第63話 幼なじみをナンパから守るのですが?

 にへへ、翔くんとのデートは楽しいな。水族館に行けなかったのは残念だけど、こうして海で一緒に遊んでくれてるからもういいや。

 そのまま小腹が空いてくる時間までバレーを楽しむ。三時近くになると、バレーは終わり。一度別荘まで戻ってお財布とパラソルを持ってもう一度ビーチに戻る。

 砂浜にパラソルを立てたらなにか海の家で買ってこよっと。


「なにか買ってくるけど、翔くん何食べる?」

「そうだなぁ……焼きそばとか確かあったよな」

「あったね。じゃあ、買ってくる! 翔くんはゆっくりしてて!」


 そう言って私は一人海の家に買いに行く。翔くんが焼きそばなら……ちょっと大盛りのを頼めば二人で分けることができるよね。じゃあ、私はなにかドリンクでも買おう。

 お店の人に注文してできあがりまで待機する。早くできないかな? 美味しそうなソースの香りが漂ってくると、自然と心がウキウキする。


「――ねぇ君。もしかして一人かな? よければ僕たちと遊ばない?」


 ふと顔を上げると、大学生くらいの男の人がそこにいた。これ、ナンパだよね。残念だけど私そういうのお断りなのよ。翔くんがいるのに、他の男になんて興味ないわ。


「ごめんなさい。ここには友達と来てるし、彼氏もいるんです」


 未来の、って言葉が付いちゃうけどね。でも、そのうち現在形にしてみせるんだから!


「えー、そういうこと言わずにさぁ。なんならその子も一緒に……」

「お断りします」

「即答……ちょっとは考えてくれても……」

「お前しつこいぞ、諦めろ。……ごめんね、それじゃあ」


 男の人は、同じグループらしき別の男の人に連れて行かれちゃった。ふぅー、面倒ごとは避けることができてよかった。

 それにしても、ナンパねぇ。やっぱり、私ってナンパされるほど可愛いのかしら? それなら、翔くんもあんな女じゃなくて私を選んでくれたらいいのに。そうしたらもうすぐにでも結婚できるっていうのにね。美男美女の幼なじみ夫婦なんて、それはもう人生華やかの王道ルートで……、


「……はっ、しまった!」


 今になって気づいちゃった! そうだよ翔くんも結構モテるじゃない! 学校でも翔くんのことを好きっていってる人多いもん!

 そんな翔くんを一人置き去りにしちゃった! 私がナンパされたのなら、きっと翔くんはもっと多くの逆ナンをされているに違いない!

 逸る気持ちからその場で足踏みをして商品を待つ。焼きそばとドリンクがトレーに乗せられて渡された。その時、お店のおじさんにトイレの場所を教えてもらったけど私のこの足踏みはトイレを我慢してるんじゃないのよ。これは焦りだっての。

 代金を払って慌てて翔くんのパラソルに。ようやく帰って来れたけど、そこでは私の予想通りの光景があった。


「いや、ごめん。幼なじみを待ってるからそういうのは……」

「えー、いいじゃん。なにかメッセージでも残して私たちと遊ぼうよ」


 数人のビッチ……じゃなかった。同年代くらいの女たちに詰寄られて困り顔の翔くんがいた。遊ぼうと誘われているっぽいけど、それをちゃんと断ってくれているっぽい。でも、あいつら食い下がらないのね。さっきの男の人みたいなポジションの女はいないのかしら?

 そんな人を待っていたけど、さすがにもう我慢できない。女の一人が腕を絡めて翔くんにおっぱいを押しつけだした辺りからもう許容範囲は超えた。むしろ、よくここまで我慢したわ。

 パラソルの下にトレーを置いて女を引っ剥がす。翔くんと腕を組んでいいのは私だけだもの。


「お待たせ翔くんっ!」

「あ、お帰り彩乃」

「え、さっき言ってた幼なじみさん……?」

「違うわ。翔くんは私の彼氏です!」

「ん? いつから俺と彩乃が……」

「人の彼氏に手を出すなんていい度胸してますね~」


 にこやか笑顔でさっき翔くんと異常に距離が近かった女の耳元で囁く。ちゃんと女だけに見えるように水着からナイフも取り出して。


「さっさと消えろビッチ。これ以上翔くんに手出しするならこれで心臓を抉って殺すから」

「ひっ……ごめんなさいっ!」


 ふふっ、ざまぁみろ。泣きながら走って逃げていったわ。他の女たちも同じように逃げていく。どうにか泥棒猫を追い払えてよかった。


「おい。お前あの子に何を言ったんだ?」

「私と翔くんがどれだけ仲良しか教えたの」

「それで泣きながら走るかなぁ?」


 腑に落ちないって顔の翔くん。まぁ、あんな股の緩いビッチのことは放っておいて私たちで楽しみましょう。

 翔くんを隣に座らせて焼きそばを差し出す。


「あれ、ずいぶん大きいの買ったな」

「私にもちょっと分けて欲しくて」

「小さいの二つ買えばよかったのに」


 笑いながら翔くんが焼きそばをふーふーして冷ます。それを私の前に持ってきてくれた。


「え?」

「さっきはありがとうな。これ、お礼にならないかもだけど……」

「翔くん大好き!」

「うおっ!? 落とすから飛びつくな!」


 未来の、って言葉は撤回で! 翔くんはもう私の彼氏!

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