第59話 朝からお出かけの用意をするのですが?
二日目の朝を迎えた。今日の予定はきっちりと組んでいるから問題はない。これなら、白崎さんと彩乃が不穏な空気になることはないだろう。
俺にしては珍しく早くに起きて台所へ。そこにはすでに志乃さんと白崎さんのお母さんがいて朝食を作っていた。
「おはようございます」
「あら、おはよう」
「おはよう翔馬くん。今朝は早いのね」
志乃さんに冗談っぽく笑われる。確かにいつも遅いので何も言えない。微笑を浮かべて席に座る。
朝は白崎さんのお母さんが焼いたパンケーキだった。ジャムやメープルシロップなどのトッピングは志乃さんが担当している。でも、大丈夫か? メープルシロップがナイアガラの滝みたいにだだ漏れてるんだが。カナダ繋がりで。
……全然面白くないことを口走った。恥ずかしい。実は、無意識のうちにテンションが上がってるのかもな。
甘々なパンケーキを口に運ぶ。すると、正面に白崎さんのお母さんが座った。
「ところで翔馬くん。沙耶香のこと好きなの?」
「げほっ!」
不意打ちの質問に思わずむせてしまう。メープルシロップが喉に絡みついて熱いような感覚に襲われる。本能から水を求めた。
シロップを押し流して一息つくと、心を落ち着かせる。幸いこの場には面倒な人物は一人もいないから、素直な気持ちを話すとしよう。それに、将を射んと欲すればまず馬を射よ。お母さんに気持ちを打ち明ければなにかしら応援してくれるかもしれない。
「はい、好きです。交際できたらいいなって」
「まぁ! それじゃあ両お……っと。沙耶香に怒られちゃう」
今、なにを言いかけたんだろう? 白崎さんが内緒にしておいてほしいことなのだろうか? 気になるけど、うん。仕方ない。
「へぇー。彩乃じゃなくて沙耶香ちゃんなのね」
「そうです。ごめんなさい」
「どうして謝るの? 翔馬くんの人生だから恋愛も好きにしなくちゃ! 私、娘を無理矢理押しつけるほど危ない人間じゃないのよ」
志乃さんがクスクスと笑っている。どうやら、志乃さんもこちら側に付いてくれるようだ。
「でも、親の私が言うのもなんだけどあの子めんどくさいわよ。しっかり断りなさいね」
「が、頑張ります……」
「ふふっ。でも、それを言ったら沙耶香だって……」
「――私が何? ねぇ、お母さん」
後ろから声が聞こえたので振り返る。そこには白崎さんが立っていた。寝起きの彼女を見るのは初めてで、すこし寝癖の付いた銀髪が可愛い。
白崎さんのお母さんが苦笑しながら立ち上がる。お皿を取り出してフライパンに乗っていたパンケーキを移した。
「なんでもないわ。ほら、早く朝ご飯食べなさい。翔馬くんと遊ぶの楽しみだったんでしょう?」
「ちょっ! 翔馬くんの前で言わないで!」
顔を真っ赤にして叫ぶ白崎さん。嫌がっている……風には見えない。むしろ照れ隠しみたいな……。
なにか話題を振ろうと思う。が、直後に聞こえた声に中断した。
「あっ、珍しく翔くんが早起きしてる」
「珍しくって言うな。……珍しいけど」
彩乃もようやく起きてきた。一緒に蒼一さんもやってくる。
これで、いないのは白崎さんのお父さんとうちの親父&おかんか。
「あの人、朝は遅いのよ。気にせずパンケーキ食べてて」
「うちも同じですよ……」
「はは! 部長も新一も午前中は欠伸ばかりしてるからね」
何やってんだ親父。ちゃんと仕事できてるんだよな?
無駄に甘いパンケーキを食べ終え、水で朝ご飯を終わらせる。午前の準備をするために部屋に戻ろうとするとようやく親父が起きてきた。
「お、翔馬。朝は水族館か? ハーレムデートを楽しんでこいよ」
「残念ながら違うんだな。彩乃と白崎さんが一緒だとトラブりそうだから同時じゃない。まぁ、考えはあるよ」
「ふーん。モテる男は辛いねぇ」
「うっせ」
親父と朝の軽口を交わして部屋に帰る。小さめの鞄に財布やらなんやらいろいろと詰め込んで準備する。両隣の部屋でもなにやらゴソゴソ音が聞こえてきた。準備したのに……って、なると可哀想だから早めに伝えておこう。
部屋を出て白崎さんと彩乃に声を掛ける。
「どうしたの?」
「早く準備しないと。時間短くなるよ」
「いや、な。ちょっと言いたいことがあって」
一呼吸置いて二人に告げる。
「二人一緒だと絶対トラブルになるだろ? そこで、ジャンケンで勝ったほうに午前の水族館か午後の海かを選んでもらって一緒に行く。で、負けた方がもう一方ってしようと思うんだ」
そう言うと、二人は少し残念そうな顔をするがすぐに元の調子を取り戻した。とりあえず、第一関門は突破か。ここでなにかしら争いが起きることも覚悟してたもんな。
彩乃と白崎さんが向かい合った。二人の目が燃えている。これ、二人とも本気だなぁ。
「じゃあいくよ!」
「負けるもんですか!」
「「じゃーんけーん……!」」
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