出てた!?」


 恥ずかしい! つい心の声が漏れ出てしまった! 変人に思われたらどうしようか。

 やばい、と思っていると白崎さんがそっと手を重ねてくれた。優しい感触に心臓がドキドキする。めっちゃ緊張して手汗を気にしてしまうよこれ!


「翔馬くん。一緒に踊らない? ほら、広場空いてるよ」


 確かに、櫓を組んだ広場付近は大勢の人が盆踊りを踊っていたが、まだいくらかスペースは空いている。二人くらいなら余裕だ。

 せっかくのチャンスだし、楽しむか。間近で踊る白崎さんというのも悪くはない。

 頷いて同意を示すと、白崎さんに腕を引っ張られて連れ出された。フワリと優しい香りが漂ってくる。


「じゃあ、見せてよ。翔馬くんの踊り」

「うん。もちろんさ」


 二人で踊り始める。独特のリズムに合わせて両手を挙げ、軽快なステップで音頭を刻む。小さいときから慣れ親しんだ踊りだ。俺も白崎さんも楽しく動く。キラキラと眩しい笑顔が視界の端で弾けるから、自然とこちらも笑顔になってくる。


「わわっ!」

「へ!?」


 いきなり白崎さんがバランスを崩して前のめりに倒れてきた。こけてしまわないようにと咄嗟に受け止める。浴衣の上からでも分かる豊かな二つの実りがダイレクトに感じられ、甘い香りが直接伝わってきた。

 一言で言うと、なんというかごちそうさまです。


「ご、ごめんね!」

「いや、いいよ。それより……」


 俺は、白崎さんの背後にいたおそらくは犯人であろう人物をジト目で睨む。


「おい天音。これは何のつもりだ?」

「べーつに。文字通り沙耶香の背中を押してあげただけだけど?」

「ほんとなんでそんなことするの!? 駿太も止めろよ!」

「発案は僕だから、止めるわけには……ねぇ?」

「おーまーえーらー!」


 どうもこの二人、ことあるごとに俺と白崎さんを接触させようとしてくるんだよな。まぁ俺的にはありがたいんだけど、変な印象を持たれると告白してもまた振られるようになってしまうからやめてほしい。

 とりあえず、これ以上二人の近くにいるとまたなにかされかねない。距離を取って広場の端っこのほうに移動すると、白崎さんも付いてきてくれる。

 顔を見合わせて苦笑いしながら踊りを再開。まだまだ楽しい時間は続くのだ。

 リズムがちょうど盛り上がりパートに入る。一層激しい楽器の音色が場をさらに熱くする。


「これこれ。夏だよね~」

「うんっ。この音色だよね!」


 盆踊りのリズムを聴かないと夏は終われない。もうこれが癖になってるよね。

 踊りが一段落し、端で休憩する。近くの屋台でジュースを買ってきて白崎さんと二人で休んでいると、足音が聞こえてきた。


「へー、二人で楽しそうだね」

「おっ、彩乃か。今までどこに行ってたんだ?」

「んー、ボランティアかな? ゴミが沸いてたから掃除してきた」

「そういえば、学校でそんな案内あったな。なに? 応募してたの?」

「そんなところ」


 一汗かいた彩乃のためにジュースでも買ってやるか。屋台でもう一つジュースを買ってきて渡す。


「でも、遅かったな。もう盆踊り終わるぞ」

「そうだね。残念」

「まぁ、俺は白崎さんと踊れたから満足だけど」

「……へ~、そうなんだ」

「う、うん。楽しかったよ……」


 今年は縁がなかったと思ってもらおう。と、俺は彩乃の手を見て驚いた。


「おいそれ……」

「あー、うん。見ての通り血」

「大丈夫か!?」

「平気平気。なんかゴミに血が付いてて、うっかりそれ触っただけだから」


 それならいいんだけど……こいつ、なにか隠してるな。怪しい。

 もう少し様子を見てみるか。もしかしたら、何か俺に言えないことをやってるかもしれないしな。

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