第57話 温泉でトラブル発生なのですが?

 すべての肉を焼き終え、楽しかったバーベキューはお開きとなる。肉も野菜も残さず平らげ、余は満足じゃ。なんちゃって。

 さて、後片付けでもしますか。まず、金網を洗って……。


「おい翔馬。先に風呂入ってきたらどうだ? 明日は結構歩くかもしれないぞ?」

「へ?」

「近くに水族館があるらしい。ほれ、美少女二人連れてハーレムデートに行ってこい」


 いや、美少女二人でハーレムって。彩乃はハーレムとか認めなさそうな雰囲気があるから怖いんだよな。白崎さんとトラブりそうで不安しかないわ。

 ただ、あいつの扱いは心得ている。なんなら取扱説明書とかも書けそうなほどにはな。

 それに、白崎さんと水族館デートとかチャンスじゃん。俺はまだ諦めていない。必ずや白崎さんと交際してみせる!

 つーわけで、ありがたく後片付けを親父に押しつけてさっさと風呂に走って行く。部屋から着替えを持ち出し、脱衣所に駆け込んで服を脱いでいく。

 この別荘のお風呂は露天風呂だとか。海を見ながら入る夜景風呂とか乙なものだ。

 まずは全身を洗わないと。シャンプーを泡立て頭を洗う。泡が目にはいってこないように目を閉じていると、不意に扉が開く音がした。


「……誰だ?」

「……お邪魔するね、翔真くん」

「ッ!? 白崎さん!?」


 思わず驚きで目を開いてしまう。すると、泡が目にはいってきて刺すような痛みが感じられた。


「んぎゃああっ! 目が、目があぁぁぁっ!」

「大丈夫!? ほら、洗い流して!」


 優しくお湯をかけて泡を流してくれる。ぬるま湯を用意して目を洗浄すると、ようやく痛みが落ち着いてきた。

 隣に白崎さんが座る。チラリと横目で見てみると、水着もバスタオルもない裸体だったので思わず目をそらした。ちょっと思春期男子に好きな人の裸というのは刺激が強すぎる。

 体を洗ってお湯に浸かろうと考える。すると、ほんのりと温かい泡が背中に付いた。


「んっ! え!?」

「せっかくだし、背中洗ってあげるよ」

「あ、ありがとう……」


 なんて、言ったけど冷静に考えたらこれ結構やばくないか!? 白崎さんが俺の背中を洗ってくれていて……洗って……。


「翔馬くん? お湯に浸かってないのに体が熱いよ?」

「気にしないで。男子は逃れられない反応だから」

「そうなの?」


 そうなんです。きっと、世の男子諸君ならこの気持ちを理解してくれることだろう。


「じゃあ、前も洗うね」


 そう言われ、お腹に手が回される。背中に柔らかな二つの感触が押し当てられた時、ついに俺の精神は限界を迎えた。


「前は大丈夫だから! そっちは自分で洗うよ!」

「え……あ、そ、そうだよね! ごめん、私……」

「いいよ。でも、ありがとうね」


 このままだと危うく狼になるところだった。そうなれば、いろんな意味で終わってしまう。危ない危ない。

 白崎さんが隣に戻る。それと同時に、再び誰かが入ってきた。


「翔くーん! 一緒にお風呂ー!」

「彩乃! もう高校なんだしそれは……」

「はぁ!? 時々一緒に入ってるじゃん! 今更気にしなくていいよ」

「気にするわ! 男女でお風呂は滅多にないからな!」

「幼なじみなら普通だって。それに、新一さんはすごくいい笑顔で送り出してくれたよ?」

「あのバカ親父には後で文句を言ってやる」


 止めろよ。年頃の男女がお風呂に一緒にはいるとか間違いが起きるかもしれないだろうが。……白崎さんにも言えることだけど。

 頭からお湯を被る。全身の泡を洗い流して目を開けると、白崎さんが詰め寄ってきていた。


「翔馬くん! 青山さんと一緒にお風呂入ってるの!?」

「ちょっと。なんで白崎もいるのよ。翔くんが入ってるの見えなかったの?」

「それを言ったら青山さんだって!」

「私は幼なじみだからいいのよ。てか、ほんとあんた最近生意気よね……」


 マズい。なにがどうなってこうなったのか分からないがマズい。俺の第六感がそう警告している。

 とりあえず、我が煩悩を追い出してお湯に浸かる。えー、検察の方。私がこの行為に及んだのは、喧嘩が収まったのかを確認するためだということを裁判ではご考慮ください。

 喧嘩中の二人に振り返り、笑顔で話す。


「ほ、ほら二人とも。ここからの景色はすっごく綺麗だよ!」


 その言葉に、二人がこちらを向いた。その際胸が見えてしまうが、喧嘩が収まったと確認するまで目を背けることは許されない。さあ! 逮捕するなら逮捕しやがれ!

 幸いなことに、二人の喧嘩はすぐに収まってお湯に浸かってくれた。おかげで俺も目をそらすことが出来る。

 露天風呂からの景色は本当に綺麗だった。でも、この景色よりも衝撃が大きい景色を見てしまったこの一時を、俺はきっと忘れることはないだろう。

 そして、案の定二人は揉めた。この分だと、明日はまた揉める気がするんだよなぁ。どうにか穏便に済むように考えないと。


「はぁ……」

「翔馬くん?」

「大丈夫? 疲れてるの?」


 疲れてますよ。原因は貴女たちですけどね。

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