第64話 夏祭りのお誘いをするのですが?
白崎さんと彩乃、二人と楽しみその日を終え、別の日に親父たちといろんな所を回って充実した旅行を楽しんだ。楽しい時間もあっという間で、俺たちが家に帰る日はやって来る。
お世話になった部屋の掃除をして荷物を纏め、車に持ってきたものとお土産を載せていく。それから軽く周囲の清掃だ。きちんと掃除しないとダメだからね。
すべての片付けを終え、俺たちも車に乗る。最後列、左に白崎さんと右に彩乃というかなり役得な席だった。
「じゃあ、出るよ」
白崎さんのお父さんの合図で車がゆっくりと動き始める。離れていく海と別荘に一種の寂しさを覚えた。旅行って、帰り道を進み始めた瞬間が一番寂しく感じるものだから。
しかし、今年の旅行は本当に楽しかった。まさか白崎さんとこんなにも長く一緒にいられるとは奇跡だったし、例年以上に長い旅行で彩乃も満足そうだったから思い残すことはないな。
車は高速道路に入っていく。高速道路に入っても変わらず景色を楽しんでいたんだが、やがてトンネルに入って橙色の灯りだけが車窓に映るようになった。
「ははっ、しばらく寝ててもいいよ。眠くないならビデオでもつけようか」
座席の前にある画面に映画が映る。白崎さんのお父さんって本当に準備万端で頼もしい。良い父親だなぁ。
妹が悪魔になってしまい、元に戻すために兄が悪魔を倒していく大人気映画。もうこれビデオ出てたのか。驚きだな。
窓の外は相変わらず暗いから画面を眺める。すると、肩にちょっと重たいものがのしかかってくる感触があってふわりと良い香りが漂う。そっと確認すると、珍しく彩乃が俺に頭を預けて眠っていた。
「ずいぶん楽しそうだったし、疲れたんだろうな」
「青山さん寝てるの?」
「うん。このまま肩を貸してやるか」
彩乃ができるだけ首を痛めないように注意しながら映画の続きを見る。が、途中から白崎さんが欠伸を始めた。
「眠い?」
「……うん。ちょっとだけ」
「そう。じゃあ、彩乃みたいに肩使う? 寝てていいよ」
「えと、じゃあ……膝を使わせてもらってもいい?」
「え!? 白崎さんがいいなら俺は良いよ」
「ありがとう。失礼します」
白崎さんが俺の膝に頭を乗せて眠る。こう、美少女の寝顔を上から見下ろすというのは中々に絶景だった。
悪いなと思いながらも白崎さんの頭を撫でさせてもらう。絹のように繊細な白髪が指をスルリと通り抜け、さわり心地は究極の領域に近い。
しばらく撫でさせてもらっていると、不意に白崎さんが漏らした寝言にドキッとしてしまう。
「翔馬くん……好き……」
「え、えーと……」
「うふふ。寝ていると素直ね」
白崎さんのお母さんが後ろを振り返りながらそう言った。
「翔馬くんありがとうね。沙耶香、すっごく楽しそうだった」
「こちらこそ。白崎さんと一緒に過ごせて夢のようでした」
「それならよかった。……起きていると怒られるから言えないけど、この子翔馬くんが好きなのよ」
「それ、は……友達として?」
「鈍感……! 困った息子ねぇ」
「うるせぇよ。ありえないと思っただけだから」
いやだってさ。友達として好きって意味じゃないならそれはつまりそういうことになるじゃん。でも、白崎さんが俺のことそんな風に思ってくれているのだとしたらそれは過去最高に嬉しい。
このまま告白してお付き合いしたいものだ。けれども、一度振られている俺としては中々勇気が出ないのも事実。なにかいいきっかけでもあればいいんだけどね。
「あ、そうだ。翔馬くん。いい話があるんだけど……」
「なんです?」
「ええ、実はね――」
◆◆◆◆◆
映画二本分の時間をかけてようやく家まで帰ってきた。彩乃を起こして荷物を家まで運び、白崎さんにお礼を言う。親父と蒼一さんが先に話してるからその後で。
「白崎専務、今回は本当にお世話になりました」
「いいんだよ。こちらこそ楽しかったよ」
「白崎さんのお父さん、ありがとうございました」
「沙耶香と遊んでくれてありがとうね。君なら安心して沙耶香を任せられるよ」
大笑いでそんなことを言ってくる。もう親公認みたいになってるじゃないか。嬉しい反面戸惑う。
さて、いい加減自分の気持ちに決着をつけようか。これで終わらせる。
覚悟を決め、白崎さんの近くまで歩いていく。
「ありがとう。楽しかったよ」
「うん。また、どこか行こうね」
「それでさ、白崎さん。あの……」
「あのさ、翔馬くん。よければその……」
「「明後日からの夏祭り一緒に行かない?」」
俺と白崎さんの口から同じ誘いが飛び出した。思わず顔を合わせて笑ってしまう。
「じゃあ、行こうか」
「うん。みんな誘って」
「……あれ?」
二人きりの野望潰える。でも、こっそり白崎さんが耳打ちしてくれた。
「途中、少し大事なお話があるけどね」
「え、それ……」
「じゃあ、また明後日!」
白崎さんたちは帰って行った。
しばらくその場に立っていると、眠たそうに目を擦りながら彩乃が近づいてくる。
「翔くんどうしたの? 顔真っ赤」
「ああ。白崎さんに夏祭り誘われた」
「はぁ!? あいつ……ッ!」
「みんな誘うんだとよ。彩乃も来るよな?」
「……みんな? ……ふーん。あっそ。私も行く」
少し不機嫌そうな彩乃の声音だが、それはあまり気にしない。それよりも大事なことを考えている。
この夏祭りが勝負! ここで俺は輝かしい青春をつかみ取ってみせる!
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