第60話 水族館デートを決行するのですが?
俺は今、水族館の前に来ている。ゲートからイルカのオブジェクトがお出迎えとはいい演出だね。
「じゃ、入ろっか。白崎さん」
「うん。行こう!」
すごく楽しそうに俺の手を引いて駆け出す白崎さん。あのジャンケンに勝ったのは白崎さんだった。彩乃がハンカチ噛んで悔しがってたなぁ。
二人分のチケットを買って館内に入る。長いエスカレーターに乗って上まで上がっていく。はしゃぐ白崎さんを後ろから眺めていると幸せホルモンが一気に分泌される。
緩んだ顔をしていると、不意に白崎さんが一段後ろに下がって俺の隣に並んだ。
「ごめんねはしゃいじゃって。でも、私、翔馬くんと一緒に来たかったから嬉しくて」
「あ、うん。俺も白崎さんと来れて本当に嬉しいよ」
「そう? ありがとう。……なんだかデートみたいだね」
満面の笑みでそんなことを言ってくれる。あ、これあれだわ。俺もう死ぬわ。尊死するわ。
心臓が負担の限界に達しようかというとき、最初の動物がお出迎えしてくれる。この水族館のお出迎えはカワウソちゃんだった。
スイスイ泳ぐ愛おしい姿に思わず目を奪われる。人間ってどうして小動物というかふわもこの愛らしい生き物に心奪われるのだろうか。
俺も白崎さんもテンションが上がっていく。二人一緒に張り付いて興奮を隠せない。
「うおおおぉぉぉぉ! パタパタ駆け回ってる!」
「あ! 見て翔馬くん! あの二匹顔を近づけてる! キスしてるよ!」
「あっちは美味しそうになんか食べてる! 可愛い!」
もう止まらない。二人で目をキラッキラにしてカワウソの暮らしを見守る。
しばらくカワウソちゃんを堪能した俺たちは次の展示へ。次の水槽にはラッコがいた。目を閉じて心地よさそうにプカプカ浮いている。
海藻にくるまって浮いているラッコの顔のまぁ気持ちよさそうなこと。思わず頬が緩んでしまう。
「ふふっ、翔馬くん面白い顔してるよ」
「え、マジ!?」
「うん。いつもカッコいいのに今はとても可愛い」
笑顔でそんなことを言われるとさすがに照れるなぁ。思わずそっぽを向いてしまう。恥ずかしくてついつい早足に。
次の水槽に到着した。この水族館で一番有名な大水槽だ。
無数の魚たちが気持ちよさそうに泳いでいる。大人しいサメや鯨の仲間……? サイズ的にイルカか……? とにかくそんな生き物も見ることができた。
その圧倒的なサイズに思わず口を開ける。しばらく呆けていると不意に視界に誰かの手が入ってきた。
「翔馬くん大丈夫? ボーッとしてたけど」
「あ、あぁごめん。大丈夫だよ」
水槽に圧倒されて思考が止まってた。これが水族館の力か。
ここら辺は座るスペースや軽食を売っている売店もあるらしい。ちょっとおやつにしますかね。
「白崎さん、アイス食べない?」
「え? 食べる!」
「オッケー。何味がいい?」
「私、バニラがいいかな」
「分かった。買ってくるから待ってて」
そう言って白崎さんには椅子に座っていてもらって俺は売店へ。白崎さんのバニラアイスと俺の抹茶アイスを買って戻る。
バニラを渡して俺も隣に失礼します。二人で並んでアイスに口をつける。
「美味しいね」
「うん。これはいいアイス!」
「魚を眺めながらアイス。ほんと、私ジャンケンに勝ててよかった」
「白崎さん?」
「私、こうして翔馬くんと水族館に来たいって思ってたから。夢が叶っちゃった!」
天使オーラが周囲に振りまかれる。そのオーラにあてられて何人かの男性たちが白崎さんに視線を向けてきやがった。あーあ、あっちの彼は彼女さんに怒られちゃってるよ。
俺の胸の鼓動も早くなる。だが、当の白崎さんはそんなこと気にしていないと言わんばかりにさらなる過激な行動に走る。
「ねえ。私にもその抹茶アイス一口もらえないかな?」
「え、ちょっと!」
白崎さんは俺が口をつけた場所をチロリと舐めた。あの、それ、間接キスになるけどよろしいので……?
「んっ! 美味しい!」
「気にしてないならそれでいいんだけど……」
「はい、翔馬くんにもおすそわけ」
白崎さんがアイスを差し出してきた。あの、その面だとさっき白崎さんが食べてた場所で……。
いやいやいやいや待てよ和田翔馬! 変に意識しすぎるからダメなんだ。白崎さんはそんなことちっとも気にしてないぞ。お前も変に考えるな。
意を決して一口もらう。うん、味が分からない。多分顔が真っ赤になってる。
「見てお母さん! あの二人恋人さんだ!」
「「ぴゃっ!」」
「こら! ほんと、ごめんなさい!」
男の子に恋人と言われてしまった。身に余る光栄だけど、白崎さんに迷惑が……。
「私たち、恋人に見えるのかな?」
「あー、確かにこれは客観的に見ると恋人だね」
「そうなんだ。……嬉しいな」
え、今嬉しいって言った?
確かめたかったが、あまり訊いてしまうとダメな気がする。ここは大人しく引き下がろう。
さて、せっかくだから何か思い出が欲しいよね。
「白崎さん! 二人で写真撮らない?」
「いいの?」
「もちろん! ほら、もう少し寄って」
肩が触れあう距離でスマホを持つ。自撮り棒はないけどこれでシャッターを切ろう。
めっちゃ至近距離に白崎さんの顔! 照れながらも大胆に攻めたもんだと自分を褒めてやりたい。この写真は永久保存決定っと。
大水槽を充分満喫した俺たちは次の展示に移動する。次は確かクラゲだったはず!
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