第66話 屋台で楽しく遊ぶのですが?

 夏祭りの会場は熱気に包まれていた。夏特有の熱い空気と人々の盛り上がりが生み出す熱が肌にじんわり纏わり付く。

 地域に昔から伝わる盆踊りのリズムが流れてきているのを聴きながら、六人で屋台を巡る。たこ焼きに焼きそば、リンゴ飴に射的に金魚すくいなど、夏に定番の屋台が多く立ち並んでいる。

 ご飯には早い時間なのでまずちょっと遊ぶことにする。


「おいみんな! 射的やろうぜ!」


 彰の提案で射的をやることになった。一番大きな獲物を仕留めた人が勝ちというルールを作り、全員が一丁ずつ銃を持つ。コルク弾を先端にギュッと詰めてどれを狙おうか考える。

 勝負である以上負けたくはない。小さくてもいいからとにかく落とすことを目標にしよう。

 そう思って狙ったのは大袋のお菓子詰め合わせ。軽い駄菓子が詰め込まれているので、あれなら上手く重心を捉えればいけるかもしれない。

 よーく狙いを定めて……、


「――おっしゃ落ちた!」


 すでに彰が自分の弾を撃ち終えたらしい。てか、早すぎないか? 機関銃でも使ったのかよ。

 彰が戦利品として天高くに掲げたもの。それは、ごく普通のキャラメルだった。

 ちょっと笑いそうになりながらも集中。狙ってここで撃つ!

 引き金を引くと弾が勢いよくはじけ飛んだ。真っ直ぐ大袋を狙った弾が一番大きな駄菓子に当たって袋を後ろに下げる。


「うっし! あとちょい!」

「あー! あたし全部外した!」

「はいこれ。天音にあげるよ」

「いいの? ありがとう駿太!」


 けっ、集中している横でいちゃこらしてんじゃねえ。手元が狂う。

 なんて、くだらないことを思いながらもう一射。二発目もいいコースを飛んで袋をあと一歩まで追い詰めた。


「これでトド……」


 最後の一撃を撃とうとしたとき、ふと視界の端にぬいぐるみが映った。白崎さんが狙っている。

 白崎さんの銃口にはラスト一発らしきコルク弾。だが、あのぬいぐるみはどれだけ上手くてもあと二回は必要だろう。

 駄菓子を取るか、白崎さんの手伝いをするか。少し迷い、俺は覚悟を決めてぬいぐるみに最後の一発を撃った。体に当てると綿で衝撃を吸収されてしまうから目の装飾を狙う。見事当てた一発でぬいぐるみがバランスを崩す。


「やった! 白崎さん最後!」

「うん! ありがとう!」


 白崎さんも目の装飾にコルク弾を当てて遂に大物ぬいぐるみを仕留めた。これには屋台のお兄さんも驚いている。


「すげぇ! これ、本当に落ちるんだな。アルバイトしてなかったら知らなかったわ~。正直会社が詐欺で訴えられないかビクビクしてたのに」


 そんなもの置いておくなよ。いやまぁ、あんな大物を取ろうだなんて普通は思わないだろうけどさぁ。

 さて、俺は結局獲得ゼロか。白崎さんの嬉しそうな顔が見れただけでよしとしよう。銃を机に置いて――、


――カンッ、コッ!


 二連続でなにかが当たる音がし、ふと的を見ると俺が狙っていた駄菓子が消えていた。


「やった! ダブルショット!」

「「うっそだぁ……」」


 缶入り水飴と駄菓子大袋を一発のコルク弾で撃ち落とすという神様もびっくりな現実離れした技を披露した彩乃。さすがに俺もお兄さんも半笑いになる。てか、缶入りの水飴って普通コルク弾程度じゃビクともしないよな?

 ありえない光景に言葉を失っていると、彩乃が駄菓子を俺に渡してくる。


「はいこれ。翔くんがほしそうだったから」

「大物で落とせそうなものってだけだけどな。でも、ありがとう」


 彩乃の頭を撫でる。もう今は無意識に手が出ているけど、振り払われることもなく嬉しそうにしているからまあこれで良いんだろう。

 彩乃を上機嫌に変えてやると、背中に柔らかいものが。白崎さんがぬいぐるみを押しつけてきたのだ。


「翔馬くんありがとう。おかげでこれ、取れた」

「それはよかった。でも、白崎さんってもっと現実的なの狙うのかと思っていたよ」


 まさかこんな大物を狙うとは。ちょっとびっくりしたわ。


「このぬいぐるみ、口元が翔馬くんみたいでほしかったの」

「ん? 俺がどうかした?」

「~ッ! なんでもない忘れて!」


 顔を紅くしてなにやら否定の言葉を口にしている。俺がどうこう言ってた気がするけど、あまりしつこく訊いちゃうと悪いから黙っておくか。

 と、急に彰が突拍子もないことを言い出した。


「うっし! じゃあなにも取れなかった天音と翔馬は罰ゲームな! 二人合わせて六十個以上当たるまであそこのわらび餅ルーレット回してこい!」

「「はぁ!?」」


 いや罰ゲームとか聞いてないし! てか、それ地味にキツいやつだな!

 天音と二人トボトボ屋台まで歩いていく。二人で六十当てるまで終わらないルーレットは結構な嫌がらせ……。


「……そうでも」

「ないわね」


 一回二百円で最低でも二十個当たる。一人三百円で確定エンドだ。

 とりあえず一回目。天音がルーレットを回す。やがて、とまった目は……。


「中当たり! 中は四十個ね」


 店のお婆さんがニコニコ笑顔で中当たりの内容を教えてくれる。

 次の俺で終わり。四百円で済みました。

 次に俺が回す。でも、なぜか天音よりいいもの出したいなという気持ちがあった。回るルーレットを眺めて、結果を見る。


「大当たり! 五十個!」

「よっしゃあ!」

「六人でも食べきれるかなぁ?」


 ずっしり膨らんだわらび餅の袋を前に、天音が苦笑している。

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