第67話 夏祭りはこれからなのですが?

 わらび餅をつまみながら階段を上がっていく。さて、順番がおかしくなった気がするけど神社にお参りに行くとしようか。

 大勢の人々をすり抜けて階段の最上部へ。と、思ったけど途中から動きが止まり始めた。大勢がお祈りに行くから混雑してるんだよな。大人しく待とう。

 皆でわらび餅をつまみながら順番が巡ってくるのを待つ。段々と本殿に近づいていき、そしてようやくお賽銭箱の前まで来ることができた。

 ここがなんの神様なのか知らないけど、とりあえず恋愛に関してのお祈りでも捧げておこう。そもそも何を祈願する夏祭りかよく知らないからこんなお祈りしていいのかも分からないが、まあこういうのは気持ちの有り様が大きいと俺は思っている。

 五円なんてちゃちいものだと祈りは届かないかも。三重にご縁がありますようにと三十五円をお賽銭箱に放り込む。


(神様……ッ! どうか今夜の告白が成功しますように……ッ!)


 多分、こんなにも必死になって願い事をするやつなんて俺以外にいないだろうな。周りは軽い気持ちなのに一人ガチになってます。

 願い事を終えたから後ろにいた白崎さんと交代する。あまりこんなことを言うものじゃないとは思うけど、白崎さんも少し多めの額を入れたな。お賽銭箱に小銭が当たるあの特徴的な音でそう思った。

 見ると、なにやら白崎さんも真剣な感じで願い事をしていた。他にもお仲間がいてよかったと思う反面、白崎さんが何に対して本気なのかすごく気になる。

 その後、全員お参りを済ませたからいよいよ屋台巡りを行う。ちょうど夕飯にもいい時間帯だから適当になにか買いますか。

 やっぱり祭りの定番といえばたこ焼きだよね! 熱々のたこが本当に美味しいんだ。


「なぁ。たこ焼き買ってくるけどほしいやついる?」

「あ、俺にも買ってきてくれ」

「ほーい」


 彰と俺の二パックで大丈夫か。多分彩乃が横からつまみ食いとかしてくると思うけど、八個入りなら問題ない。

 屋台のおばちゃんにたこ焼きを注文して待つ。目の前で焼き上がるたこ焼きを見るのも醍醐味なんだよな~。……たまに熱々のキャベツが飛んできて危ないけど。

 おばちゃんからたこ焼き二パックを受け取り皆の元へと帰る。が、なぜか彩乃の姿がなかった。


「? 天音、彩乃がどこに行ったか知らない?」

「さぁ? 彩乃はなんか用事があるとかなんとか言ってどこかに。彰もさっきナンパしてくるとか言って走って行ったから、多分おまわりさんの休憩所にでもいるでしょ」

「あー、補導前提なんだ……」

「ほんともう仕方のない……花火の時間少し前に狛犬像前で集合だってさ」

「了解。……このたこ焼きどうするべきか」

「あたしがもらってあげる。たこ焼きは恋人でふーふーの定番だからね」


 彰のたこ焼きを持っていく天音。目がキラキラしていてとても楽しそうだった。


「じゃあ、一旦解散するか。また花火の時間まで。デート楽しめ~」

「今日はデートよりも楽しみなことがあるんだけどね」


 意味深な駿太の言葉と温かな目が気になる。なんか天音は天音で白崎さんの肩を叩いてるし、白崎さんも照れたような顔してるし。

 二人が人混みの中に消え、必然的に二人きりになる。これはチャンスなのでは?

 神様が俺にチャンスを恵んでくださったに違いない! 後で千円札を献上しにいかねばな。


「白崎さん」

「ひゃいっ!」

「ひゃい? ……あの、さ。良ければ一緒に行動しない?」

「私で良いの?」

「白崎さんがいいんだよ」


 無意識にキザな台詞が出てしまった。君が良いだなんてもうこれ実質プロポーズ! 急に恥ずかしくなってきた。


「じゃあ、いいよ。行こう!」


 天使顔負けの笑顔で手を引いてくれる。あぁ、ここがこの世の桃源郷か。

 たこ焼きと、新しくリンゴ飴や串焼きといったバリエーションに富んだ食べ物を手にいろいろ回る。懐かしのゲームなんかもあって二人で楽しめた。

 輪投げが遊べる屋台では白崎さんの技術が光った。俺がやったら遠くに行くほど外していたというのに、白崎さんは全部輪に通していた。子どもたちから尊敬の眼差しで見られていたからちょっと恥ずかしそうにしてたな。そこがまた可愛いんだけど。あと、子どもに俺が馬鹿にされた。彼氏なのにかっこ悪いとかなんとか。傷つきそう。

 さすがに黙っていられなかったから、ダーツで俺の腕前を見せてやった。三本すべてをど真ん中にぶっ刺したら、店主のおじさんが腰抜かしてひっくり返ってたな。白崎さんが感激して抱きついてきてくれたから、俺も、多分白崎さんも倒れそうになってたけど。

 もらった袋に景品を詰めて屋台巡りを続ける。笑顔で会話が弾むこの時間は幸せだ!

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