第68話 ようやく報復することができたのですが?

 あーあ。せっかく翔くんと一緒にお祭りに来たっていうのにね。どうして私こんなことしてるんだろう?

 でも、これは大事なこと。私、まだあの事を許してないんだから。今日になってようやく犯人が分かったからお仕置きしないと。二度とふざけた真似ができないようにね。

 さて、そろそろやって来る頃かな。本当は翔くんにも復讐させてあげたかったけど、多分流血沙汰になるだろうしそんな汚い現場を翔くんに見せたくない。汚れるのは私だけで充分なんだ……。

 木にもたれてナイフを回しながらそいつが来るのを待つ。しばらくすると足音が聞こえたから、やって来た人物に対して向き直る。


「どうした? 青山が和田と一緒にいないって珍しい――」

「沢田。私はお前に話があるの」


 覚えてる? 修学旅行前に白崎を潰すために使った女子のこと。そこに沢田もいたんだけど。

 あー、ダメだ。やっぱりこいつの顔を見てると怒りがまた溢れてくるわ。もう二度と起こらなくていいように原型残らないほどズタズタにしてやろうか。


「ちょ……なんでそんなに怒ってるんだよ。あの件は許してくれたはずだろ!?」

「去年翔くんにキスしようとしたこと? あれはもういいよ。だって体がちゃんと反省してるでしょ?」


 沢田が反射的に左腕を押さえる。去年罰として自転車で轢いた腕、まだ痛む時があるんだ。でも、そんなのどうでもいいけど。

 まさか、私が怒っている理由が分からないの? これだからクズは困るのよ。自分がやったことを反省もしないんだから。

 だから、教えてやる。もう二度とこんなことさせないために。

 私は、胸ポケットから一枚の写真を取り出す。修学旅行の時、写真係をしていた子を一人一人回ってようやく掴んだ証拠だ。


「ねぇ、知ってるよね? 翔くんがアドベンチャーパークで木から落ちたこと」

「あ、あぁ。私も見たからな」

「見た? じゃあこれはなに?」


 写真に写っているのは、沢田が白崎を突き落とす瞬間。別にこいつが落ちてくれてても良かったけど、翔くんは白崎を助けようとして木から落ちた。

 てことはさぁ……翔くんを突き落としたのはこいつだよね?


「証拠はあるよ。なにか言い訳ある?」

「……くっ」

「じゃあ、お仕置きするわね。大丈夫。一生家から出てこれないようにするだけだから」


 ちゃんと翔くんに言ったもん。犯人は一生家から出さないって。そうしたら二度と翔くんに危険が及ぶこともないもんね。

 さて、どうしてあげるのがいいかな? ナイフで切ってもいいし、なにか抉り取るのもいいわよね。烙印として体焼いちゃうのも捨てがたいし、跡が消えないようにひたすら殴るってのもありかしら。


「沢田が決めて良いわよ。どんな方法で殺されかけたい?」

「冗談じゃない! 私はただ、白崎が邪魔だったから……」

「それには同意。でもね、結果翔くんが傷ついた。本当なら殺してやりたいけどほら、私たちでしょ? 半殺し以上殺害未満で止めてあげるからさ」


 さすがに焦ったのか、沢田が拳を固める。これはあれね。やられるくらいならやってやるって感じね。

 去年は一瞬で負けてたけど、あれから一年も経ったし少しは成長してるといいな。


「ふざけるなよこの異常者!」

「酷いな。可愛い女の子に向かって異常者だなんて……ね!」


 茂みに隠してた工具バッグをフルスイング。沢田の顔に当てて転倒させる。なんだ。全然変わらないじゃない。

 おっと、立ち上がろうとしてる。タフになったわねぇ。知らなしどうでもいいし立ち上がらせるわけないけど。


「ッ!? ぎゃああぁぁ!」

「静かに。誰か来ちゃうよ? ちょっとで遊んだだけじゃない」


 知ってる? アニメとかだとスタンガンって相手を気絶させるイメージだけど、実はそうじゃないの。だから、こうして護身用の道具で拷問じみたこともできるんだ。

 さて、終わらせちゃいますか。きーめた。処刑はやっぱりナイフを使わないとね。

 一歩踏み出すと沢田が顔を隠すように腕を出す。かなり怯えちゃってるわね。でも、仕方ないか。こいつが悪いのだから。

 さぁ、薄暗い場所で逆手にナイフを持ってもう片方の手にはスタンガンを持った女子高生ってどんな風に見られてるのだろう。ちょっと気になったりするなぁ。


「や、やめ……!」

「じゃあ、宣誓でも刻みましょうか」

「宣誓?」

「うん。宣誓」


 腕を捕まえてナイフを突き刺す。勢いよく血が弾け飛ぶなぁ。赤色が映えて綺麗。


「ああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「復唱してね。私、沢田未来は」

「はぁ……はぁ……」

「ふ・く・しょ・う!」


 もっと深く刃を差し込む。ほら、早く言わないと出血が酷くなるよ。


「いやあぁぁぁぁ! ……わ、わたし……さわだみらいは……」

「今後、青山彩乃ちゃんと」

「ここここんご……あおやま……あやのちゃんと……」

「和田翔馬様に逆らうことなく」

「わだ……しょうまさまに……さからうことなくぅ……」

「一生奴隷になることを誓います」

「いっしょぉ……どれいに……なることをちかいますぅ……っ!」

「はい、よくできました」


 ナイフを引き抜き、もう片方の腕に「奴隷」という文字とハートマークを刻んでやる。さて、これでもう二度とおかしな真似はしないことでしょう。

 すべてが終わると、沢田は生気のない目で逃げ帰っていく。あ、口外しないように言うの忘れてた。

 でも、誰にも言わないわよね。だって、誰かに言えばまたものねぇ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る