第65話 夏祭りに出掛けるのですが?
旅行から二日後、俺は鏡の前で服を持って唸る不審者と化していた。
今日、俺は白崎さんに告白する。服装も少なからず影響するかもしれないから気合い入れて選ばないと。ダサい服では死んでもいけない。
悩みに悩んで三時間。ようやくまともかなと思える服を選んだ俺は、でもやっぱり不安になる。
「これで本当にいいものか……」
やはり意見は多い方が良い。そう考えて窓から身を乗り出す。
「おーい彩乃。ちょっと聞きたいんだが……って、そういやいなかったな」
彩乃はお昼ご飯を一緒に食べた後どこかに出かけたんだった。しゃあない、おかんたちに聞くか。
一階に降りて二人から意見をもらう。二人とも、俺が今日何をするつもりか悟ったようで本気でアドバイスをしてくれた。何着もの服を試していき二人からのダメ出しと賞賛をもらうことさらに三十分。二人から全力のピースサインをもらえた服を選ぶことに成功する。
ほっと一安心して冷蔵庫から麦茶を取り出す。これで前準備は完了。あとの結果は神のみぞ知る。
瞑想も兼ねて麦茶を一口……。
「ところで翔馬、時間大丈夫?」
「待ち合わせは確か四時って言ってなかったか?」
「え、うん」
「「あと五分」」
はいやらかした俺の馬鹿野郎ぉぉぉぉぉ!! もっと時間を確認しやがれ!
玄関まで走り靴を履くとドアを開けて全力ダッシュ! 慌てて夏祭りが行われている神社まで走って行く。
神社が近づくにつれて大勢の人が目立つようになってきた。今年もお祭り盛り上がっております。屋台も多く来てるみたいだから楽しみ!
神社に続く階段の一番下まで走ると、さすがに疲れた。足を止めて呼吸を整える。
「――おっ、久しぶりじゃん翔馬」
「おう。久しぶり。彰は補習無事に終わったのか?」
「まあな。今日は夏祭りがあるから特別って言われてめちゃくちゃ難しいプリント一枚渡されたよ」
「大変だったな……」
「あの難易度は死ぬかと思ったわ」
今まで補習を頑張っていた彰と合流する。すると、後ろに不穏な気配を感じたからさっと手を突き出してその人物の行動を止める。突き出した手は彼女の額に当たって動きを止めることに成功した。
「わっ! 翔くん離して~」
「抱きつかないならいいだろう」
どこかに行っていた彩乃とも合流した。これで後は三人。多分、もう来てると思うんだけど……。
「あ、やっと来た」
「遅い! あたしたちをどれだけ待たせるの? 時間に余裕持って来なさいよ」
「まぁまぁ榊さん。……こんにちは、翔馬くん」
階段を降りてくる三人。駿太と天音と白崎さんだ。これでお祭りを回るメンバーは全員揃った。
お祭りといえば、女子たちの浴衣姿を想像したかもしれないがそうじゃない。ちらほらと浴衣姿の女子もいるにはいるが、白崎さんたちは普通におしゃれな私服姿だった。ただ、これも本人が可愛いのでよく映える。
「今日の白崎さん、可愛いね。その服似合ってるよ」
「え、ありがとう……!」
とにかく褒めておく。服装は褒めておけと昔から言われているからそれに従おうかと思っていたけど、そんなことどうでもよくて本心からそう思った。
自分の中の時間が停止する。しばらくそのまま停止していると、ふと白崎さんが近づいてくる。
「どうしたの? 大丈夫かな?」
「え、あ、うん! 問題なし!」
いけない。心配させてしまった。これではダメだね。
頬を叩いて気を取り直す。こんな状態では目的を果たせないぞ。
「……あ、そうだ。ちょっと来て翔馬」
「ん?」
天音に呼ばれた。なんだろうかと思って行ってみる。
「どうした?」
「ちょっと忘れてたことがあって」
「忘れてたこと?」
「うん。これ!」
いきなり天音のパンチがお腹に突き刺さる。割とガチの一撃だったから結構響いて痛い。その突然の行動に心当たりなんてないからひたすら意味不明だ……。
「おま……なにしやがる……」
「これで勘弁してあげる! もう二度とあんなことしないでよ!」
「いや、マジで意味不明……」
こいつを怒らせるようなことなにかやったか? 本気で覚えてないんだが。
彩乃が心配そうに駆け寄ってくれる。なぜか白崎さんが天音を注意して、駿太と彰は完全に置いてけぼりだ。本当にどういう状況?
よく分からんが、そろそろ痛みも少しマシになってきた。どうにか動ける。
「翔くん大丈夫?」
「どうにか」
「そう。なら、行こっか! もうお店開いてるよ!」
彩乃の先導に付いていく。さて、夏祭りを楽しもう!
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